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【南米バイク】化粧を落とした街、アントファガスタ

 洗わないといけない皿が残っているシンク。今の僕にとってnoteはそんな感じ。明確違う点と言えば、皿洗いはやらないといけないが、noteは書かなくてもいい。
 コロンビアからペルー、そしてチリ。サンティアゴで1ヶ月以上ホームステイをした後、バイクを購入して現在はチリの北部、カラマという都市にいる。車で3時間も走ればボリビアに行けるようなところだ。
 その全てをnoteに書きたいと思う一方で、文章を書くというのは難しい。正解という概念がないからかもしれない。ということで今回は重い腰をあげるべく、普段の日記のように徒然と書いてみようかと思う。

 アントファガスタ

 やっとついた都市は想像以上に美しかった。海岸に沿って長く伸びる街並み。すぐ後ろには背の低い茶色い山が寝そべっていて、そこに這うように敷かれた民家。上の方は治安は良くないのだろう。雰囲気は少し熱海に似ているかもしれない。道路の端にバイクを停めて、宿を探し始める。南米に来てはや4ヶ月、宿の一泊の料金を電話で聞くくらいのスペイン語はできるようになった。ブッキングの値段と、現地での現金支払いの料金を比較して、後者を選ぶ。チェックインをしてくれている女性は背が低く、少し肌の黒い丸顔、長く伸びた黒髪は肉付きの良い体を隠すには不十分だ。ペルーの内陸やボリビア出身であることは容易に想像がつき、サンティアゴから北に進んできたことをしみじみと実感した。自分の他に宿泊者はいない。そのそも外国人が観光に来るような都市でもないし、現地の人にとっても現在はオフシーズンだ。

 チェックインを済ませてシャワーを浴びながらパンツと靴下を洗濯する。シャンプーがうまく泡立たない。思えば2日ぶりのシャワーだった。チリは街と街が基本的に大きく離れている。それに仮に街があったとしてもホステルがなかったり、シーズンオフで空いていなかったりする。そして125ccのバイクで走れる距離なんて1日に400kmも行かない。2泊3日で1000kmほど移動したが、その2泊は野宿せざるを得なかった。

 季節は日本と逆の冬、そして南米。野宿は想像以上に辛かった。そもそも出国する時はこんなこと考えてもなかったわけだから、ギアなんて何も持ってない。新しくゲットしたものは、友人にもらった少し破けたテントと寝袋、そしてガスバーナー。アンデン山脈の影響か、夜は想像以上に冷える。そしていつ人に襲われるかわからない不安と、追いかけてくる野犬。床は硬く平らではない上に、寒さと恐怖でよく眠れない。思えば食事だってカップ麺とパンしか食べていなかった。というのは野宿初日の話であり、2、3回もすれば割と眠れるようになる。

 シャワーを浴びて街を散歩しようと思う。南米でそれなりに大きい都市は、セントラルマーケットというものがあり、ローカルな街の雰囲気を知りたければそこに行くのが1番良い。一方でその街で最も危険な場所とされていることも多いが…。
 縦に長い都市はバスがシンプルでいい。マーケットは南だから、南に行くバスを見つけて乗り込むだけでよかった。海が右手に見える限り方角はあっている

 20分も揺られれば街の雰囲気が変わってくる。露天商に行商人、その隙間を這うように道を進める多くの人々。セントラルマーケットが近いことを悟りバスを降りる。あとは好きなように散歩を楽しめばいい。少し歩いてもマーケットが見つからなかったので、街ゆく人に尋ねてみたりする。スマホを使わないと喋りかける口実が見つかるのと、スリの可能性もあるからあまり人の多いところでスマホは出したくない。
 ワンブロック先にマーケットが見つかった。時刻は午後四時、朝のサンドイッチから何も食べていなく、お腹が空いていた。マーケットに入ると漂う生肉の匂いと客引きの大きな声。ぐるりと回るとレストラン街に行き着く。ここでの客引きは過激で、道頓堀のものとは比べ物にならない。しかしどこも同じようなメニュー。海に面していること街は海鮮がうまいと聞いたが、ここではなかったかと考えていると、「ニーハオ、チャーハンあるわよ」と話しかけられた。肌の色、服装、雰囲気的にベネズエラだということが想像され、勝手に彼らの人生を詮索して、勝手に気の毒に感じてしまう。チャーハンなんか食いたくないと答えると、他の客引きに道を塞がれるようにしてハグをされた。どうして彼女たちはこうも鼻の塞がるほど強い香水をつけるのだろうか。
 結局警備をしている警察にオススメのレストランを聞いて、美味しい海鮮を食べることができて僕は満足だった。

 帰りは日時間ほどの道のりを、できるだけ大きな通りを選んで歩く。海はどこでも綺麗である。砂浜で寝るホームレス。マリファナを吸うカップルに、写真を撮り合う女友達。サッカーをしている小さな子どもたちはちゃんと靴を履いていた。

 オフシーズン、気の抜けた街は違う顔を見せる。あまり表に出ないような観光客の少ない土地は、案外その国や地域のありのままの姿を知ることができたりする。化粧を落として肩の力を抜いた女性にこそ魅力を感じたりするのに似ているかもしれない。その時間を狙って参上するのも考えものではあるが。

ひとこと

 「バイクを買う」という決断にはいろいろな理由があったのだと思う。しかしその一つに「旅行を消費したくなかった」というものがある。有名な観光地をGoogleで検索して、そこに行く。そうやって、“みんなが思う美しいところ”を巡り歩くのは、とても簡単な旅行のやり方である一方、自分がそこに本当に生きたかったのかと問われると自信がなくなる。もしそうでなかった場合、「旅行を消費」している感覚になり、いつまでたっても満足できなくなってしまう。ラーメンをうまいからたべるのではなく、有名だから、みんながいいと言っているから行くのと同じように。僕らが行きたいところや食べたいものは、Googleの評価数によって変わってしまうことが多い。もちろんそれが悪いとは言わないが…。
 自分で選んだ先で見つけた美しい景色や美味しい食事には、その時やそれまでの感情も伴っていて満足感がある。そしてそれらは必ずしも有名な場所やレストランであるとは限らないからね。

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