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#小説 あべこべのカインとアベル/シスター・コンプレックス

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自分の書いた小説を一作品、まとめています。ある少女の回想が主です。短編です。
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記事一覧

小説 未来へ―あべこべのカインとアベル/シスター・コンプレックスの後に

「今日はこれで失礼するね」  佐原真幌は、机の上に散らばった紙を集めながら、目の前の青年…

neko
3年前
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シスター・コンプレックス⑥

 体が痛くて目が覚めた。  気づくと、私は自分の部屋の机に突っ伏して寝ていた。  嫌な夢…

neko
3年前
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小説 シスター・コンプレックス⑤

 叫び声が誰のものだったのか、わからない。おそらく私自身だろう。声を挙げられる状態だった…

neko
3年前
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小説 シスター・コンプレックス④

 この夏休みに、特にこれといった予定があるわけではなかった。  高校の課題をこなし、栞の…

neko
3年前
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小説 シスター・コンプレックス③

「カメラ?」  栞は私の手にしたものを見て、首をかしげた。  「そ。部屋を掃除したら出て…

neko
3年前
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小説 シスター・コンプレックス②

 何かに思い悩んだ時、私は部屋の片づけをする癖がある。  頭を空っぽにして、要るものと要…

neko
3年前
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小説 シスター・コンプレックス①

 私が姉の模造品だと感じたのは、いつくらいからだったろう。  五歳違いの姉は、いつも私の前を歩いていた。いや、私だけでなく、同年代の子たちの前を。  人は彼女のような人間を天才と呼ぶ。  そう、彼女はほとんどの能力において、ずば抜けていたし、それを鼻にかけない心を持ちで、人心を握るのがうまかった。しかも、それらを無意識のうちにやってのける。  彼女は私の両親の自慢だった。  対して私は、そう、自分でいうのもなんだが、出来は悪いほうではなかった。むしろ良いほうだった。

小説 あべこべのカインとアベル⑧承前ーシスター・コンプレックス前話

 なぜ栞がそんな話を私にしたか?  その答えは明確だったし、その話の真偽はどうあれ、とに…

neko
3年前

小説 あべこべのカインとアベル⑧―栞の問いかけ

 水穂、この話をどう思う? なぜ私があなたにこの話をするのか?  また、いつものように、…

neko
3年前
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小説 あべこべのカインとアベル⑦

 落ちていく彼の姿は、一瞬だけれど、まるで静止画のように、私の目に焼き付いている。  彼…

neko
3年前
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小説 あべこべのカインとアベル⑥

 ひと夏、それは日数でいえば、どのくらいのことを指すのだろう。少なくとも、この時のひと夏…

neko
3年前
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小説 あべこべのカインとアベル⑤

 その日から、カインは私の兄になった。  その夜のうちに、彼は両親と話し合っていたようだ…

neko
3年前
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小説 あべこべのカインとアベル④

「こんにちは」  彼は窓辺から降りて、私の前まで進み、膝をついて、私の落とした本を拾った…

neko
3年前
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小説 あべこべのカインとアベル③ー栞の回想

 たん、たん、たん、とリズムをつけながら、螺旋階段を上った。両手で、胸元に赤い表紙の本を抱えて。  私は、この手に書物がある、それに触れているというだけで、幸福だった。算数の教科書でさえ、文字が書かれているものはなんでも。私は私の名前の通り、書物のページを旅する栞のようなものだった。  私の家には図書室と呼ばれる一角がある。父は英文学、母は美術史の研究者で、彼らは大の本好きだった。大量の本が私の家にはあり、それ専用の一角を、両親は家を改装までして作ったのだった。  その