小説 あべこべのカインとアベル③ー栞の回想
たん、たん、たん、とリズムをつけながら、螺旋階段を上った。両手で、胸元に赤い表紙の本を抱えて。
私は、この手に書物がある、それに触れているというだけで、幸福だった。算数の教科書でさえ、文字が書かれているものはなんでも。私は私の名前の通り、書物のページを旅する栞のようなものだった。
私の家には図書室と呼ばれる一角がある。父は英文学、母は美術史の研究者で、彼らは大の本好きだった。大量の本が私の家にはあり、それ専用の一角を、両親は家を改装までして作ったのだった。
その