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『月』

月は
そこはかとなく
わたしに優しい

孤独を呼び覚ます冷淡な闇黒に
黄金色の温(ぬく)みを纏って中天へかかり
ひととき、
照らし出す一筋の道の上
点のように佇むわたしを見つけては
兎と一緒に降りてきて
竊(ひそ)かに寄り添ってくれる
あったかく、おだやかに
鏡に映えた光りで包んでくれる

苦しみも、泣き言も、涙も、
打ち明けられずにいる秘密も、
夜にしか生きられない理由も、
月は
静かに浚(さら)いながら、頷き
わたしの背中を撫で続け、そして
黄金色した小さな小さな欠片を
わたしの手のひらに注いだらば
再び、兎と共に天へと帰ってゆく


月は
欠けて、また満ちる
月を映す碧の水面も
引いては、また満ちる

繰り返されながら確実に流れ
刻まれてゆく時の中、
繰り返し行われる
さざ波を連れた月との対話
それはまるで、日記を綴るように


今夜も
月は、きっと
そこはかとなく優しい

それを知る凪いだ海のほとりで
わたしは
紫紺に浸かりゆく空の彼方を見詰め
馳せる心と、待ちあぐみ


※2024/5/4 X(Twitter)で投稿した詩文を少し修正したものになります。

photo by August @A__ugust__us

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