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されど、人生は続く【のたんぷ『夜の帳は、まだ。』観劇レビュー】

糸の切れた凧のようだと思う。自分の人生についてを。
血縁も地縁も疎遠で、死に向かうには時間がありすぎて、その時間をやりすごすため仕方なく生活を営み、人生のこの先を共にする誰かもいない自分は、まさしく誰もが一瞬視界に入れてはすぐに忘れるそれだと思う。

のたんぷの『夜の帳は、まだ。』は、まさしくそういう人生を歩んできた男が主人公だった。
「晩年」という言葉からはじまる語りは、前述のようなどこにでもいる"主人公"になれなかった男――言ってしまえばモブキャラだ――について、それでもそこに人生はあったのだと伝えてくる絶妙な重さがある。

この演目において、主人公以外のほとんどの登場人物が、主人公の記憶や夢の中の回想として出てくる。主人公の視点で思い出される他の登場人物たちはみな一様に活き活きとしている。それが、主人公の人生と語りに一層影を落とす。
卑屈ともいえるその語りを、それでも一蹴はできない。
身に覚えがあるからだ。私たちはみな、他人の芝生を相当青く見積もっている。

視点、それがこの演目の要である。
ネタバレを避けるため、詳しくは書けないのだが本作はこの視点による仕掛けが見事だ。朗読劇でありながらカメラワークの技術が光っている。
それが相俟って、終演後には一本の映画を観終わったような充実感がある。
本作はウェブ上に脚本が公開されているが、この仕掛けについては劇場へ行ける人は是非劇場へ行ってもらって、その場で体感してほしい。
この仕掛けによって陰鬱とした孤独な男の物語にカタルシスがもたらされるのだ。

糸の切れた凧の行方は誰も知らない。気にも留めない。
どこから来たのか、どこへ行くのか、誰のものなのかも分からない。
そこには大いなる自由と共に孤独と、ともすれば空虚が伴っている。

されど、人生は続くのだ。
どうしても人との繋がりが途切れがちなこの時世に、是非この演目を観てほしいと思う。
劇場を出たらしばらくぶりの友人に連絡を取りたくなるかもしれない。
僕も地元の友人にメッセージを送ってみた。返事はまだ来ない。

『夜の帳は、まだ。』は、のたんぷ-NOT AMP-なな 緩解のリーディング4本立て▲「霧香白夜-むこうびゃくや-」内で10月27日(木)から30日(日)までアトリエTANTOOにて上演です

公演名:のたんぷ-NOT AMP-なな 緩解のリーディング4本立て▲
    「霧香白夜-むこうびゃくや-」
作・演出:松本隆志(:Aqua mode planning:)

【日時】
2022/10/27(木)【A】20:00
2022/10/28(金)【B】20:00
2022/10/29(土)【A】12:00・【B】15:00・【A】18:00
2022/10/30(日)【B】12:00・【A】15:00・【B】18:00
(受付開始・開場は各回20分前から)

【A】→「霧はいつか晴れる」「香り纏うヴェール」上演
【B】→「白痴は気付かない」「夜の帳は、まだ。」上演

宮本(筆者)は【B】の「白痴は気付かない」に出演しております。
「夜の帳は、まだ。」と一緒にご鑑賞いただけますので是非よろしくお願いいたします。

【料金】
当日・予約:2000円 U22(22歳以下):1000円
ABセット:3000円

【予約】
宮本扱い専用フォームはこちらから
宮本以外の扱いでのご予約・残席確認はこちらから

会場:アトリエTANTOO
https://tanto222.jimdofree.com/
日暮里・舎人ライナー「扇大橋駅」西口徒歩2分

その他の情報につきましてはのたんぷ公式ウェブサイトよりご確認お願いいたします。

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