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#27「灯火と花の匂い」

「安らかに眠ってください 過ちは繰返しませぬから」

原爆死没者慰霊碑より

これだけ強く心に響く言葉に触れたことは初めてかも知れない。1,2時間前まで飲んでいた日本酒のアルコールが消えるくらいの衝撃と胸を揺さぶる感覚。生が当たり前ではない、今私が立っている場所・見ている光景の何十年も前にこの地はすべてを失った。慰霊碑の前に添えられた花の匂いや先に見える原爆ドーム、そして決して消えることのない灯火。この火を消してはいけない。これから先に繋いでいかなければならない。

出張先での仕事が終わり、メンバーでの打ち上げ。上手くいったこともあれば、できなかった悔しさもある。それもすべてこれから先に出会う未来への糧にしていけばいい。個人としてだけではなく、チームとして。それは仕事仲間とだけではなくて、この灯火もおんなじなんだと思う。

深夜0時を過ぎた頃、ホテルに戻ろうとしていたところで、上司から平和記念公園に行こうと言われ、ついて行くことにした。いつもなら断りそうな誘いに、なぜかついて行く自分がいた。それもすんなりと。これもきっと何かの縁だったのだろう。私はきっと、この場所にこのタイミングでこのメンバーと訪れる運命だったのだ、そう言えるくらいの感情がその場所には存在していた。こんな台本、自分が映画監督でも決して書くことはできない。

初めて訪れた記念公園は想像以上にきれいに整備されていた場所だった。夜ということもあって、ほとんど人がいないが、それがまたいい。きっと昼間に来ていたらここまで心奪われることはなかったと思う。きれいな照明が道を案内してくれた先には楕円状のモニュメントをした慰霊碑がある。テレビでオバマ大統領が訪れていた場所だったから、すぐそれだと理解することができた。

慰霊碑の前に立って思わず足が止まり、釘付けになる。これだけ完璧で美しく、そして心をものすごくぐちゃぐちゃにさせる場所は今までに出会ったことがなかった。慰霊碑の前でみんなで語り合ったこと、上司の熱い言葉や人情味に溢れる温かい涙。夢も希望も、普通の日常も一瞬にして失ってしまった人たちがいる。時間は過去には戻らない。でも、記憶はきっと継承することができる。

”みんなの灯火が消えないで、灯され続けていればそれでいい”

上司がふと口にしたその言葉は、うわべだけではない本心のように思えて、心が震えた。私は恵まれた環境にいる。だからこそ、自分のなかにある火を燃やし続け、周りの人とともに幸せになりたいし、今日みたいな時間をこれからも見つけていきたい。

もしこれから人におすすめスポットを聞かれたら間違いなく広島の平和記念公園を夜に行くことをおすすめするだろう。それだけ深く心に刻まれた真夜中の散歩だった。

届けたい届けたい
届くはずのない声だとしてもあなたに届けたい
ありがとうさよなら言葉では言い尽くせないけど
この胸に溢れてる

「花の匂い」Mr.Children

白い仏花の匂いはそんな詞とメロディーを私に伝えてきた。私のなかの灯火が消えないように、これからも明かりを灯し続けていこう。

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