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プリッとした交通整備


交通整備も十人十色。
今日見かけた、茶色いプリティーなおじちゃんの話。



Y字路はいつも混んでいる。Y字の一線は下り坂で先から来る車が見えず、さらに道が狭いという、進みにくさも危なさもエベレスト級の場所だ。

ただでさえ混みやすい分岐で、今日は工事があっていた。しかも一車線まるまる塞ぐ大きめのやつ。混雑させるために設けました、とでも言うようなトリプルパンチ状態。二人の交通整備のおじさんが右往左往しながら、三方向からやってくる車を捌いていた。

私は左折をしたかった。
こ〜れは長くなりそうだなぁと思いながら時計を見る。次の約束まではまだ時間があるけれど、着いてからゆっくりしたかったのにな。ちっ。こういうとき少しイラッとしてしまう短気な性格を治したい。

私の近くにいる方の整備のおじさんが、やたら元気だった。腕をぐるんぐるんぶん回して誘導し、通り過ぎていく車一台一台に深々とお辞儀している。そりゃあ運転手に見えるように動かないといけないから、動作は大きいに越したことはないのだけど。今日は夏の居残り組がヤンチャしている30℃越え。作業服にヘルメット。少し離れたところから見ていても、汗だくなのがわかる。おじさんの茶色い頬が、太陽に照らされてギラギラしていた。

列が少し進んで、私が先頭になる。ちぇ、私まで行かせてくれてもいいじゃないかよ。でも、声が聞こえてきそうなほど大きな素振りでおじさんが「ごめん」の仕草をしているから、なんだか憎めない。「ごめんねえ!!!」言うてる。口は開いていないけど、言ってる。



そこへ左から、特大級のトラックがやってきた。うわあお。
大型トラックでも稀に見る大きさだった。え、それ、ここ通れる? トリプルパンチにもうひと蹴り。おじさんが可哀想になってきた。

ついついおじさんに目を奪われていると、そのおじさんは相変わらず大きな大きな動作で、ゆっくりとその特大トラックを誘導し始めた。


そして、プリッと、お尻を突き出した

は?


トラックの運転手に見せつけるようにお尻を突き出しながら、右ケツを思いっきりパアン!! と2回叩く。そして体の向きを変え、全身を使って「大きく回ってな!」と伝えていた。最後にもう一度右ケツパアン!!×2。なるほど、お尻は、「車体の後ろ側に気をつけてな」ってことなのだろう。トラック大きいからね。ぶつけてしまわないようにね。うん。こっちにまで伝わった。

いや、ごめん、おじちゃん、おもしろすぎる。

クスクス、とかの次元でなく思いっきり笑ってしまった。さっきの進行で行ってしまわなくてよかったとさえ思った。こんなに愉快なおじちゃんの姿を、私はあと一歩で見逃してしまうところだったのだ。


大型トラックの運転手なら、車線変更や曲がるときに車体後方に気をつけなければいけないことくらい、百も承知であろう。それでもご丁寧に全身をフルに使って観客にプリケツを晒し出す(晒してはいない)(観客でもない)おじちゃんに、失礼ながらゲラゲラ笑った。

人が一生懸命になりすぎている姿というのは、時として見ている人に笑いを生む。でもね、決して馬鹿にしているわけではないのです。全身全霊すぎてちょっと愉快になってしまっている人が生み出すその笑いには、見た人をあったかくさせる力があるなぁと思った。人生の大先輩相手に、ある種のいとしさまで感じた。



初心者マーク相手にブーブー鳴らす悪趣味な運転手もいれば、
意味わからんほど距離を詰める生き急ぎすぎな運転手もいれば、
こちらが道を譲ると片手を挙げ頭を軽くさげ、アイシテルのサイン並みにハザードランプを点けてくれる運転手もいて、
汗だくになりながらプリケツを武器に全身全霊で円滑な交通のために働いてくれる、整備のおじちゃんがいる。

渋滞に巻き込まれてちいさく舌打ちしてしまう短気な性格だけれど、あったかい思い出で嫌な出来事を塗り替えて、一日愉快な気持ちでいられるような人でありたい。

あのおじちゃんが汗だくな身体をシャワーでさっぱりさせて、キンキンに冷えた美味しいビールを煽り、明日も元気にプリケツ整備をできますように。


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