初めて会う男

むかしむかし、あるところに初めて会う男の逢瀬の前に
朝から、他の男の顔ばかり思い出す女がいた。
ああ。今日、あの男に初めて会うのか
と思いながら、朝起きた瞬間に
懐かしい男の顔を思い浮かべる。

今、どうしているのか元気なのか。きっと元気なのだろうが、生きているのか。つらつらとそんなことばかり思い出しながら
いつ会えるかもはやわからない男の顔ばかり思い出したところで
何かが始まるわけでもなし。

いい加減、考えることをやめにしようと思って見ても
どれだけ焦がれていたかをなぞるように思い出される。

私がこんなにも思い返したところで、懐かしい男の脳裏に浮かぶ景色に私はいないのだろう。期待することもなし、欲することもなし。
ただだらだらと垂れ流しのようにとても好きだったのだなということをさめざめと、振り続ける雨の音聞きながら思い出される。

そうこうするうちに、時計はすすみ夜はやってきて
さあ今から初めて会う男のところへと向かう時間がやってきた。
女は、気持ちを走り書かせながらも、支度をし始める。
どんな男なのか。
顔は風貌は、魂眠る心のありかは。
懐かしい男の記憶がすこしでも薄らいでいくように。
いや、きっとそれはないだろう。と思いながらも
くるべき時に備えて、赤い唇を右手に持った。

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