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元フィギュアスケート選手が描いた回想録「スピン」ティリー・ウォルデン

5歳からスケートを始めて、17歳までの12年間、フィギュアとシンクロナイズドスケートの競技を続けていたティリー・ウォルデンが描いたコミック。
ある作家の方がおすすめしていたのを機に購入して読んでみた。
(また、私自身がフィギュアスケートを良く見ることもあり興味を持った)


スケートの練習を中心に回るティリーの多忙な生活は、彼女にとってはその世界を形作る全てである。
転校、いじめ、友人関係、同性との恋、母親との確執が描かれる。そして、いくつかの事件がティリーを揺さぶる。

全てが思い通りに進む訳では無いし、時に悪い方向にばかり向かう。
上手く生きていくために周囲に同調したり、思ったことを声に出せないもどかしさ。自分にも経験のあることばかりだ。

日々起こることに一喜一憂し、時には絶望感を味わう様子が描かれる。
まるで、読んでいる自分も過去を呼び起こされるような気持ちになるのだ。
過去ではなく現在進行形かもしれない。

訳者のあとがきに「読み終わったとたん再び読み返したくなる」という言葉があるのだが、まさに私も同じだった。
また読みたくなってしまう。
ティリーは作品中でこう語る。

「このスポーツは生き方とセットだ。そこに選択の余地はない」

テレビで放映される試合に出場するのはトップ選手ばかりだ。
そこに映るトップ選手達にも、そこまで辿り着けなかった選手達にも、小さい頃からスケートと向き合い、様々な悩みや葛藤を抱えて続けてきたそれぞれの人生があるのだと改めて感じた。当人や周囲の人々のみが知る、華やかな世界の裏側だ。

今は、フィギュアスケートだけではなく、全てのスポーツの選手にとって辛い局面だと思う。

一刻も早く練習や試合を開始できる日常に戻ることを願っている。


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