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僕らのお酒生活

もう酒を辞めよう。次の日は飲み会だった。

同僚の紹介で日本酒を楽しく飲むという会に参加してきた。

知らない人と話すのは得意じゃないし、
最近お酒を飲んだら周りに悪態をついてしまい
終電を逃して人に迷惑かけることもザラなので
ぶっちゃけ直前まで日和ってたけど
ここで断るのが一番迷惑やろ。とごもっともな意見で自分を説得して家を出た。
ノンアルコールもOKらしいので、
呑まずにおしゃべりだけして帰るのもいいなと。

お酒は持ち寄りで、各自好きなものを持ってきてくださいって感じだったのでとりあえず新参者だし、会の趣旨に沿って日本酒を買うべく高島屋に寄った。

とにかく僕はビビリなので外したくない。
日本酒は特に詳しいわけでもないので、
無難な有名どころを抑えるしかない。

インターネットでいろいろ検索し
悩んだ挙句、一つの答えにたどり着いた。

獺祭だ。獺祭しかないと思った。
酒飲みは皆口を揃えて言うんだ。
獺祭がうまいって。

実際に僕も獺祭は飲んだことがあって美味しかった。香りもいいしコクもある。何よりスッキリして飲みやすい。自身で味の知ってるものを人に薦めることができる喜びをかみしめた。

高島屋で獺祭を買うべくお酒コーナーに。
獺祭の前には、髪の長い中国人女性が一人。
お土産なのだろうか。じっと見つめて写真を
撮って誰かに送っている。

僕は彼女の邪魔にならないように
隣にあった八海山や山田錦を眺めたり、
ちょっと移動してご当地ビールを見ていた。

彼女は次に日本酒担当と思われる男性店員に
英語で声をかけていた。

彼女はそれぞれの値段の違いを知りたいらしく、和食の板前のような服装をしている彼は

「説明できるかな…」とこぼし
それぞれの獺祭の味や製法の違いを英語で
説明し始めた。

やべぇな。高島屋。
和食の板前みたいなおじさんが
ペラペラ英語で説明しとる。
ギャップで頭おかしくなりそうやった。
最後は彼女が一番欲しかった獺祭が
売り切れで、入荷はいつされるの?みたいな話になってG20の影響でわかんないんだよ。と
言ってなんか二人とも笑ってた。
母国語じゃないのに。わろてんか。やべぇな。

その後二人とも消えて僕はやっと獺祭の前に
たどり着いたんだけど、ちょうどその時女の人3人組が日本酒コーナーに現れて僕は直感的に
この人たちもしかして日本酒会にくるんじゃね??と思って慌てて1600円くらいする獺祭を
手にしてそそくさとレジに向かった。
別に見られてもなんの問題もないんだけど、
なんか一人で真剣に悩んでるところを
見られるのがすごく恥ずかしくなって逃げてしまった。

3人組もすぐにレジに向かってて
りんごの可愛いお酒を買っていた。
もし、日本酒会じゃなくて
フルーツ酒の会だったら
僕は獺祭の代わりに何を買えばいいんだろう。

中国人の店員が、丁寧な接客をしてくれて
僕にお酒を渡してくれた。
後ろのレジにはまだ彼女達がいたので
僕は背を向けたまま駅から一番遠い出口から出た。

同僚との待ち合わせには20分くらい早く着いた。
同僚ともう一人、その友達と待ち合わせしてるので遅れるわけには行かず、無駄に早くついた。ぼんやりしてると同僚もなんだかんだで早く来たのでだらりと彼女の今日1日の話と、今日は別に知ってる人はそんなにいないから不安だという話を聞いて。知り合いとの会話を蜜に心を落ち着かせていた。
りんごのお酒の話をしたら、「こんな広い世界でそんな偶然ないよ。」と笑われた。

同僚の友達も来て、簡単に自己紹介を済まし、
それぞれが共通の友人にしか声をかけられない
錘を置いたり取ったり、揺れる天秤のように落ち着きのないまま会場に向かった。

僕はやっぱり今日は呑まないでおこうと思った。
2日前にもう酒を辞めようと誓った男が
とことこ酒の匂いに誘われてわざわざ日曜日の夜に街まで出てきた。
昔話で酒の匂いに誘われてやってきたやつは大体懲らしめられるのが通説なのでこの後痛い目に合うんだろう。
だったらこれは試練なのだ。
毒を食らわば皿まで。受けてたとう。
アルコールの場で、酒を飲まず知らぬ人に
囲まれて楽しく過ごしてやろうじゃないか!

さっき同僚に言われた

今日は心をバキバキに折れて帰ってください。

なんて言葉がループした。

会場前で二人の知り合いに出会い会場にインした。

小洒落たレンタルスペースでその会は催されていた。理想の暮らしをそのまま引っ張ってきたような空間で知らない人がすでに飲み始めていた。僕は自身がパーティに紛れ込んだ野犬のように思えた。

ぞっとした。
この中で今から素面で2時間と少しを過ごして
最終的に友達を作って帰るのか。

とりあえず受付を済ましてこの会のメンバーであることを認めてもらおう。

あだ名が書かれたシールを受付で配っていて
同僚も、その友達も簡単にそれを手に入れたが、僕だけ名前が無くて死にたくなった。

同僚が「はるぎくこです!ありませんか?」と言ってくれたがやっぱりなくてとりあえず本名で名乗り名札を書いてもらった。

受付の彼は良い人だったからごめんなさい!といってすぐに対応してくれたけど、お前は呼ばれてないんだよ。そう誰かに言われた気がしてゾクゾクした。

主催の人に挨拶を済まして乾杯することになった。

「何飲む?お酒強いの?」そう僕にとう彼女の言葉にさっきまでの誓いはもう頭になく
「なんでも飲めます」と答えて日本酒を注いでもらった。美味かった。安心した。お酒って安心する。

立食式で、簡単なオードブル以外は手作りだった。なんでも主催の人とその友達が昼間から準備してくれたらしい。これが人をもてなすということか。僕にはとてもできない…そう思って感動した。

僕は料理に舌鼓を打っていると、気づけば同僚は消えて一人になっていた。

途端心が暗くなっていく。ああこれだ。世界でひとりぼっちになったかのような感覚。すぐに知り合いを探すがすでに知らない人と喋っている。怖い。安心したい。
僕は手持ちの日本酒を一気に飲み干し、いっときの安堵感に浸るが次はお酒がなくなったことに恐怖した。おかわりが欲しい。

ただ、おかわりをするには人に話しかけないといけない。だめだ…僕は手持ちの料理を食べながら同僚の帰還を待った。

ふとテーブルに目をやるとりんごのお酒が置いていた。僕がさっき見たお酒と同じだった。
僕の直感は正しかった。この会場にあの三人組がいる。きっと向こうは僕に気づいてないし、僕も顔を見てなかったので誰かどうかはわからないがこの偶然を同僚に伝えたかったが楽しそうに笑うその姿を見て何だか野暮な気がして僕は狭い人間だなと、卑下した。

おろおろしてるとそれを見かねたのかお酒の前に立っていた男の人が僕に話しかけてくれてジントニックを作ってくれた。この男の人がとてもいい人で一気に全てが好転した。
この人を中心に人が集まってその人と喋る。
お酒が進む。笑う。楽しい!

そのままの流れで別の人ともお話しすることができた。人事をやってる人らしく場は会に似合わぬ真面目な話になったがこれはこれでよかった。これも全てお酒様のおかげである。野犬だった僕は気づけばゴールデンレトリバーのようにどっしり構えてなんならソファーに腰を下ろしていた。

お酒のおかわりを取りに行くと主催の人が僕の獺祭を空けてて「獺祭だー!誰ー!やばいー!」と盛り上がってくれた。僕はお酒が入って気持ちよかったので少し控えめに「僕の獺祭です」と答えた。主催の人にありがとう!と言われ、同僚にも獺祭持ってきたんですか?と驚かれた。他の人もわらわら集まってきて僕の獺祭はその騒めきがまだ余韻に入る前に、物の見事に一瞬でなくなった。嬉しかった。
テトリスでギリギリまで積み上げて縦棒が連続3回きて全てのブロックが消えた時のような高揚感に包まれた。

人に注目されるのなんていつぶりだろう。
安物の獺祭は何倍も美味く感じた。

あれよあれよとしてるうちにパーティは終わり、二次会にもお邪魔させてもらった。

お酒は楽しく飲むものだと僕は教えられた気がした。また明日からお酒と楽しく付き合っていこう。そう思った。

結論

お酒ってすごーーい!

#日記 #コラム #お酒 #感想 #飲み会

あなたの応援が血となり肉となり、安い居酒屋で頼むビール代に消えていかないようにがんばります。