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渋谷全感覚祭は事件といっても過言ではないのだ

全感覚祭」というのはロックバンド「GEZAN」が主宰するレーベル「13月」がオーガナイズする、音楽を軸にしたイベントである。軸にした、というのも、全感覚祭は単なる「フェス」や「クラブ/音楽イベント」で片付く催しではない。2014年から開催されているこの祭は、イベント会社などに一切頼らず、ブッキング告知設営…など全てがアーティストやレーベルスタッフ、ボランティアの人などにより成り立つD・I・Yの祭である。特筆すべきはエントランスフリー、さらに今年はフードもフリー!を大阪と東京の2会場で9月と10月に2日間やってしまおうという上記を逸した構えである、えぐいバイタリティ。

サークルの先輩にバンド「踊ってばかりの国」を教えてもらって普段から好きで聞いていたわたくし、偶然彼らがGEZANの名前を挙げているのを耳にした。げざん、下山?ライブ動画やら音源、SNSをチェックしてみる。正直最初の印象としてはすげー変なバンドだなという感じ。肉々しい攻撃的なパフォーマンス、歪み破綻した音と声にいささか面食らっている自分がいたのである。(最近のアルバムは割と聴きやすいけど1stとかけっこう実験的なことをやっていてサイケデリック!)しかしなぜか気になる、彼らの放つ気迫は生半可ではない。特にボーカルのマヒトゥ・ザ・ピーポーの言葉には独特の空気がある。歌詞は叙情的で切実、SNSでの発言やライブ動画のMCというか口上?にも強い言葉を使うことがあるが同じく強い覚悟や真摯さを感じる…人間的に彼らに興味を持ったことが今回の全感覚祭に赴くきっかけになった。

全感覚祭2019は9/21大阪、10/12東京で開催とのこと。私は10月の東京開催に行こうと日々楽しみにしていた、そう、奴の到来までは…ハギビス。未だ全容は不明なものの被害状況は深刻な此度の台風(被災されている方やその家族や友人の方、一刻も早い復旧を祈ります)、私の身の回りでも普段と違うレベルのが来るぞ、と一種の非日常が街を覆っていた。そして10日、全感覚祭東京の中止が発表された。ここまでの彼らの葛藤や努力は大阪での一件や様々なアーティストの声明、クラウドファンディング実施の投稿などから画面越しに痛いほど伝わってきていた。自然災害、こればかりは。コンビニの売り切れたパンやお菓子や水の棚の空虚が不安に拍車をかける11日、チョコスナックをコーヒーで流し込む。ふとスマホに目をやると、13月のTwitterに「反撃」の文字。

こいつらマジでやばい、タップする指も思わず汗を帯びた。2019年10月13日(日)深夜、「SHIBUYA全感覚祭 - Human Rebellion -」。そしてマヒトの声明はこうつづく、「力が集まり草刈りした、あの場所のかわりなどない。よって振り替えイベントではなく、嵐を抜けた後に見えた新たな希望だ。〜しっかりと戸締りをして無事にサバイブしたあかつきには音の下で会おう。13日の深夜、渋谷で待ってる。」アート・デザインを学ぶ1人の「つくる者」としてもこの祭、いやムーヴメント、もはや事件には巻き込まれてみたいと強く突き動かされた。行くしかねぇ、バイトを入れていなかったのは今年イチの大正解だ。

昼間に呆れるほどの晴れ間を見せた13日、23:30に渋谷に着くともはや行列…クアトロにできた列を辿って歩いていくとありゃりゃ一周しちゃったよという有様だ。SNSでお互いにそれとなく渋谷に行く意思を確認し合っていた先輩や友人には会えるのか、何より会場に入れるのかおれは…足早に人混みを縫ってなんとかWWWXに移動し、フロアになだれ込むことができた。運が良かった。以下、WWWXの出演者をずっと観ていたので感想を。

〈幾何学模様〉

ギター×2、ベース、シタール、ドラムという編成の通常でもサイケなバンドを24:30の渋谷で聞いた日にゃ脳ミソおかしくなる。5人ともウッドストックからきたの?というくらいのロン毛だし。ディレイやワウエフェクトが効いたフレーズが骨太なビートと絡みながら展開し、確実に観客をアジテートしていく。う〜んかっこいい!

〈原田郁子〉

「会場に入れていない人の分まで」、というMCで始まった弾き語り。曲の終わりにこぼれるはにかみが優しい。溌剌とした声にノードの温かい音色も相まって深夜の渋谷に鮮やかな色彩が繰り出されるよう。青葉市子とコラボで披露された寺尾紗穂の"楕円の夢"のカバーが白眉でした。思わずため息…、最高。

〈知久寿焼〉

知久さん、知らなかったけど、始まってみるとぐんぐん引き込まれた。(たま のボーカルだったのね!)個人的にはベストアクトかもしれない。ギターとハーモニカでのシンプルな弾き語りスタイルだったが、声の抑揚のなんとわんぱくなこと、朗らかな笑顔の可愛いこと!ナチュラルな表現力が凄まじく、観ているだけで楽しくなった。

〈青葉市子〉

先輩で、作品に対して「霊感がある」と喩えることがあると述べていた方がいるけど、彼女を観てまさにこの感覚かもと思わされた。この日は前の2組とのコラボ曲を何曲かやっていたが、彼女の声は本当に透き通っていてシルキー。シルキーって東洋人ならではよね。透明だけど芯が確かにあって、ある意味超常現象的な雰囲気さえ感じた。素敵すぎる。(後述の「混乱」とめちゃ対照的なのも面白かった、後で思うと)

〈踊ってばかりの国〉

「今日渋谷にたどり着いたすべての人に」盟友のGEZANからの連絡で急遽出演となった彼らは間違いなく今夜のハイライトでありのっけから最後まで全身全霊だった。過剰なほど冗長な"それで幸せ"で「明日あなたに会う それで幸せ」と叫ぶ下津、そう、そうだよなァ。もはや筆舌に尽くし難い、尽くせるわけもない…。

踊ってばかりの国を見て一時フロアの外へ。ばったり先述の友人たち(しかもみな地元の人たちとは面白いね、青森県民ズ)とは無事合流、GEZAN見るよね?もちろん!と肩を組みフロアに戻った。転換中改めて周りを見渡すとほぼ自分たちと同年代の若者しかいないことに気づく。

〈GEZAN〉

満を辞してメンバーが姿を見せる。マヒトが口を開く。「混乱しているけど、この混乱のまま終わらせたい。」全くである、こんなカオス、熱、初めてだ。"BODY ODD"ではKid Fresinoや呂布カルマ、Tohji、ノベンバ小林氏も登場しマイクリレーで盛り上がりは最高潮に。叫びと歓声、ダイブ押し合いへし合い…。ラストの"DNA"は普段とも、Tribe Called Discord のエンドロールとも違った聞こえ方だったように思う。ダメ押しの"Absolutely Imagination"も聴いた記憶はあるもののもはや混乱極まり興奮の余韻を微かに思い出せるばかりだ。しかしGEZAN、最強だったことは確かである。

外はもう明るかった、午前5:30。喉がカラカラで皆で500mlペットのお茶を買い、一気に飲み干してようやく私の(今日の)全感覚は使い果たされた。マヒトが言っていたように台風を受けインスタントに組まれたこの祭は完全に混乱していた。しかしこの混乱は少なくともこの私には確実に、ローカルなシーンを愛する者、何かをつくろうとする者にとって確実に、影響を与えてくれる事件だったと思う。

「生物と無生物のあいだ」(講談社現代新書 2007)にて福岡氏は「生命とは動的平衡にある流れである」と語っている。動的平衡とは生体が「破壊や分解」と「創造や合成」を同時に繰り返し続けることで恒常性が保たれる状態である。すなわち我々は絶え間なく変化し矛盾し混乱し続けることで生きることができる。全感覚祭を通して、私は氏の言葉を借りそう言い換えたい。

最後に、このイベントの費用の全ては投げ銭、寄付によって賄われる。ユーチューブ、サブスク全盛の今日、価値を自分で決められるのは試されているようで嬉しくもある。記憶は定かではないが、帰り際開いた財布はやけに薄く軽かった。全く後悔はない。入れていなかった分のバイト、居酒屋でドリンク運ぼうではないか。ポイントはエントランスフリーの「フリー」をどう捉えるか、ね!

2019/10/15 春


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