見出し画像

僕とおじいちゃん


相撲が好きだ


僕とおじいちゃん。


僕のおじいちゃんは相撲が好きだ。

大相撲中継が始まると、食卓の椅子に座ってテレビの前で観戦するのだ。

大相撲は年に6場所開催する。東京国技館で3回、大阪・名古屋・福岡でそれぞれ1回ある。

年々相撲の人気は増えていて、女性のファンも結構いるのだ。彼女たちを「スージョ(相撲女子)」と呼んでいるくらいだ。

僕のおじいちゃんは相撲観戦が楽しみの一つだ。お相撲さんの姿を見ると、元気がみるみる出てくるのだ。

土俵にいる二人のお相撲さんの立ち会いを見るたびに、手に汗を握ってしげしげと観るのだ。

「さあ、どうだんべえなあ。どっちが勝つだろうな。」

僕のおじいちゃんは興味津々だ。

それで、僕のおじいちゃんは同居している僕の叔父さんに夕ご飯を頼んだ。

「キーちゃんよ、豚カツでええべんな。ゲンをかつ(勝つ)ぐからな。」

なんと、豚カツを!

僕のおじいちゃんは歯が丈夫だから、何でも食べるのだ。だから、豚カツなんてペロリと平らげるのだ。

豚カツを食べて気合いを注入。そして、お相撲さんを応援するのだ。

ああ、あっぱれあっぱれ!

そのおかげで、僕の叔父さんの財布はカツカツになった。

ああ、しくしく…。

僕のおじいちゃんは相撲が好きだ。

僕のおじいちゃんは日本人横綱の誕生を心待ちにしていたのだ。
当時はモンゴル出身の白鵬関がほとんど強かったからだ。

僕のおじいちゃんは白鵬が嫌いだ。

「白鵬はな、ズルして相撲とってっからな。卑怯なやつじゃ。強い張り手で相手をベシっと叩いてから有利に相撲を取るんだべな。正々堂々と闘えってんだ。」

どうやら僕のおじいちゃんは勝ち続ける白鵬に不満だったようだ。

僕は「うんうん。」と頷くだけだ。

白鵬関、日馬富士関、鶴竜関と3人のモンゴル人横綱が誕生し、しばらく続いた後、稀勢の里関が横綱に昇進したのだ。

僕のおじいちゃんは喜んだのだ。

「おお!やったやった!ようやく日本人横綱が現れた。おじいちゃんは嬉しい!」

そうだ。うれしい、うれしい。


寅さんが好きだ


僕とおじいちゃん。

僕のおじいちゃんは寅さんが好きだ。

僕のおじいちゃんは僕の叔父さんと同じように寅さんが好きだ。

映画「男はつらいよ」の放映が始まると、すかさずテレビでチェックする。

車寅次郎が登場したら、喜んだのだ。

「ああ、寅か。寅だ。相変わらず四角い顔だべんなあ。」

僕のおじいちゃんは埼玉弁が達者だ。

寅さんの愛嬌ある顔を見ると、ほっこりしてしまうのだ。

旅先で商売をやる度に口上がうまくなる。誰かに謝るときも感謝を述べるときも、きちっとした態度で振る舞う。
寅さんは意外にも弁舌家でありながら、真面目な一面があるのだ。

僕のおじいちゃんはそのワンシーンを観る度に言うのだ。

「ああ、寅はちゃんとしとんべな。たいしたもんべ。」

珍しくほめていたのだ。

僕は「たまにはいいことも言うよなあ。」と思う。

僕のおじいちゃんは寅さんが好きだ。

寅さんの実家である団子屋の隣に朝日印刷所という印刷工場がある。そこの社長は「タコ社長」(太宰久雄さん・役)と呼ばれ、いつも寅さんをからかうのだ。すると、たちまち大げんかになる。
しびれを切らした寅さんは「わかった!もう何があってもこの家には帰らねえからな!!」とまた家出して旅に出てしまう。妹のさくら(倍賞千恵子さん・役)が止めようとしても、寅さんは振り払って行ってしまった。

このシーンを観て、僕のおじいちゃんは言った。

「ああ、タコは本当に頭の中もタコと同じだなあ。」

おじいちゃん… それはちょっと違うなあ。

タコは賢い生き物だよ。海洋生物学の研究では、タコは頭がいいと明らかになっているからだ。

タコ社長は確かに口が悪かった。ついつい言い過ぎちゃうと反省しているのだ。
中小企業の経営のことで頭がいっぱいだからだ。

この後、結果的に仲直りをして家族団らんとなる。そして、タコ社長がまたやらかして寅さんが怒る。その繰り返しだ。

僕のおじいちゃんは思った。

「なんだかなあ。タコ社長も悩んでんだなあ。」


僕は「うんうん。」と頷くだけだ。

おばあちゃんが好きだ


僕とおじいちゃん。

僕のおじいちゃんはおばあちゃんが好きだ。

50年以上も夫婦ともに頑張ってきたのだ。

僕のおじいちゃんはおばあちゃんのおかげで健康的な毎日を送っていた。
畑仕事に出て、たくさんの野菜をとってくる。僕のおばあちゃんはそれらを調理して、「うまい、うまい。」と食べる。
これが幸せな一日なのだ。

僕のおじいちゃんはある日の朝、トーストにマーガリンをベターーっと塗りつけていたのだ。
そうしたら、僕のおばあちゃんは声をかけた。

そのやり取りがまるで志村けんさんの「ひふみばあちゃん」のコントのようだった。

おばあちゃん: ちょっと!じいちゃん!
おじいちゃん: ん!?
おばあちゃん: つけ過ぎ!
おじいちゃん: んん!?
おばあちゃん: つけ過ぎだよ!
おじいちゃん: んああ!?
おばあちゃん: つけ過ぎー!
おじいちゃん: んああ!?
おばあちゃん: つーけーすーぎ!
おじいちゃん: あんだあ!?
おばあちゃん: つーけーすーぎ!!
おじいちゃん: あんだって!!?
おばあちゃん: だから、つーけーすーぎ!!

すると、僕のおじいちゃんは首を左右に振りながら「わからんべ。」と言った。

おばあちゃん: もうおじいちゃんたら、耳がちっとも聞こえやしないんだ
から!!

僕のおばあちゃんは呆れ顔だった。

僕のおじいちゃんはよく「おらはもう耳がツンボだからなあ。」と言っていた。

ツンボとは「耳が遠い」という意味だ。

僕は思わず吹き出してしまった…


そんなおじいちゃんでも、僕にとっては大切な家族なのだ。



おしまい。




■ 読書案内

優勝回数40回を超えた白鵬は土俵に立つ上で何を考え、何と向き合い、どういう理想を求めてきたのか。元日経記者が活写した評伝。

日本の伝統や地域文化を掘り下げながら、映画『男はつらいよ』の魅力に迫る聖地探訪事典。

タコという生物は侮れない。生物学者が近年の学術研究に基づいた知見からコミュニケーション能力、感情・愛情表現、母性などの知られざる知性に迫る。

志村けんは誰にとっても身近な存在だった。それはなぜか。笑いにとどまらず、バラエティー番組とコントの両輪で輝き続けた人物像に迫る。


ご助言や文章校正をしていただければ幸いです。よろしくお願いいたします。