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「未来のマネジメント」を60年先取りしていた「ゴアテックス」の会社に学ぶ組織づくり

「W.L.ゴア&アソシエイツ」の製品でよく知られているもの

「ゴアテックス」・・・アウトドアでは定番のブランドですよね。

優れた品質で、レインウェア、コートや靴、ブーツなどにも幅広く使われています。
登山やキャンプが好きな方はきっとご存知のはず。

ひょっとしたらギターをやっている方は「エリクサー」という弦をご存知かも。これも実はゴアが作ってるんですね。

さて、この記事では「ゴアテックスを作っている会社ってめちゃくちゃすごい」ということをご紹介したいと思います。

【参考】「ゴアテックスなら大丈夫」は本当?実際のところを日本ゴア社で聞いてきた

注意事項

この記事は2019年3月時点で書かれています。
参考にしている情報は当然これ以前のもので、中には古くなっていて変わっている内容もあるかもしれません。
また、僕自身がゴアの人に直接話を聞いたわけではないです、すみません。
(本当はゴアの人とつながって話をぜひ聞いてみたい・・・! )

※追記:↑↑とつぶやいていたら、後日ひょんなことから知り合いの方がつながりがあるとのことで、お話を聞いてくださいました。ほんとにびっくりしました。お話によると、米国法人と日本法人で少し異なる部分はあるそうです。

【参考資料】Building An Innovation Democracy At W.L.Gore
http://www.path.institute/wp-content/uploads/2016/10/Building-an-Innovation-Democracy-at-W.L.-Gore.pdf

※ この記事の柱になっている資料です。英語が得意な方は僕の記事よりも、こちらを読む方が良いと思います。

会社概要

・W.L.ゴア&アソシエイツ社(以下、ゴア)
・1958年創業
・デュポン社で働いていたエンジニアのW.L.ゴアが45歳で、妻のジュネヴィーヴと自宅の地下室で起業
・売上30億ドル(約3,300億円)
・9,500人以上の従業員(アソシエイツ=仲間と呼ばれる)が世界中に在籍
・非公開企業(アメリカの非公開企業において規模上位200社に入る)
・PTFE(テフロン)の専有技術を用いた多種多様な製品を提供
・「長期的視野に立つ」という組織文化から自社ビジネスを評価し、非公開企業を選択し続けている
・電子機器、医療機器、高分子加工をはじめとする様々な分野において2,000件以上の特許を取得

そういえば『ティール組織』ってありますよね

昨年『ティール組織』という本が巷でもてはやされました。色々記事が書かれているのでここでは割愛しますが、日本でも「オズビジョン(https://www.oz-vision.co.jp)」という会社が取り上げられています。

めちゃくちゃ簡単に言うと、これまでの「階層型組織(ヒエラルキー)」にとらわれず、「次世代では当たり前の進化した組織」について書かれた本です。

ゴアは作中では少し触れている部分もありましたが、メインで登場する会社よりもはるかに先駆けて、ティール組織の特徴とされる「セルフマネジメント」・「目的重視」・「全体性」をコアの組織文化として構築していたのではないかと思います(これは私の主観です)。

そして、ゴアは1958年の創業以来一度も赤字にならず、年々成長を続けている。

では、ゴアのマネジメントの特徴とは何なのでしょうか?

これだけすごい会社なのに日本ではあまり記事がなくて、東洋経済に少しだけ紹介されていたものがあったのでとりあえず貼っておきます。

それで、しゃあない、じゃあ僕が書こうと。
(と言いながら、良記事がすでにあったらすみません)

ゴアのマネジメントの特徴・・・の前に、6つの質問

いよいよゴアのマネジメントについて・・・と、その前に最後の前置きです。

前置きと言いながら、せっかちな人のために「答えていけばゴアの特徴がわかる6つの質問」を用意しました。
次の質問についてぜひ考えてみてください。

1. あなたが自分の会社(組織)をつくるとしたら、ヒエラルキー(階層)をなくしますか?
2. 上司や管理者がいない組織をつくりますか?
3. 指示命令や仕事のアサイン(割り当て・配属)をなくしますか?
4. 指示命令やアサインの代わりに、従業員が望む仕事を選べるようにしますか?
5. 自社にとって「コア事業」をなくし、次々と柱になる事業を生み出せるような環境を整えますか?
6. 以上の事に取り組みながら、継続的に利益を出しますか?

6つ目は質問というより結果なので答えようがないかもしれませんが、6つの質問全てに「はい」と答えると、「ゴア・マネジメント」の特徴に辿り着くことができるわけですね。

「え、そんな会社本当にあるの??」

はい。
実は60年前から(生まれてないけど、さも知った風に)。
しかも、実は私たちの身近にその製品「ゴアテックス」がありました。
(そして驚くことに同じような組織がはるか400年前からあったのですが、これは別の機会に…)

「ゴア・マネジメント」11の特徴

では、いよいよ本題である、ゴアのマネジメントで挙げられる特徴について書いていきます。きっと色々な慣習を含めればもっと多いのだと思うのですが、参考資料から「これは」と思うものをピックアップしてご紹介します。

1. 「格子型組織」 ― ヒエラルキーの無い組織と「セルフマネジメント」
2. 仲間から選ばれるリーダー ― 地位も役職も上司もマネージャーもいない、肩書もない
3. 仲間を支援する「スポンサー」 ― 指示ではなく支持
4. 求められるものはチームへの貢献 —高い信頼と心理的安全性
5. ゴアテックスを生み出した「10%ルール」 —新規事業を成功させるカギ
6. セレンディピティ―を促進する環境 — コア事業に執念しないスタイル
7. 自分の仕事は自分で決める — 指示命令も配属もない「セルフコミットメント」
8. 「ピア・レビュー」による評価 — 公平性の担保
9. 独自の退職金制度 — 自社株割り当て
10. 「150人ルール」 ― 大企業病がはびこらない理由
11. 新製品のリトマス試験紙「8つの質問」―「現実的か、勝てるか、価値があるか」を明確にするプロセスと「ウォーターライン」

1. 「格子型組織」 ― ヒエラルキーの無い組織と「セルフマネジメント」

創業者W.L.ゴアの組織観は「格子」のイメージでした。誰もがフラットにつながり、コミュニケーションは個人対個人、チーム対チームで直接やり取りする。ある節点に情報が入ると、たちまち全方向に拡散していく。

対して、およそ99.9%の組織が「ヒエラルキー(階層)型」の形態をしています。私たちホモサピエンスが社会的集団を形成し、人口を増やし、国の体を成すと、ヒエラルキーこそが社会を効率的に回す手段なのだと信じられてきたようです。軍隊や宗教組織もヒエラルキーを取り、学校もそうなり、やがて会社も。

ヒエラルキー組織では情報の伝達にフィルターがかかり、手続きを重視し、責任と権限は上位方向へと偏ります(なのに義務は全体にあるけど)。
ヒエラルキーが悪いと言っているわけではなく(特に、優秀なリーダーがトップにいれば効力は半端ない)、W.L.ゴアが目指したビジョンの実現には「格子型」がよく、ヒエラルキーはたまたま不要だったということでしょう。

結果として、フラットにつながる個人で構成するチームに責任と権限と義務が与えられ、「セルフマネジメント」(自律的管理)で業務に取り組む。ゴアで働く全員に共通するゴールは2つ。「お金をもうけて、楽しむこと」。

2. 仲間から選ばれるリーダー ― 地位も役職も上司もマネージャーもいない、肩書もない

「格子型組織」の当然の帰結として、一部の肩書(恐らくは会社法上必要とされるもの)を除き、「アソシエイツ=仲間」と呼ばれる従業員には肩書がなく、フラットなので上司もいない、「あれしろこれしろ」という邪魔なマネージャー・監督者もいない。

唯一、仕事をやり遂げ、チームビルディングで成功に導き、影響力を持つ人が「リーダー」として同僚から選ばれることがあるようです。

え、じゃあ会社のCEO(代表)は?
これも全社で投票が行われ、「この人になら付いていきたい」と思う人が選ばれる。別に候補者がいるわけでもなく、リストがあるわけでもない中で選ばれるようで、実際、現CEOのテリー・ケリーさん(女性)も「驚いたことに、私だったんです」と。しかもこの時、ケリーさんは3人の子どもを育児しながら働いていたんですね。

※ 検索したらテリーさんご自身が取材されている記事がありました(日本語)

では、リーダーは何か権力とか権限を持っているかというと、そんなものは一切なく、「ナチュラルリーダーシップ」のみ。つまり、チームを導くために自然にリーダーとして振る舞うことが求められるのであって、力を濫用したりはできません。チームは、リーダーをクビにすることができるそうなので、リーダーは説明責任などを果たしながら、ゴア流の「リーダーらしさ」を繰り返し身に着けていくのだろうと思います。

3. 仲間を支援する「スポンサー」 ― 指示ではなく支持

ここまで読んできて、「ゴアで働くって実際どうなんだろう?」と思いませんか?
でも、出社初日、会社に行ってみると上司もマネージャーもいない、何かを指示されるわけでもない…あれどうしたらいいの?

そこで登場するのが「スポンサー」。
新しい仲間が円滑にチームに入れるよう、先輩アソシエイトが様々なチームを紹介して、スキルや能力のマッチングを促す仕組みです。なお、スポンサーとの相性があんまりよくないなと感じたら、別のスポンサーを探すことができるようです。また、チームもその人を採用するかどうか、選ぶ権利があります。

4. 求められるものはチームへの貢献 —高い信頼と心理的安全性

これまで見てきたようにゴアは「セルフマネジメント・チーム」を中心に動いているため、求められるものはチームに対して責任を果たすこと。チームや同僚への貢献のために仕事をして、上司のために働く事はない。上からのプレッシャーはなく、チームで働く仲間同士のプレッシャーがある・・・誰もが上司の顔色をうかがいながら仕事をする多くの組織とは、風景が異なるようです。そんな風景を創り出しているのは、ゴアの原則である「個人の信頼」を中心に心理的安全性の高い組織をつくることを目指し続けているからかもしれません。

5. 自分の仕事は自分で決める — 指示命令も配属もない「セルフコミットメント」

ここまで来ると、他の会社でそれなりに役職と部下を持ってた人が、ゴアに移って仕事をするとなると相当やりにくいだろうな、と想像できます。
実際、マーケティング専門のヤングさんがゴアに転職してきたときはそのやり方に驚いたらしく、「ゴアで、誰かにこれやってとか言おうものなら、もう二度と自分と仕事してくれません」と語っています。

ゴアで重視されるのは、社員本人が自発的に立てた「セルフコミットメント」。経営者や上司が社員にコミットメントを押し付けることはなく、その何倍も価値があると考えられています。ノーという事もできれば、チーム貢献と成功のためにひたすら進むこともできる。結果としてそれが評価にもつながるので、誰のためにやっているのかわからない、ムダな仕事が生まれにくい環境があるのだと想像できますね。

6. 「ピア・レビュー」による評価 — 公平性の担保

ゴアの社員は通常、1つのチームに全てを注ぐことはなく、2つ目、3つ目とプロジェクトに参画することになり、一緒に仕事をするチームの同僚が増えていきます。

ゴアでは一年に一度、「ピア・レビュー(相互評価)」が全体で行われ、最低でも20人の同僚からチームへの貢献に対する評価がなされます。「ピア・レビュー」の結果、事業単位で上位から25%区切り(四分位)のランク付けがなされ、報酬に反映されます。

ゴアの報酬システムは年功序列や資格で報酬が決まることはなく、会社やチームに貢献した人ほど報酬が高くなる仕組みになっています。例えば、ベテランの事業リーダーよりも、会社全体に対して高い貢献を行った博士号を持つ研究者の方が高い給料を得ることもあるようです。つまり、自分の評価が上から決まるわけではないので、常にチームの同僚に対する良い意味でのプレッシャーがかかるわけですね。日本ではかなり想像しづらい制度ではないでしょうか。

※ これは僕の私見ですが「年一評価」は人間のバイアス(1ヵ月間の活躍は記憶に新しいが、10ヵ月前の活躍は忘れられている)や信頼性の低い記憶力に頼ることになり、しかもやたら時間がかかるため不効率です。理想は短期評価の積み重ね(いわゆるノーレイティング)なのだと思います。ゴアは非常によくできている会社なので、この辺りも評価の公平性が担保されているのだろうと推測します(今回見た限りでは情報はありませんでした)。

7. 独自の退職金制度 — 自社株割り当て

記事を見ていてこれもすごい話だなと思いましたが、ゴアの社員は全員が「W.L.ゴア&アソシエイツ」という会社の株主になります。入社して1年が過ぎると給与の12%を自社株として割り当てられ、その後は枠が増えていきます。

仮に年収500万円であれば二年目で12%の60万円分、その後は60万円以上で年々割り当てられ、そしてゴアを去ることがあればその時に現金化できる。しかも、業績連動ベースの利益シェアプログラムがあるようです。全社員が株主になることで、会社の数字や経営に対する関与度を深め、「運命共同体」として絆を深める仕組みになっているわけですね。非公開企業ならでは?の制度だと思います。

※ この辺りは制度が変わっている可能性があるかもしれません。
※ 「日本の現地法人である日本ゴアでは、会社全体の企業価値に連動して退職一時金が支払われる特別退職金制度になっている」とのことです。

8. 「150人ルール」 ― 大企業病がはびこらない理由

さて、これを読まれているみなさんはどれくらいの規模の会社に勤めているでしょうか? 長年勤めていて、社内に顔と名前の知らない人はどれくらいでしょうか? また、意思決定への参加はどの程度できているでしょうか?

ゴアでは「フェイス・トゥ・フェイス」、つまり顔を合わせてミーティングを行い物事を進めて行くスタイルを好むようです。個人の能力を最大限に発揮させるには、様々な分野の人が掛け合わさって、顧客満足を最大化するために知恵を絞る。したがって、研究開発、営業、エンジニア、化学者などが同じ建物の中で一緒に仕事をして、お互いに意見や情報を交換しながらゴールに向かうわけです。

そうは言っても、ゴアは1万人近く働いている人がいるんだから、人が増えてくると限界はあるんじゃない?
おっしゃるとおりです。今回ゴアのことを詳しく調べていて、最も面白いと感じたのが「150人ルール」です。「150人ルール」とは、文字通り「150人に達したら拠点を分ける」ということです。そして、分けた拠点はそう遠くない場所にして、今度は拠点同士の掛け合わせを生むわけですね。

では、最初から150人になるタイミングを計画しているのか?
単純に社員の駐車スペースを150台分にしておいて、誰かが芝生などに停めはじめたら「あ、そろそろ分けるころか」となり、拠点を増やす段階に移る。

「150人ルール」は創業者のゴアさんが試行錯誤を繰り返した結果、「なんか150人超えるとどうもうまくいかなくなるね」ということを発見して、それ以来守られているものです。大切なことは、意思決定プロセスに参画できる範囲は150名が限界ということで、誰かが決めたことをやるのではなく、「自分たちで決めたことだ」と思える大切な仕組みなんですね。結果として、各社員の専門分野をまたいだ相互理解と交流を促し、「官僚制」を排し、「大企業病」も防げる。

9. ゴアテックスを生み出した「10%ルール」 —新規事業を成功させるカギ

ゴアは医療、アパレルから音楽分野まで幅広く製品を生み出してイノベーションを起こし、結果として5%の成長率を実現し続けているわけですが、そのカギを握るのが「10%ルール」です(ちなみにゴアでは「10%ルール」ではなく”Dabble Time”と言うそうなので「パチャパチャタイム」という方が良いのかも。)。

Googleが以前「20%ルール」―就業時間の2割を新サービスの研究開発に充てる―を採用していたことは有名ですね。ゴアは社員の学習を促し、研究開発に前向きになる仕組みを昔から持っていました。それが、「1週間のうち半日は自分が選んだテーマに取り組む」という「10%ルール」です(一日8時間×5日=40時間働くと考えると、半日の4時間なので10%くらいになりそう)。

ゴアでは「コミットメント」を中心の価値観に置いているので、まずは最初に掲げているコミットメントを果たしていることが「10%ルール」を使う条件のようです。

多くのゴア製品が「10%ルール」で生まれましたが、極めつけは1969年に登場した「ゴアテックス」。しかもしかもなんと、W.L.ゴアの息子さんであるロバート・ゴアさんの開発によるという。いやもうなんともはや。

さらに冒頭で少し触れたギターの弦「エリクサー」。これはマイヤーさんというエンジニアが開発。マイヤーさんがマウンテンバイクのケーブルに、ゴアテックスに使われるポリマー素材を巻き付けて乗ってみると汚れないし長持ちするし、結果は良好。

「もしかしたらギターの弦にもいいんじゃね?」と思ったようで、「10%ルール」を適用して開発を進めたところ、指の油がつかないので音が良くなって他の弦よりも長持ちする「エリクサー」が誕生。それまで音楽分野の市場などなかったゴアに、まさしくイノベーションをもたらしたのでした。

10. セレンディピティ―を促進する環境 — コア事業に執念しないスタイル

ゴアは自社の事業(繊維、電子機器、医療、工業)についてどれがコア事業で、守るべきものだ、という線引きをしていません。常に今ある市場に対して、ゴアがアクセスできるかそのチャンスを経営レベルで見据え、現場レベルでは「10%ルール」などの仕組みで事業の種を発見する「セレンディピティー」を促進しています。経営レベルでコア事業の線引きをしないので、現場社員はどこまでもゴアの製品とイノベーションに可能性を感じることができるのです。

ある事業が収益を上げると、どうしてもそれを守る方向へと傾き、段々と保守的になるのは僕も個人的によく理解できます(だって、ちゃんとお金生んでるんですよ…)。でも、そこに閉じこもらず、「よし、次は何かな?」と、「成功体験を早い段階で捨てる態度」には尊敬するしかありません。もちろんその余裕がなければ無理な話ではありますが、「成功の先に必ず待ち受ける落とし穴」を最初から回避する考え方、見習いたいですね。

11. 新製品のリトマス試験紙「8つの質問」―「現実的か、勝てるか、価値があるか」を明確にするプロセスと「ウォーターライン」

では、「セルフマネジメント」だし、「10%ルール」あるし、新製品であれば何でもいいのか? と思いたくなりますが、実際に製品化になるためには現実的なプロセスを経る必要があるようです。それが、「ゴア・マネジメント」の特徴として最後に挙げる「8つの質問」です(正式な名称ではなく、組織的な慣習とご認識ください)。

ゴアが新しい製品や事業への投資判断をする際には、様々な不確定要素とリスクを全て取り除いてからゴーサインが出ます。収益をあげる仮説の明確さと適切なコストパフォーマンスを前提として、「現実的か、勝てるか、価値があるか」の方向性について厳しく検証されます。その検証プロセスを具体化したものが、次に掲げる「8つの質問」です。

【現実的かどうかを検証する質問】
① この製品は顧客の実際の問題を解決するのか?
② この製品を必要とする顧客の数はどれくらいで、より優れた解決策にいくら払う気があるのか?

【市場で勝てるかどうかを検証する質問】
③ 自社が市場で優位に立てるだけの技術的な強みがあるか?
④ 技術面でパートナーを必要とするか?
⑤ 克服すべき制約やハードルがあるか?

【価値があるかどうかを検証する質問】
⑥ 高い利益率を確保できるだけの価格設定ができるか?
⑦ 継続的に収益を上げるビジネスモデルを構築できるか?
⑧ どれくらい早く損益分岐点を超えられるか?

この検証プロセスを辿るために定められた期間はありません。ただし、好きにお金を垂れ流して会社の財務にダメージを与えるようなことは許されません。それがゴアのリスクマネジメント上のカギとなる「ウォーターライン」(船の喫水線=船体が水面と接している線のことで、当然水面が甲板近くになると沈没の恐れがある)です。

「ウォーターライン」はゴアが行動指針原則として掲げている仕組みの一つで、会社に深刻な打撃を与える可能性がある行動や案件については、経験豊富な先輩アソシエイツに必ず相談することを言います(ティール組織でいう「助言プロセス」)。ゴアは、「大きな賭けで大きく儲ける」のではなく、「たくさんの回数で賭けて、大きく儲ける」スタイルを取っているのです。

まとめ ~ゴアの根っこにある哲学

さて、以上僕なりに「ゴアテックス」など数々の革新的製品を世に送り出している「W.L.ゴア&アソシエイツ」のマネジメントについてまとめてみました。

再掲になりますが、創業者W.L.ゴアさんはデュポン社で働いた後に45歳で自宅の地下室で奥さんと起業します。単純にゴアさんのすごいなと思ったところは、テフロンという製品(モノ)にだけ情熱やエネルギーを注ぐのではなく、将来一緒に働くであろう「アソシエイツ=仲間」の人たちにも熱い思いを向けたことです。普通、人への思いが欠けているパターンが多い。

では、なぜゴアさんはこんなすごい組織構想を持つことができたのか?
答えは一つではないでしょうが、それはデュポン社での経験が大きく関係しているようです。デュポン社はとてつもない大企業なわけですが、たまたまゴアさんが配属された研究開発チームで見たものは、自律的な運営がなされ(セルフマネジメント)、より大きな目的に向かってメンバーがイキイキと仕事に取り組む姿でした。たとえ小さくても、創造性と、情熱と勇気にあふれているチーム。ゴアさんは「もし会社全体がこんなチームだったら…?」と働きながら思ったのでしょう。その後、ゴアさんが可能性を感じていたテフロンについて上司は見向きもしなかったため、「それなら自分が」と起業に至り、自分の思いを実現する段階に至った。

ゴアさんは、1960年代に一世を風靡したマクレガーの「XY理論」(簡単に言うと働く人は性悪説と性善説で分かれるよね、という話。詳しく知りたい人はお調べください)にも影響を受けたようです。ゴアさんはきっと、根がとても優しく、いい人だったのではないでしょうか。

そんなゴアさんの基本理念は次の4つが柱。
「個人を信頼する」
「小さなチームの力」
「全員がひとつ船の上」
「長期的視野」

そして4つの指針となる原則。
「自由(Freedom)」
「公平性(Fairness)」
「コミットメント(Commitment)」
「ウォーターライン(Waterline)」

ロングラン製品を生み出すゴアについて、私たちはまだまだたくさん学ぶことがあると思います。

以上、お読みいただきありがとうございました。

■参考資料:
Building An Innovation Democracy At W.L.Gore
http://www.path.institute/wp-content/uploads/2016/10/Building-an-Innovation-Democracy-at-W.L.-Gore.pdf

■情報元
W.L.Gore & Associates Website
https://www.gore.com/about/the-gore-story#overview

「W.L.ゴア&アソシエイツ」日本語版Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/WL%E3%82%B4%E3%82%A2%26%E3%82%A2%E3%82%BD%E3%82%B7%E3%82%A8%E3%82%A4%E3%83%84

日本ゴア株式会社 ウェブサイト
https://www.gore.co.jp/

【オマケ】『ティール組織』の会社一覧

ネット上に『ティール組織』で調査され、メインで取り上げられた会社の一覧がすぐ出て来なかったので作っておきます。

・AES
電力会社 従業員4万人
http://aes.com/

・ビュートゾルフ
オランダの看護師組織 従業員7万人
https://www.buurtzorg.com/

・ベルリンセンター福音学校
公立学校
https://www.ev-schule-zentrum.de/aktuell/

・FAVI
フランスの自動車向け金属メーカー 従業員500名
http://www.favi.com/

・ハイリゲンフェルト
ドイツの病院 従業員600名 
https://www.heiligenfeld.com/

・ホラクラシー
組織モデル
https://www.holacracy.org/

・モーニングスター
食品加工(主にトマト) 従業員~2,400名
http://morningstarco.com/index.cgi

・パタゴニア
アウトドア系アパレル 従業員1,350名
https://www.patagonia.com/home/

・RHD
社会福祉 従業員4,000名
https://www.rhd.org/

・サウンズ・トゥルー
スピリチュアル系に特化したメディア事業 従業員90名と犬20匹
https://www.soundstrue.com/store/

・サン・ハイドローリクス
油圧部品の設計・製造 従業員900名 
https://www.sunhydraulics.com/

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