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【恋愛小説】 恋しい彼の忘れ方⑫【創作大賞2024・応募作品】

「恋しい彼の忘れ方」 第12話 -選択-

夢を見た──。
10年後の自分。
赤橙色のトップス。
小さな赤ちゃんを抱っこし、こちらに片手を差し出している。「早くおいでよ!」と笑顔で。

私は聞いてみた。

「今、何してるの?」
──「漫画を描いてる。共著で。今の貴方から1年後には出版したよ。」

「大輝には、会えた?」
──「会ってない。でも、後から、応援してくれていたのを知ったよ。」

目が覚め、枕の冷たさで、感情が溢れてい
たのを知った。
「会えなかったんだ……。」胸がズキンと痛む。
私はその時、もう大輝に「会えない方向」に、未来が進んでいるのを悟った──。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


土曜日の朝7時。

「帰ってきたよ」

その一文が、目に飛び込む。
2ヶ月ぶりの、大輝からのメッセージ。
どうして……。今……。

以前、大輝に、ホタルを観に行こうと言った。多分、それを考えて帰ってきてくれたんだと理解した──。
鼓動が早まる。
どうしよう。
でも、今日は私、家族と過ごすって決めていていたんだ。
それに、大輝は、私と会いたい、って思っているの?メッセージには、「帰ってきた」、それだけしか書いていない。

返事を返さないまま、お昼が過ぎた。

夕方近くなり、
「おかえり。いつまでいるの?」と送った。

すると、「明日までいるよ。」と帰ってきた。

夜になっても、特に「会おう」と言うメッセージがなかったため、会う気はないんだな、もう会えないんだろうな、と感じていた。

すると、21時近くなり、大輝から
「夜のドライブでも行く?」と、誘いのメッセージが来た。
ドッドッと、脈が早くなったのが分かる──。

どうしよう?会いたい──。
会って、話がしたい──。

でも、またつらい想いをするの──?
会って、また大輝と、私自身を傷つけるの──?
どうしたらいい──?

もう「会えない」と思っていたのに、その心が揺らぐ──。
「会えない」とは思っていたけれど、「会わない」じゃなかったからだ、と自分で気付いた。
今、会える可能性が出てきたということは、その道もあるのかな、会えるなら会いたい、と思ってしまった。

私は、天を仰いで願った。
──「もし、大輝と会える私であるなら、会える方向に導いてください。もしそうでないなら、会わせないでください。」

そして、大輝に、
「うん。家族が寝たら、連絡する。」
と送った。

その日は珍しく、賢人が遅くまで起きていた。私は、どうなるのだろう?と思いながら、布団に入った──。

頭の中で色々な考えが浮かんだ。
何故今日の朝、突然連絡が来たのだろう?
帰る日が分かっていたなら、早めに連絡してくれてもいいのに。
私のことは忘れていて、急に思い出したんだろうか?
そもそも、会う気はあったのだろうか? 
メッセージは、「帰ってきた」という報告だけ。
別に会いたくなかったんじゃないか?
私のことはどう思っているのだろう?
──もし、海東くんだったら……?
海東くんだったら、その日に連絡するなんて、あり得ない。
海東くんだったら、前からちゃんと連絡を取り合って、日付を決めて、相手に合わせてくれる。
海東くんだったら、メッセージのやりとりとか、心を大切にしてくれる。
海東くんだったら、会いたいならば、きっと会いたいと言う。
海東くんだったら、夜に会おうとは言わない──。
私は、私を大切にしてくれる人と、一緒に生きる、って決めたんだ──。
一筋の涙が溢れた。

すると──いつの間にか私は寝ていて、時間は朝5時になっていた。

慌てて大輝に、「ごめんね」とメッセージを送りながら、あ……会わない方向に動いているんだな、と感じた。
その日のお昼、ランチだけなら会えるかな?と思って連絡をしたが、大輝は用事があって難しいとのこと。そのまま、大輝は地元を離れ、戻っていった──。


帰ってしまった……会えなかった……。
私の心に、また波が押し寄せた。
私は、ずっと今まで隠していた言葉を、大輝にメッセージした。
今の気持ち、というよりは、この1年以上、思ってしまっていた気持ち。

「触れたかった」

大輝から返事が来た。

「触れたい?葵は、俺に触られるのは嫌だと思ってたよ」

私は、その言葉で、想いが溢れた。
そんなことない、そんなことない、ずっとずっと想ってた──。抑え込もうとしてた。ずっと貴方に会いたくて、ずっと苦しかった。
こんな自分なんて、って自分を嫌いになって。それほど好きだったのに、何で分かってくれないの──?酷い──。

私は、長いメッセージを大輝に送った。
大輝のことが大好きだったこと、抱きしめられて嬉しかったこと、夜の海を好きになったこと、世界の解像度があがったこと。
触れたかったこと、それではダメだと自分を嫌いになったこと。
大輝のお陰で、漫画を描く夢を持てたこと。
メッセージのやり取りをして、心で繋がりたかったこと。
承認欲求からの勝手なメッセージを送っていたこと、いつも返信を待っていたこと。 
大輝にどうしようもなく会いたかったこと──。
これまでの全ての想いをメッセージにぶち込んだ。


送信した後──。
スマホをソファーに放り投げ、私らしいね、と1人笑った。泣きながら。
「あーあ、言っちゃった。もう生理の始まりだからって、ホルモンの力は恐ろしいね。
でも、スッキリしたー。言えてよかった気がする……。」

後半の言葉は、少し強がりだったかもしれない。しかし、私は、「これでよかったんだ。」と、本心からの言葉を口にしてみた。
 

その後──
大輝からの返事は返って来なかった。



2日後、車の中で、アップテンポな適当さがウリのグループの曲を聴いていた。
そうして、浮かんできた言葉が、「本音」だった。
私は、大輝に、本音を言えたのかな。最後の最後だったけれど──。
そのせいか、今は少し、気持ちが楽だ。

そして、ふと思い出した。
「ギリシャの領主様に本音が言えなかった侍女」の私を。
もしあの領主様が、大輝だったのなら、私は今世で、想いを伝えられたことになるのかな──。

私は、大輝に「会えなかった」ことを後悔していなかった。その理由を自分に問うと、海東くんの存在が浮かんだ。
そして、メッセージを送った。


−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

海東くんがいたから
"終わり"を決められたよ
ありがとう

「壊したくなくて無難にやり過ごしてた」

これが、今までの私の
他の人との付き合い方の傾向だったんだと思う

海東くんが言ってたこと。
【会いたくない人とは会わない】
これがちょっとひっかかってた。

どうしてなんだろ?
会ったらいいのでは?

って。

でも、無理して会う必要はないし
そもそも合わない人とは会えないし。

なにより、海東くんは、
「自分で、自分の好きな人を選んで、その人たちに囲まれて生きていく」
って人生を決めるんだなと思った。

"人生をデザインしている"

と思った。

「どんな進路を選ぶか」とか
「どんな物をもつか」とかも人生の要素だけど、
『どんな人と生きるか』は、
1番大事な要素なんだと感じる。

貴方は、それを大切にしているんだね。

だから、
私も、貴方みたいに
大好きな人たちと生きていこうと思う。

貴方みたいに
本音で生きていこうと思う。

私は今まで、『自分の本当の声』に嘘をついたり、聞こえないふりをしたりしてた。

本当の自分を出したら
嫌われるんじゃないか、捨てられるんじゃないかと思ってるのかも。

でも、そろそろ、
自分と、本当の自分が合わない状態(自己不一致)を起こすのはやめて、キラキラなエネルギーが出る状態で、自分をいさせてあげたい。

なので、貴方には、本音バージョンの私を出していってもいいでしょうか?(笑)

全部ではないかもしれないけど、
そして、貴方にだったら、どの部分の本音が出るのかわからないけど。
そういう付き合いをしてみたいなあって思ったんだ。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

海東くんからは、直ぐに返事が来た。
「どんどん、素の葵さんを出していきなよ!」

私の方が教え子じゃん、とクスリと笑う。
いつも海東くんには勇気が出る言葉を貰える。

私は、海東くんの返信の早さから、常々「本音で生きているな」と感じていた。分厚いフィルターなど、全く無いんだろうな、と。
そこで私も、フィルターをかけずに、降りたものをそのまま描くスタイル「降ろし描き」を思いついた。なぜか、絵も、文章も、これでいける!という自信があった。



次の日、またマリさんとテレビ電話をした。
私は、漫画家の彼に、思いっきり、思いをぶつけてしまったこと、そして何故かスッキリしている自分について話した。

「葵ちゃん、それね、"自作自演"よ。」

「え?"自作自演"?」

「そう、この間、"人は、経験を楽しみにして生まれて来る"って言ったじゃない?
過去世の経験の整理をする出会いなのよ。
悔しい、とか悲しい、とか、捨てきれない握りしめてきた思いを、今回伝えたのね。
だって、感情を揺さぶられるほどの出会いって、絶対何かあるのよ。普通の人なら、すれ違って終わりだもの。
ご縁なのよ。葵ちゃんは、吐き出せた、そして、相手に聞いて貰えた、受け取ってもらえた。だから、終わったの。」

私は思わず口を開けた。マリさん、何で大輝との過去世のこと知ってるの?私言ってないのに?
……と言おうとしたが、間髪入れずマリさんは話を続けた。

「葵ちゃん、今回は、自分の家庭を守ることを選んだんだもんね。でね、葵ちゃんに聞きたいのは、"まだ揺さぶられていたい?"ってこと。
自分の思いを出したらスッキリして、"あれ?私何やってたんだっけ?"、"茶番劇"って興醒めしなかった?
まあ、そういう風に、思いを出したら、客観視できるようになるの。」

マリさんによると、「作用反作用の法則」みたいに、自分の念を出したら、相手の思った念がこっちに帰ってきて、物が壊れたり、体調が悪くなったり、または思わぬ方向から、「わかってくれー!」のエネルギーが飛んで来るらしい。本当の意味で終わらせるには、「対自分で」と言われた。

この「鏡の法則」は、いい意味でも応用できて、それは、自分の波動を整えると、周りに伝わっていくらしい。
「想い」は伝えてよくて、そしてその想いで「自分で人生を創る」のだ、と。
確かに、私も、愛ちゃんに「泣いてもいいんだよ」と心から想い、伝えた途端、その現実がつくられた。そういうことか、と納得した。


そして、マリさんは大輝のことを口にした。

「彼のことだけどね。男の人って器が大きいのよ。だから、飲み込んでるかも、ね。
沈黙は、優しさだったのかも。
彼は優しい人でさ、葵ちゃんは、そういう人を愛せたんだよ。ちゃんとした人を。葵ちゃんは、見る目があったのよ。
こんな風に、物事全て、自分の思うようにとっていいんだから!それが、現実を創っていくの。」

私は、ここまで聴いて言った。
「私は、人の心を救える漫画家になりたい。そこに、人生の悟りを入れて。」

「いいじゃない♪今回のさ、不意打ちの恋も入れて、ね。
この恋は、贈り物で、人生の彩りで。そして、過去消化できなかったことへの向き合い。
素敵じゃない。」

「ありがとうございます。」

「葵ちゃんのお母さんの話も描けるよね。
親からの良いものは継承し、悪いものは自分流にして、また次に繋ぐ。これがね、"発展…繁栄"の思考なのよ。
その家に生まれてきた、持っている業(カルマ)を親から教えてもらい、繁栄していくの。
これに気付けない場合は、負の連鎖が止まらず、衰退する。
だからね、自分は自分流で、幸せの発展・繁栄を望んでいけばいいの。」

「はい。お母さんには色々気付かせて貰えました。」

「ね。うまく行かない時に、"学ぼう!"と思えた。その、姿勢もお母さん譲りね。」

嬉しかった。マリさんにそう言って貰えて。
私は、お母さんの「勉強家」なところを継承していたんだ、と心が温かくなった。

辛いことは波のように来る。お母さんからの言動に苦しんだ時も、今回の恋も。何度も揺さぶられ、舟から落ちそうになった──。でも、その度に、しがみついた自分、そして出会ってくれた仲間の存在が、私を前に進ませてくれた。
また波が来ても、「波は来るだろう」と思って準備し、向かえる気がした。


「人はね、お役目が終わったら離れるからね。それは、友達でも、夫婦とかでも一緒。」

「はい。」

「何か気になることある?」

「え……?彼からのメッセージが来ないのが気になる、とかですか?」

「あー、まだ吹っ切れてないなあ。
葵ちゃん、彼がどんな行動をしてきても、自分はどうなりたい?どういう姿勢でいたい?」

「え……。」

「彼の反応を気にしたい?
彼を主軸にして、泣きたいのは彼のせいにしたい?どうして泣きたいの?
何か、我慢してること、ない?
本当は彼としたいこととか、旦那さんとしたいこととか。」

「旦那さんと……本当は、心で繋がりたいのかも……。優しくしてほしいとも思ってる……。」

「そうだったのね。
あのね、優しくしてほしかった、っていう時は、"優しくして貰えない私"を握りしめているの。」

「そっか……。」

「実は私、こんなメッセージ来ると嬉しい!って表現するのよ。
今の葵ちゃんは、"愛されない私"の着ぐるみを着てるの。」

私はその時、幼少期からの「結果を出さなければ愛されない私」「言うことが聞けないと愛されない私」をまだ持っていることに気付いた。
賢人からの愛を、たくさん流されていたのに、私は「マイナス」ばかり見て、キャッチしなかったのかもしれない……。
それで、賢人は「どうせ聞いてくれない」「どうせ受け取ってくれない」「どうせやってくれない」と、マイナスを見るようになってしまったのかもしれない。
だとしたら……今の現実は、紛れもなく私が創っている。

賢人は基本的に単身赴任で、週末のみ帰ってくる。生活費も、全部賢人が賄ってくれている。
「自分が頑張らないといけない。みんな気楽でいいよな」という思いがあったのかもしれない。

マリさんは、言った。
「旦那さんは、葵ちゃんに"優しさ"を求めて結婚しているのに、なんせ自分の思ったことをやってくれない、イコール、否定される。ジャガイモの芽を生やしたりね。
でも、彼も淋しさをもっているのよ。彼も、葵ちゃん自身なの。抱きしめてあげるのよ。」

「たしかに……私、寝かしつけの時、賢人からの電話を無視してた。
あ……結婚してからも、私が教員で帰るのがいつも夜10時過ぎてて。私、私の誕生日も忘れてたんです。そしたら、帰ったら、人参でHAPPY BIRTHDAYってかいたサラダとか、ケーキとか、用意してくれてた……食べずに。
私、賢人の優しさを、いっぱい取りこぼしていたのかもしれない。
それに、夜帰るのが遅くて、賢人に、"家庭のこと考えてよ"って言われたとき、私怒っちゃった。"なんで、こんなに頑張ってるのにわかってくれないの?"って……。」

涙が溢れた。賢人は、私に、優しさをくれていた……精いっぱい。なのに、なのに、私は……。

マリさんは、言った。
「旦那さん、色々やってくれてたのね。そこに、葵ちゃんはどんなリアクションをした?
冷たく?それとも、関心をもって?」

「無関心……だったかもしれない。今、賢人からされてる反応です。」

「そっか。構ってほしい、とか同じ思考癖があるとね、否定されたと思ったら、どんどん離れていっちゃうから。
関心をもつことね。旦那さんのやっていることに。
旦那さん、家庭菜園やってくれてるんでしょ?
なら、"すごいねー!"とか、"いっぱい育ててねー!"とかね。」

「はい。」

「夫婦なんだもん。相手に対して思うことは、自分はどうかな、って振り返るの。
興味もってくれたってことから、否定されない自分、温かい自分を認めて貰えた、そして嬉しい!に繋がっていくのよ。」

「はい。賢人は、1週間分の買い出しもやってくれていて、私がいつも使い切れなくて。それが、買ってきた賢人を否定してるのと同じだったんですね……。」

「うん。旦那さんも淋しかったんじゃないかな。冷たい空気感が。2人で日向ぼっこのような家庭を築こう!ってね。
全て、"先出し"なの。興味をもつ、姿勢も。
淋しかったらいつでも、相手になるよ。その代わり。私が淋しい時はしてね!ってね。
初めは、旦那さんのリアクションも冷たいかもしれないけど、それは"バグ"よ。
出したものが後で返ってくるから。
否定されて"カッチーン!"ってなっても、反応しない。これは、淋しさから来てるな、って、ただ、見るだけ。知るだけ。」

「はい。やってみます!」

「あとね、これも大切よ。
寝る前に、アファメーションするの。」

「アファメーション?」

「そう、寝る前に、
私は愛されている。
私は愛の存在だ。
私はお姫様だ。
私は世界から愛されている、ってね。
心で思うのよ♪そうなるから。」

私は直ぐには信じられなかった。でも、とにかくやってみようと思った。大袈裟なリアクションも、アファメーションも。
あの時の賢人の悲しみに、寄り添って、できることは、「私がして欲しいことを、相手にしてみる」ことだと思ったからだ。

賢人、今行くね。
心で繋がろう──。



その夜、単身赴任先の賢人に電話をかけた。
この頃、賢人からは電話がかかってこない。私は淋しく思っていたけれど、電話を拒否していたのは私だったなんて……自分の中の真実は、事実でないことを知った。

「──もしもし?賢人?」

「なに?なんか用?」

「え?──ちょっと電話したくなって。」

「そう。で、なに?疲れてるから、もう風呂入ろうと思ってたんだけど。」

「──ん、わかった。お仕事お疲れ様。
声聞けて嬉しかったよ!ありがとう!」

「ん?あぁ……はいよ。」

「じゃあね。ゆっくり休んでね。」

「はいよー。」

いまいちな反応だったけど、ありがとうを伝えられた自分が、ちょっと好きになった。
私へ、ありがとう。
賢人へ、これから少しずつ、返していくからね。


第13話 統合


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