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人が人に寄り添う社会にするために — 犯罪予測が描ける未来とは?

こんにちは、Plug and Play Japan Fintech Program ManagerのHarukaです。これまでMediumにてFintechプログラム採択スタートアップインタビュー記事を紹介させていただいていましたが、今後はnoteでも不定期に様々な企業のご紹介をさせていただきます。
さて、今回は、株式会社日本総合研究所が運営するインキュベーション・アクセラレーションプログラム「未来2020」においてAI部門最優秀賞を受賞、2020年2月よりキックオフしたGoogle for Startups Acceleratorへの採択等、スタートアップ業界での注目を寄せる株式会社Singular PerturbationsのCEO梶田真実さんにお話を伺いました。

What is Singular Perturbations?
世界最高精度の予測手法を含む独自のアルゴリズムに基づき、犯罪を予測するシステム”CRIME NABI” を開発。リアルタイムに犯罪に関連するデータを収集し、犯罪を予測し、リスク可視化・安全な経路提案・警備人員計画・犯罪要因分析などの犯罪リスクヘッジソリューションを提供されています。


Startup Interview: CEO Mami Kajita

-犯罪予測システム「CRIME NABI」とはどのようなものですか?
理論物理学の手法を用いた独自の時空間解析アルゴリズムを開発し、過去の犯罪データとリアルタイムに収集したデータを学習し、いつ、どこで未来の犯罪が起こり得るかを予測する「犯罪予測ヒートマップ」を構築しています。犯罪に関するデータ数は小さいことが多く、普通の機械学習の手法では精度が出にくいことがあるんですが、犯罪の傾向をモデリングして理論物理の手法を組み込むことで、計算を安定化、精度を向上させることが出来ています。
例えば、「殺人」のような犯罪件数に関するデータが少ない罪種についても、より発生件数の多い「銃犯罪」や「違法薬物所持」等のデータと掛け合わせて予測する手法等を組み込んでいます。犯罪の傾向は常に変化しているので、時間や空間の変化に合わせて「今、この場所」に即した予測データを常時アップデートしています。昨年(2019年)、アメリカ、シカゴのオープンデータを用いて犯罪件数の多い10罪種から予測精度を検証、既存手法に比べて優位性があることが確認され、世界最高精度を証明することが出来ました。
-現在、どのような場面において「CRIME NABI」は活用されているのですか?
情報通信研究機構(NICT)の委託研究プロジェクトに単独採択していただき、2019年の9月から市民ボランティアの方々にご協力いただいて犯罪予測に基づくパトロールの実証実験を開始しています。地域の安全性がどのように改善されたか、今後アンケートやインタビューから検証する予定です。これに加えて、来年度は24時間体制で自治体とパトロールを行う実証実験を行う予定なので、より具体的な効果検証の準備を進めています。(*詳細は今年4月頃情報公開予定です!)
現在は東京大学や警察庁、保険領域における事業会社さんとの取り組みも進んでおり、産学官を横断した社会的なニーズの高まりを感じています。

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犯罪予測システム「CRIME NABI」(ロゴイメージ)


-貴社は2017年に創業されましたが、現在までのあゆみを振り返ると周囲の環境等、変化はありましたか?
創業時は犯罪予測だけではなく、時空間分析技術の汎用性の高さを活かし、犯罪に関わらないデータの予測を事業として扱っていました。軽犯罪情報というのは全国の警察からメーリングリスト上で少量ながら公開されていたんですが、日本で公開されている情報と、各国のオープンデータを使って何か出来ないかと考えていたところに、オープンデータを活用したシビックテック関連のコンテスト*があり、犯罪予測に関する事業アイデアを発表していくつかの賞を受賞しました。コンテストを経て得た人脈が事業を進めるきっかけになったり、内閣府の方々とも公開データに関する要望や提案についてお話をさせていただき、より広いデータへのアクセスが可能となり、少しずつ事業化へと進めることができました。犯罪予測技術は政府機関に最も需要が高く、納入には入札が必須になるんですね。ベンチャー企業としては1社で取り組むことが難しいため、他機関と協力してB2B2G案件を施行します。様々なプロセスに時間がかかってしまうので、あまりベンチャー向きの事業とはいえないですね(笑)

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*受賞歴:
Linked Open Data チャレンジ Japan 2016 データサイエンス賞(2016)、VLED(オープン&ビッグデータ活用・地方創生推進機構)の利活用・普及委員会 Disruptive Innovation Award(日本オラクル)賞(2016)、未来2020 「ロボット・AI・IoT・IT融合部門」最優秀賞(2020)、他。

-でも、事業をピボットされたということではなく、もともと犯罪予測領域を念頭に置いて創業されたんですよね?その理由についてお聞きしたいです。
イタリアで滞在していた際に度々スリの被害にあったことが原体験です。イタリアには一見穏やかそうに見えてスリが頻出する危険な地域があるのですが、そのような典型的な場所で被害に遭ったことで、「防ぐことができるタイプの犯罪」を解消したいと考え始めたことがきっかけですね。
私がスリの被害に遭った時は、英語の通じない環境でイタリア語をまともに話せず、滞在先から20キロ以上も離れていて、家族も海外出張中という非常に心細い状況だったのですが、ボローニャ警察に保護された際に警察官の方が私のことを気遣い手紙をくださって、すごく励まされたんです。この経験から、人が人の気持ちに寄り添うべき業務に集中できるようなサポートがしたいと強く考えるようになりました。最終的にはこの手紙をくれた方にも自分の事業を通していつか再会したいと考えています。

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黒髪の警察官の方が「同じ髪の色だから、助け合いましょう」という意味を込めて日本語を調べながら書いてくださったそう。


-創業期から振り返ると、チームメンバーの変遷はいかがですか?
創業期は2名でスタートしたんですが、情報通信研究機構(NICT)の委託研究ではプロジェクトチームを編成することができ、様々な分野の方々と協力しながら多角的な目線でシステムを構築することができたと感じています。これまではPh.D取得者が8割強という研究者集団のチーム編成だったのですが、今年は初めての資金調達を実施する予定なので、調達後はエンジニアの採用強化などチームを増やして様々な分野で活躍される方々との協力体制を作りたいと考えています。
-どのような方にチームに入っていただきたいですか?
職種はインフラ構築が可能なフルスタックエンジニアを募集予定です。犯罪予測に興味がある方が大前提ですが、技術が大好きな人は、現在の個性的なチームメンバーともテクニカルな話が弾むように思います。

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チームメンバーとの打ち合わせの様子。右: 梶田さん、左手前:フロントエンド開発担当の佃さん、左奥:主席研究員の村上さん


-現在の梶田さんの日々の業務内容や取り組みについて教えてください。
全て、ですね!私のバックグラウンドは研究職なので、本当は研究へ専念したい気持ちがあるのですが、現在は研究、受託案件、開発から資金調達、営業、採用準備まで、ほぼ全て現場で担当しています。業務内容によって集中度や頭を使う部分の階層がいくつも分かれるので、切り替えが難しいと感じることもあります。チームを強化できることが楽しみですね。
-事業の全体統括の傍ら、Plug and Playのプログラムも積極的に参加いただいていますが、現在の感想はいかがでしょうか?
スタートアップとして成長するということがどういうことなのか、周りの方を見ながら勉強させていただける機会だと感じています。これまではB2Gの領域に注力していましたが、少しずつB2B、B2Cへの提案ができる準備が整ってきたと思い応募させていただきました。大企業パートナーの皆さんは新規事業に対して意欲的で熱意がある方が多く、お話がしやすいと感じています。

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Plug and Play Shibuyaにて、プログラムイベントでピッチをされる梶田さん (2019.12)


-最後に、今後の展望は?
大きく分けて2つあります。
1. これまで以上に大きな犯罪、重犯罪を防ぐ仕組みを作っていくこと」
これは政府や警備会社が保有するデータを活用しながら実践的に犯罪の防止力を高めていく取り組みですね。高度なセキュリティ人材の教育やトレーニングという活用事例も作りたいです。
2. 生活の中に自然に犯罪予防ができる仕掛けを作っていくこと
例えば、スマートフォンのマップで利用可能な最短ルート検索機能に、安全面に配慮したナビゲーションができるルートマップの機能搭載ができると考えています。スマートシティに関わる事業や、旅行者向けの新しい保険商品など、様々なサービスの裏側で安全を担保できる仕組みを作りたいです。
犯罪分析には教育コストがかかるという課題に加えて、本来、市民の警備やパトロールを担当する方というのはデータ分析に長けている必要はないはずなので、実際に人を守る、人のケアをするというコアな業務に集中できる未来を描きたいと思っています。
-梶田さん、ありがとうございました!



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