「何かあった時に助けてくれると思うから、私は日本国籍を持ち続けている」とは二年前の友人の弁。この言葉を自虐的に反芻したこの一年でした。
はじめまして/こんにちは。
2020年の年末にアップしようと思ったのに、年越ししてしまいました。でも、今更なので書き直さずにそのままアップします。2021年の抱負は、この記事の一番下に。
1. 日本パスポートの利点…でも、大事なのはそこじゃなかった
未曾有の2020年(いや、2021年がさらに混迷する可能性もありますが。。。)は、私にとって自らの存在について考える時間でもありました。普段は気にも留めないことですが、日本国籍をもっているということは、どういうことなのでしょう?
【日常生活で実感できる利点】
・ビザなし短期滞在の容易さ(世界ナンバーワンらしいですね)
・他国への入国審査がイージーモード
・テストなしで現地の運転免許への書き換えオーケー
・大学入試科目で日本語も選択肢内 ←国籍とは無関係ですが
ググれば、さらにたくさんの利点が出てくると思います。これらは先人が多大な労力をかけ一つ一つ成し遂げて下さった成果です。
私も普段、頭が下がる思いでその利点を享受させてもらっていました。確かに平時の際には、日本国籍所有者は他の国籍の人よりも、旅行したり現地で新生活を立ち上げたりする際に大きなアドバンテージを得ることができるでしょう。実際、私もそうでした。
しかし、有事の今年はそんなことは根底からひっくり返るような思いをすることになったのです。それは、コロナに関わる日本政府の対応に端を発する、私自身の帰属意識の変化です。
2. 取り残された在外邦人
本題に入る前に海外で暮らす日本人をちょっとイメージしてみましょう。日本国籍の所有者のうち、この2020年を日本国外で生活された方はどのような方なのでしょう?状況や立場はそれぞれに異なるでしょう。思いつくままに書きだしてみます。
留学中の方、ワーキングホリデー中の方、国際結婚された方およびそのお子さん、日本企業の駐在の方およびそのご家族、現地企業で働いている方およびそのご家族、フリーランスの海外居住者およびそのご家族、日本に帰化された方、、、。
他にも私が思い至っていない様々な立場の方がいらっしゃると思います。
今の時代、皆さんの周りにも、海外で生活をされている方は散見されるかと思います。昔の同級生や職場の同僚、町内の誰か、親戚の誰か、家族や恋人など、複数人を思い浮かべる人もザラにいるのではないでしょうか。
今回、このように海外で生活している人をひっくるめて「在外邦人」と呼ぶことにします。(本来の「在外邦人」の定義は調べていないので正確さに欠けているかもしれない点はご勘弁を。)
さて冒頭で述べた帰属意識の変化に話題を戻します。どういうことかといいますと、私はたかだか2~3年程度しか在外邦人していないにも関わらず、自分の心の在り方が揺らいだという話です。
3. コロナ下での日本政府の対応を見て
順を追って、2020年の私の心の持ち様を記します。
2月下旬。中東欧へ家族旅行。コロナ感染がイタリアに飛び火し拡大し始めた時期でした。旅行中、自分達が東洋系ということで何等かの差別を受けたら嫌だな~と思いつつ、ウィーン・ブラチスラバ周辺を観光しましたが、全くの杞憂でした。どこも人々は親切で優しく、リラックスした休暇を楽しむことが出来ました。
3月中旬。アイルランドもロックダウンに入りました。この国の人々は理性的で優しいですし、差別は許されない行いだという趣旨のインタビューがニュースで流れたりしていましたので差別については心配していませんでした。が、医療の逼迫により、万が一、現場で医師が命の選択に迫られるような事態になった場合、我々異邦人は優先度が下になる可能性があるかも、と、根拠もなく勝手に想像して漠然とした不安を覚えました。(日本では、命の優先順位といった発言をした方々がけしからんとネットで叩かれていたようですが、どこまで医療が逼迫するか分からなかった当時において、私は別におかしな発言だったとは思いません。実際ドイツでは、命の優先順位を現場が付ける際に、現場の医師の心を守るためと遺族からの訴訟対策として論理規定や法律を新たに制定したというニュースを見ました。ヨーロッパ各国の有事への対応処理速度は日本の比ではないことを目の当たりにしました。)
3月下旬。海外から日本への帰国者に対する日本政府の扱いの酷さを嘆く書き込みを何件も目にしました。違法な対応ではないのでしょう。しかし日本政府が帰国者への対応を現場まかせにして何もしなかった(帰国者への差別が不当だという見解をすぐに表明したり、差別解消のための具体的施策を打ったりしなかった)ことに憤りを感じました。政府は政府で、海外旅行等で一時的に国外に出ている人への帰国対応で手一杯だったのかもしれません。それでも、帰国者 vs. 国内居住者という対立図を解消しようとしなかったことは、帰国者や今もなお残る海外居住者の心に大きな不審を生んだと思います。
対して、アイルランド政府は、コロナウィルスが中国由来かもしれない説が出始めた当初から「国籍や人種による差別は許されることではない」というメッセージを出し続けましたし、「コロナウィルス感染者への差別も許されることではない」と徹底した態度を示し続けました。この示し方も秀逸で、日本のメディアでよくあるような「許されることではない」という否定形のメッセージではなく、中華系食材店のインタビュー中継を流して、国内にいる人は同朋の住民であることをイメージづけたり、コロナで入院していたお年寄りが退院する際に村全体で出迎える映像を流したり、と、心に訴える善行を前面に出すことで住民の一体感を醸造するようにしていたように思われます。(この報道姿勢は他の報道に関しても感じたことです。日本ではマイナス面をそのまま報道することが多いですが、ヨーロッパではプラス面を報道することでマイナス面を抑止させる効果を狙っているような。)
今年4月。日本政府は、「2020年4月27日時点で住民基本台帳に載っている人に一律10万円」支給しました。在外邦人は要件外なので、私達家族は取り残されました。赤ちゃんでも年金受給者でも、住民票を抜かずに海外生活している人でも貰えるに、貰えない自分(=在外邦人)は、当時日本から見捨てられたように感じられたものです。
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4. 青山繁晴氏の動画を拝見して
さてさて、この在外邦人の正確な数が実は分からない、という話が、参議院議員・青山繁晴氏の ”ぼくらの国会シリーズ第76回” で述べられています。件の発言は7:00台にあります。(青山氏は春からずっと対象漏れした在外邦人支援を政府に交渉し続けてくださっています。それもあって私は時たまホームページを拝見しています。)
当初いわれていた在外邦人の数は140万人だそうですが、実はこの数字の正確性が担保できていないとのこと。140万は山口県の人口とほぼ同数です。出入国管理では分からないものなのでしょうか。
さらに驚き&耳が痛い話なのが、その人数の中で在外選挙制度に登録している人数はたった2万人台しかいないとのこと。これは青山氏がご指摘の通り、政治家からすると無視しても問題ないと思われる一端かと。実は私もやっていない。。。イタタ。
この動画によりますと、この12月にようやく在外邦人へのコロナ支援が閣議決定されたとのことです。閣議決定されるまでの8ヶ月間、交渉を続けて下さった青山氏はじめ諸氏の皆様方には深く感謝いたします。
5. 帰属意識の変化 ー国民か住民かー 自分に合う考え方は。
長々と経緯を書いてみましたが、結局、これらの出来事を通じて、私の帰属意識は、国民なのか住民なのか、という点で大きく立ち位置を変えることになりました。
「住民」という括りに目を向けるようになったきっかけは、アイルランド政府の明瞭さ、住民のコミュニティ形成能力の高さに感銘をうけたからです。アイルランド政府は、「職を失った/減給した人に」対して支援を行っています。国籍は関係ありません。働いていた労働者に対しては、政府要請に応じて仕事を畳んだ分の補償は行うというシンプルな考え方です。国民という括りではなく住民が考え方のベースになっています。
自分のアイデンティティの土台は国民なのか住民なのか、を自問自答する中で反芻したのが、掲題に書きました友人の言葉です。
「何かあった時に助けてくれると思うから、私は日本のパスポートを持ち続けている」
これは現地で参加していた移民向け英会話教室でのグループディスカッションの際に、ある日本人が発した言葉です。コロナ前の出来事です。多国籍・多文化背景のメンバが、それぞれのパスポートやビザに纏わるエピソードを話し合っている時でした。その方は、国際結婚し、お子様もおり、数十年間ヨーロッパの複数国で生活を送っている方です。私は、当然その方は、配偶者の国のヨーロッパ国籍を取得しているものだと思っていました(EU圏内でEU加盟国のパスポートを持っていると様々な利点があります)。そのような背景を持つ人が、日本のパスポートを保持し続けているという考え方に、当時は大きな驚きと日本への誇らしさを感じました。その後、コロナが発生し、各国が様々な対応方法を取りましたから、またその方にお会いする機会があったら、今もまだ日本のパスポートを持ち続けたいと思っていらっしゃるのか、伺ってみたいと思っています。
此方に来てから知り合った友人・知人は、複数国のパスポート所持者もいますし、アイルランドの国籍を取ることを目的として勉学・仕事に励んでいる方もいます。そのような自由で信念のある生き方を見ていると、国籍は自分で選びつかみ取るものだ、と、思うようになってきました。
それはたまたま、このコロナ状況下で、日本とアイルランドの政府対応と住民気質の違いを垣間見て、自分のテイストに合う国とは何だろうと考える機会があったからだと思います。
とはいえ、私は親も日本の田舎にいますし、自身も日本で育ちましたので、今から国籍を変えることはないでしょう。でも、もし子供が国籍の選択をしたいと思うようになった時、フラットな視点でその背中を後押ししてあげられるように柔軟な考えを持ち続けていこうと心に刻みました。
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【2021年の抱負】
日本を住みやすい社会にするために、また、心豊かに過ごせるような国にするために、私ができること。小さなことからですが。
-海外で得た気付きを発信し続けていく
-在外選挙制度に登録して投票に行く
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長く取り留めのない文章をここまで読んでいただいてありがとうございました。
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