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ふなずし、肉の熟鮓、RTA熟鮓…!?寿司のルーツを辿る数千年の味覚旅行。

久しぶりのnote更新です!
昨年6月に京都で酒屋「発酵室 よはく」をオープンし、仕事も暮らしも大きく変化したのですが、これに関しては別途note書くとして。
今回は興奮冷めやらぬ余韻のままにレポートを書こうと思います。

先日、私の店で「なれずし友の会」が開催されました!

発起人は、三重県で麹作りのワークショップをされているつむぎさん
こんなツイートをされていたので「是非うちで!」とご提案し、実現しました。

そこから私が勝手に会に肉付けしまくり、なんやかんやあって発酵界のスーパースター小倉ヒラクさんが参加されたり、ラオス料理人の小松亭タマサートさんにラオス料理フルコースを作っていただいたりなど、ツワモノたちが集うえらいこっちゃな会に。

むちゃくちゃ文化的で美味でハードコアな会だったので、余韻に浸りながらレポートを書こうと思います!


寿司の原型、「なれずし」について。

本編に入る前に、まずは「なれずし」について簡単に説明しましょう。

「なれずし(熟鮓)」とは、主に魚を米と塩で漬けて乳酸発酵させたもの。
日本では滋賀県のふなずし(鮒鮓)が有名かと思います。その独特な発酵臭と強烈な酸味は好みが分かれますが、一度ハマると抜け出せなくなる魅力があります。

沖島で初めて仕込んだ鮒寿司。抜群に美味しくできました!

鮒寿司の基本的な作り方は、「塩漬けした鮒をよく洗って軽く干し、硬めに炊いたご飯と共に容器に仕込み、重石をして半年ちょっと発酵させる」というような感じ。塩漬けや重石の具合、発酵期間などは物によって異なりますが、ザックリ言うとこれが熟鮓の基本的な作り方です。

魚を塩漬けすることで水分を抜き、米を入れることで乳酸発酵を促進し、重石をして嫌気状態にすることで、嫌気性の耐塩性乳酸菌が増殖できる環境を整えます。乳酸菌が増えることでpHが下がって酸性になり、雑菌が増殖できないことで長期保存が可能となり、さらに酸の働きで魚の小骨が柔らかくなり、美味しくなります。しかも整腸作用も高い。まさに人類の叡智が詰まった、理にかなった食べ物です。

2022年の仕込み。鮒にご飯を詰めまくって重石をします!

よほどの発酵ラヴァーじゃない限り、なかなかなれずしを口にする機会はないかもしれませんが、日本人が大好きな「お寿司」の原点は、この「なれずし」なんです!

これは私が握ったべっこうずし。

一見、味も見た目も似ても似つかない熟鮓と現代のお寿司ですが、酢飯を使う握りスタイルのお寿司になったのは割と最近のことで、それまでは寿司=熟鮓でした。

さて、いかにして熟鮓が現代の握り寿司に変わっていったのか?
普通に説明するとそれだけでnoteを書き終えてしまいそうなので、今回の「なれずし友の会」を振り返りながらお話ししていきます。

熟鮓の起源は中国〜東南アジアにあり!!

寿司=日本のソウルフードというイメージが強いですが、実はその原型である熟鮓は中国西方〜東南アジアから伝わったとされています。

特徴的な発酵食品は、食材がいつでもどこでも手軽に手に入りやすい温暖な地域や沿岸地域よりも、海から遠く離れた内陸部や山岳地帯などの辺境や雪国に多く見られます。食糧確保が容易じゃないことから、保存食としての発酵食の知恵が生まれることが多いんですよね。

熟鮓もその一つで、海から遠く離れた中国西方の雲南省や、ミャンマー、ラオス、タイ北部などの内陸部にルーツがあります。

今回、小松亭タマサートさんにラオス料理をお願いしたのは、ただ私がラオス料理を食べたかったからだけでなく(いや、普通に食べたいけど)、ラオスは熟鮓の故郷だからです。

左から時計回りに「ソムパー」、小アジ熟鮓、沖島ふなずし。

左のレモンが添えられているのは、ラオス式の熟鮓「ソムパー」。
ラオス語でソム=酸っぱい、パー=魚
今回は鯉のソムパーを小松さんが作ってきてくれました!

ソムパーは日本の熟鮓よりも発酵期間が短く、今回のソムパーは2週間ほど。しかも魚は事前に塩漬けせず、生のまま塩とご飯で漬けるそうです。
プリッとした鯉の食感と優しい酸味が美味しく、あまり塩辛くない塩辛のようにも感じました。焼いても美味しいそうです。

そして、今回は私もラオス式の熟鮓を作ってお出ししました。

熟鮓=魚とは限らない!! 肉の熟鮓ソムムー

私が作ったのは、豚肉の熟鮓「ソムムー」。
ムー=豚で、ソムパーの豚肉版です。

「え!?すしなのに肉!?」とお思いの方も多いのではないでしょうか。
そう、熟鮓は魚とは限らないのです!!

海に囲まれた日本では魚の熟鮓が主流ですが、海なし国のラオスでは、豚肉すら熟鮓にしてしまいます。これがまあ美味しくて…!軽く炙っても、生で食べても美味。ソムムーの作り方はTwitterを是非ご参照ください。

そんな熟鮓が日本に伝わり、平安時代の書物『延喜式』には、熟鮓を意味する「鮓」という言葉が登場します。
この辺りの歴史をもっと知りたい方は、小倉ヒラクさんの「オッス!食国(おすくに)」の第6章「おすし」をお読みいただくのがオススメです◎

今回は、こちらの本でも紹介されている「コノシロなれずし」も登場しました!

こちらはつむぎさんの持ち寄り。
三重県伊賀市の佐々神社の例祭「このしろまつり」で供される神饌であるコノシロなれずしは、塩漬けしたコノシロを柚子と柚子の葉っぱとご飯で漬けたもの。こちらも発酵期間は2週間程度と浅めで、酸味はさほど強くなく、塩味がしっかり感じられます。これはお酒を誘う美味しさでした…!

コノシロなれずしに関してはつむぎさんのnoteで詳しく紹介されていますので是非チェックしてみてください!(今回お持ちいただいたのは、この時に仕込んだものを冷凍しておいたものだそうです。)

歴史的考察も面白い!!

まだまだ序盤。書き終わる気がしません。どんどんいきましょう!!

これぞ発酵の力!熟鮓は資源の有効利用にも一役買う

滋賀県では、鮒寿司だけでなく様々な琵琶湖魚で熟鮓が作られており、その一つに「こけら寿司」があります。
琵琶湖の高級魚ビワマスを塩漬けし、ご飯と麹、生姜で漬けたもの。
今回は、やまきひさこさんが滋賀県長浜市で仕込んだものを持参してくださいました。

前々から「そのまま食べて美味しいビワマスを熟鮓にするなんて贅沢だよな〜」と不思議に思っていたのですが、それには理由がありました。

エステル系の吟醸っぽい香りが印象的でした。

こけら寿司は12月頃に仕込んでお正月に食べるハレの料理なのですが、ちょうどこの時期のビワマスは産卵期で卵や白子にたっぷり栄養を蓄えるため身はカスカスで脂が乗っておらず、あまり美味しくないそう。
そんなビワマスを美味しく食べるために、熟鮓は最高の方法なのです。

熟鮓は長期間発酵させるため、脂が乗っている魚で仕込むと脂の酸化臭がして美味しくなく、熟鮓にするのはそのまま食べて美味しい脂が乗ったビワマスよりも、脂がなくて身がカスカスなビワマスの方が向いているのです。

しかも、これらのビワマスは寿命を迎えて死んでしまうそうなので、湖魚の資源利用としては素晴らしいそう。(全て小松さんが教えてくれました。)
発酵って、人にも自然にも優しい魔法のような技術なんだなと感動しました…!

押し寿司なくして熟鮓語るべからず!

さて、一旦ここで寿司のルーツに話を戻しましょう。

現在主流の握りスタイルのお寿司は「江戸前寿司」と呼ばれ、江戸時代後期に江戸で生まれたものですが、それ以前の寿司といえば関西の「押し寿司」が主流でした。
握り寿司だけ見ると熟鮓との親和性が分かりづらいかもしれませんが、押し寿司を見ると一気に景色が変わってきます。

こちらは、料理人・ライター・編集者の三足の草鞋を履くヒラヤマヤスコさん(おかん)作。生粋の関西人のヤスコさんは押し寿司マスターで、鯖寿司も柿の葉寿司もお手のもの。
今回は発酵たけのこなどの種々の発酵ブツを混ぜ込んだ酢飯を使った鯖の押し寿司を持ってきてくれました。

ご飯とお魚に重石をする感じ、熟鮓に似ていませんか?

そう、押し寿司は即席熟鮓のようなもの。名付けてインスタント熟鮓!?
本来は時間をかけて乳酸発酵させる熟鮓を、酢を使うことで早く酸っぱくしたようなものなのです。これが原型となり、握り寿司に発展していきます。

なお、握り寿司が生まれた経緯をざっくり言うと、せっかちな江戸っ子が一口でパクッと食べられる江戸時代のファストフードとして生まれ、さらにそこに知多半島のミツカンが開発した安価で美味い粕酢(赤酢)が北前船で江戸まで運ばれ、一大ブームとなったようです。

今回は小松さんにお寿司も握っていただいたのですが、これまた単に私がお寿司を食べたいからではなく(いや、食べたいけど)、寿司の源流である熟鮓〜現代の握り寿司の系譜を辿ってみたかったから。

一晩で数千年、数千キロを旅する味覚のトリップ。食って冒険ですね。
どんな形でも、やっぱりお寿司は美味しいねえ…としみじみ。

ヤスコさんがハンドキャリーしてくれた生しらすも絶品!

熟鮓と料理の数々を一挙ご紹介!

「ふう、やっと書き終えた」と思っていましたが、全然終えていないことに気がつきました。まだまだ色々な熟鮓や料理が登場したので、ここからはバババっと一挙にご紹介していきます!

今回めちゃくちゃ面白かったのが、ヤスコ作のRTAなれずし

鰯と山椒のRTAなれずし

本来は時間をかけて発酵させる保存食であるなれずしを最速で再現する(RTA=リアルタイムアタック)という、逆説的な面白さを含んだこの料理。
ヤスコさんの参加が決まったのが直前だったため、会の数日前に「なれずしっぽいものを作ろう!」と知恵を絞り爆誕しました。

鰯に塩をして広辞苑で重石をし、炊いて冷ました米と塩、新生姜の泡菜、塩麹、山椒の葉、実山椒の醤油漬け、粉山椒を混ぜて鰯と共に容器に仕込み、常温で2日ほど置いたそう。水分を多くして重石をすることで嫌気性を高め、最速で発酵させたとのこと。

さすがは天才ヤスコ。なれずしに近い味わいがしっかり再現されており、乳酸発酵の酸味と山椒の風味が爽やかで、めちゃくちゃ美味でした。私も作ってみよう。

近所に住む魚突き料理人作。

こちらはウスイエンドウとメズシ(ハス子の熟鮓)の白和え。
料理愛好家?の友人が道の駅で買った安物のメズシを刻んで白和に仕立ててくれました。「安い熟鮓はそのまま食べるよりもこういう食べ方をすると旨い」とのこと。わかります、熟鮓もピンキリですもんね…。マイルドな白和えにメズシの酸味がアクセントになって美味しい!

こちらは上級麹士の山本茜さん作の鮒寿司飯とサワークリームのディップ。
鮒寿司の酸味とサワークリームの酸味が渾然一体となり、爽やかな酸味に!
これは白ワインにも合いそうだな〜。

水琴窟さんの鮒寿司も絶品でした!
養殖の大きめな鮒だそうで、卵の色が黄色っぽい!密度も高い感じがしますね。そして、さすが盛り付けがプロ。

錚々たる熟鮓メンツ。

同じく水琴窟さん作、大皿右上の小鯵のなれずしは、むっちりとチーズのような食感と風味で衝撃的でした。発酵期間は1ヶ月ほどとのこと。山椒と青唐辛子入りで、ピリッと爽やか!

そして、小松さんのラオス料理も相変わらず絶品!

魚のミント和えコーイは「膾(なます)」の原型だとか…!
焼きなすのチェオ(ディップ)
ゲーンノーソム(発酵たけのこのスープ)

ちなみに私は、パンチのある料理の"余白"として、優しい味わいの鮒寿司飯のポテサラを作りました。食べ物過多すぎて、他に作ろうと思っていた料理はほとんどお蔵入り…。

なれずし友の会まとめ

いやあ…各々で熟鮓を持ち寄り、食べ比べながら発酵トークに花を咲かす、めちゃくちゃ有意義な時間でした。

しっかりと現代の庶民に継承されている熟鮓界の雄・鮒寿司から始まり、資源利用としての可能性も秘めたビワマスのこけら寿司、神饌としての存在意義が強いコノシロなれずし、なれずしの源流とも言えるソムパーとソムムー、さらにはRTAなれずし、時代を進めて押し寿司、握り寿司。なれずしの世界は深い。まさに沼。

へしこの熟鮓を仕込むところ

今回は登場しませんでしたが、他にも福井のへしこ熟鮓や滋賀のドジョウ熟鮓、和歌山の秋刀魚熟鮓、北海道のニシンのいずし、石川のかぶらずしなど、熟鮓の世界はまだまだ広い!!

小倉ヒラクさんからはインドの「ナリ」という塩も米も使わない熟鮓のお話も伺い、これだけ熟鮓への理解を深めたはずなのに最終的には「熟鮓とは…!?」と、熟鮓の概念から崩壊してしまいました。

ただ一つわかるのは、熟鮓はその土地の気候風土に合った知恵や工夫、信仰、そして「美味しいものを食べたい」という人間の飽くなき欲望によりここまで多様化し、まだまだ進化するポテンシャルがあるということ!
これからも発酵食の世界を楽しく冒険していきたいなあ。

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