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死後の物語を読んで、「生きる」ことを考える…「青空の向こう」の感想

アレックス・シアラー「青空の向こう」金原瑞人訳

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あらすじ                  ぼくはまだ決めかねてた。アーサーは僕に背中をむけて歩きだした。そのとたん、エギーやママやパパや友だち、ぼくが知ってる人たちの顔が次々に浮かんで、どうしてももう一度会いたくなった。みんながいなきゃ生きていけない。死んでることだってできない。すぐにぼくは決心した。アーサーの後を追いながら呼びかけた。    「待って、アーサー。ぼくも行く」                    アーサーは立ち止まってぼくを待った。それからふたりで駆けだした。〈生者の国〉を目指して。(本文より)※カバーから

 死んでしまった少年ハリー。死後に出会ったアーサーとともに、現世へ降りていく。

 「死」というものに関心があったから、それをテーマにしている作品とあって、読んでみようと思った。

著者:アレックス・シアラー         英国スコットランド北部のウィックに生まれ、現在はサマセット州に住んでいる。テレビやラジオ、映画、舞台のシナリオライターとして活躍したあと、数多くのヤングアダルト小説を執筆、ガーディアン賞にノミネートされた『スノードーム』(求龍堂)などを生みだした。映画やテレビシリーズになった作品もあり、日本では『チョコレート・アンダーグラウンド』(求龍堂)を原作としたコミックやアニメ映画が制作された。(カバーの文より)

 「チョコレート・アンダーグラウンド」は読んだことがあった。著者紹介で同じ作者であることに気づいた。

 どちらの作品も、少年たちの描写が生き生きとしていて好ましかった。

感想

 誰しも、「死んだらどうなるの?」と考えたことがあると思う。

 死ぬ時の苦しみや痛みも怖いけれど、死んだ後に「無」になるかもしれないことが、私には恐怖だったりした。

 そういう意味では、最後ら辺に、森の葉っぱに生命が例えられる所は、とても素敵な考え方のような気がした。

 巡り巡る生命。

 その考え方は、好き。

 でも、この本は、訳者が述べているように、

死についての本でもなく、死後の世界についての本でもなく、この世界で生きることについての作品

 だと、私も思う。

 やり残したことがあって、「彼方の青い世界」に行けない人たち。

 その人たちは、哀しい。

 姉に酷いことを言ったまま死んでしまったハリー。

 顔も知らない母親を死んでから150年も探し続けているアーサー。

 誰も彼のやり残したことを知らない(言葉が分からないから)けれど、遥か昔から何かを探し続けているウグ。

 大切な犬を探し続けて、街灯に取り憑いているスタンさん。

 死後に後悔しないために、今を精一杯生きよう、なんて、綺麗な言葉は好きではないけれど。

 それでも、生きている今、ちょっと立ち止まって考えてみるのも必要かもしれない。

 今の状況が、永遠には続かないこと。

 当たり前が、実は当たり前ではないこと。

 自分が死んで見えてくることもある。でも、誰しも、ハリーのように死後、現世を見に行けるわけではない。

 人は月日と共に、忘れていく。自分が忘れられていく状況を、ハリーのように見ることがないのは、ある意味、幸運かもしれないけれど。

 自分を悼む家族を見ることがないのも、ある意味では、救いかもしれないが。

 生きているときは気づかなかったこと。どんなに大切な相手がいたか。

 生きているときは意識していなかったこと。友人や嫌いだった人が、本当はどんな気持ちを抱いていたか。

 それを知ることは、痛みを伴うことだ。けれど、やっぱり、知ることは必要なのだと思う。

 だからやっぱり、そういったことを生きているうちに気づくこと、意識することは、大切なことだと思う。

 だって、そう、死んでしまったら、気づいて後悔しても、遅いのだ。

 幽霊になって謝れるとは限らないのだから。

 「死」をテーマにしているけれど、しかし、この本は悲しいだけの話でもないし、感動を求めるだけの話でもない。

 一人称で語られるハリーの言葉は軽快だし、この少年に共感できる部分も多々ある。

 「死」は遠いものではなく意外と身近にある。

 でも、「死」は恐ろしいものではない。

 「生」と「死」は循環するのだ。自分はまた、世界の一部になる。

 本当のところは分からないけれど、そう信じられたら、とても素敵だと思う。

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