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『わたしの全てのわたしたち』/原作と翻訳について

好評発売中、『わたしの全てのわたしたち』(サラ・クロッサン=著/最果タヒ・金原瑞人=訳)の試し読みを公開するにあたり、原作の情報と、最果タヒさん・金原瑞人さんの共訳について、すこし書きたいと思います。

原作『One』

『わたしの全てのわたしたち』の原作『One』は、2015年に刊行されました。16歳の結合双生児グレースとティッピの青春を詩で綴ったこの小説は、発売前から大きな話題となり、2016年のカーネギー賞を受賞しました。
そのときの審査委員長、Sioned Jacquesは、『One』を評して

痛烈で示唆に富み、各章の詩はそれ自体が芸術作品であり、全体として非常に感情的で魅力的な物語を生み出している。深い感動と美しい視点、珍しくも完璧な作り……最後のページを読み終えた後も、読者の心に長く残る1冊になるだろう。

と述べています。

その後『One』は世界23カ国で翻訳され、本国イギリスやアイルランド、またヨーロッパの国々でも多くの賞を受賞しました。その長いリストがこちら→


受賞:
CILIPカーネギー賞2016/YAブック賞2016/CLPEポエトリー・アワードCLIPPA 2016/CBIブック・オブ・ザ・イヤー賞2016/CBIチルドレンズ・チョイス・アワード2016/ブックス・フォー・キープス賞2017/レッドブリッジ・ティーンエイジ・ブック・アワード2016/チェシャー・スクールズ・ブック・アワード2016/シェフィールド・チルドレンズ・ブック・アワード “ベスト・ヤングアダルト・ノベル”部門2016/ガーディアン紙“ベスト・チルドレンズ・ブック・オブ・ザ・イヤー”2015/ガーディアン紙“ベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー”2016/ディオラフト文学賞2017(オランダ)/バスチアン・プライズ・フォ-・チルドレン・アンド・ユース文学賞2017(ノルウェー)
最終候補ノミネート:
ブックス・アー・マイ・バッグ・アワード2016/ボード・ギャス・エナジー・アイリッシュ・ブック・アワード2016/リーズ・ブック・アワード2016/サザン・スクールズ・ブック・アワード2016/ユーゲントリタトゥール賞 “批評家部門”と“若い読者”部門2017(ドイツ)/フランダース児童・青少年審査委員会賞(ベルギー)/ホワイト・レイヴンズ・レーベル2016(ドイツ)

『One』から『わたしの全てのわたしたち』へ

『One』を日本語に翻訳するにあたり、詩の小説を読むという「体験」を、どうしたら日本語に置き換えられるか、というのがとても重要な課題でした。原書で読んだときに受けた、言語を超えた「感覚」ごと、そのまま写し取りたいと思ったのです。

この作品にとってたいへん幸運なことに、金原瑞人さんと最果タヒさんという、これ以上は望めない奇跡の共訳が決まりました。金原さんによる、原書に忠実に丁寧に訳された「翻訳」が最果さんの手に委ねられ、最果さんによってそのテキストは「日本語の詩の小説」になりました。

『わたしの全てのわたしたち』は、「良質な翻訳」と「詩であり小説である」ことをどちらもかなえ、原書のエッセンスを何ひとつ失っていない、『One』の理想的な、完璧な日本語版であると思っています。

じつは、金原さんは最果さんの「再翻訳」を、できあがるまで一度も見られていません。金原さんはいつも「若い人の感性を信じている」とおっしゃっていますが、今作においても、はじめから最果さんと編集に委ねてくださいました。

最果さんには、「日本語の詩の小説」に再翻訳するにあたり、できる限り自由にやっていただきたいとお願いしました。「詩の小説」という「感覚」の部分を日本語で再現しようとするなら、詩は詩人に委ねるべきで、そこに余計な制約や条件があってはいけない。日本語版が最終的にどうなるか、はっきりと思い描くことはできなかったけれど、最果さんの詩と小説を読んで、『One』の、抑えられた言葉数からあふれ出しそうなみずみずしさを、最果さんはきっととらえてくださるという強い確信がありました。著者サラ・クロッサンに手紙を書いて、なぜ共訳でなければいけないのかを伝え、ストーリーやキャラクター設定、エピソードについては必ず忠実に翻訳することを約束したうえで、「詩」の部分については自由に解釈し翻訳することを許可してほしいとお願いし、快諾いただきました。

最果さんから初めて原稿をいただいたとき、原書に忠実な訳である金原さんの翻訳からは離れたはずのに、原書を読んだ感覚に驚くほど近くなっていたのは衝撃でした。
金原さんも仕上がりを読まれて絶賛、

まったく気負った感じがないのに、ぼくの訳文より緊張感が走っていて、なんか、うっすら青く静電気を帯びているような気がします。

と感想を寄せてくださり、震えるような思いがしたのを覚えています。

裏話が長くなりましたが、そんな経緯で生まれた『わたしの全てのわたしたち』の、冒頭から40ページ目までを公開します。電子書籍で読むときのフォーマットをそのまま画像として掲載していますが、実際に本を手に取っていただくと、紙の色だけでなく温度や手触り(!)まで部分的に変えている、祖父江慎さんによる「ブックデザインの仕掛け」にも気づいていただけると思います。

可能な範囲で、お近くの書店さんで手に取っていただければ幸いです。

試し読みはこちらから ↓

西山寛紀さんの装画と、祖父江慎さんのブックデザインについては、こちらもどうぞ ↓

原作『One』はこちら↓


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