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小説 灰色の街 理想郷12

「ああ、やっと終わった。あれ?つつみさんは?」
高橋奏太たかはしそうたは椅子から立ち上がり大きく延びをした。
「あいつなら屋上で煙草。お前は報告書を書くのいい加減に慣れろよ。」
沢井光太郎さわいこうたろうはコーヒーを奏太の机にポンと置いてやると自分のコーヒーを淹れに行く。
「あざす。みつさん、俺すっごく不思議なんすけど。塘さんってあんなに出来る人なのになんで捜一から出されたんすか?」
奏太はコーヒーを一口飲むとコーヒーを淹る沢井の近くに行く。
「え?塘は出されたんじゃなくて自分から移動を願い出たんだよ。」
「はあ?何でですか?」
「えっと、、、。俺からは言えない。」
「教えてくださいよ。塘さん、教えてくれないもん、絶対に。」
「いやいや、奏太。口軽そうだし。駄目。駄目。塘に怒られる。」
「なんでですか?ヒント。ヒントくださいよ。」
「無理、無理。」
「みつさん。」


朝焼けが冷たい風と暖かな風を混ぜたように塘亮つつみりょうの顔にあたる。
煙草の煙の煙がふわりと街の方へと流れている。
「私にも1本ちょうだい。」
佐々木雪子ささきゆきこは塘に話しかけた。
「佐々木、煙草やめたんだろ?」
「いいの。今日は何だかそういう気分なのよ。」
塘は煙草の箱を開けると1本取り出し易くした。
「ありがとう。」
雪子が煙草をくわえると塘はライターを煙草につけてやる。
「ああ、出世のために禁煙してたのにさ。」
雪子は口から煙を吐き出した。
塘は苦笑いをする。
「あっ、そうそう。田中勇人たなかゆうとが供述をはじめたらしいわ。彼女のためだったってね。何だかね。この社会はどうなってんのかしらね。」
「だからって許されないことだろう。ああ、田中の彼女の事頼む。」
「わかった。帰りに会ってくるわ。」
「悪いな。」
「あのさ。塘、捜査一課があんたを返せって言ってきてるけど、、。どうする?あんたがまだあの事を気にしてるならあんたのせいじゃないんだしさ。相棒の後輩が犯人を追跡中に事故にあったのだってあんたに責任無いんだからさ。それに怪我で済んだだし、、、。」
塘は雪子の言葉を遮る。
「俺の責任だ。あいつを一人で行かせたんだから。俺はまだここにいるよ。それに奏太を育てなきゃいけないし。」
雪子は塘の言葉に微笑んだ。
「わかった。私の下で暫くこき使われなさいな。そんじゃ私は先にあがるわ。お疲れ様。」
雪子は煙草を灰皿に擦り塘に後姿で手を振る。
「ああ、お疲れ。」
塘は屋上から街を眺めた。
この世に理想郷なんて無い。
あるのは目の前の灰色の街だけだ。
塘は煙草をくわえながら灰色の街を眺めた。

おわり

小説 灰色の街 理想郷12をお読み頂き有り難うございます。
またお時間ございましたら宜しくお願い致します。


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