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ハッピーエンドは眠りについてから~ランタナ心の花~【最終話】

【カチンッ】
「ね、何のお歌を歌おっか?」
  女の子に目を向けると女の子は止まっていた。様に見えた。
「えっ?」
  早矢華には何があったのかわからない。女の子はゆっくりゆっくり動いている。一秒で行う動作が十秒くらいかかっている感じのスピードだ。驚きのあまりカスタネットを床に落とし呆然とした。その女の子だけではない。周りの全ての人。男の子が投げたであろうボールも。
「な…
      何  
                             ?   」
  早矢華は理解できず、とにかく病院の外に出てみた。
 ───
├ 天国 ┤
 ───
  早矢華の様子をずっと見ていた天塚も呆然とした。
「そんな…ありえない。副作用?まさか…」
  最悪な状況が頭に浮かんだがどうする事もできない。外に出た早矢華はまた驚いた。やはり外を歩いている人、車も病院の中と同じ現象だ。
「何がどうなったの?私だけがまともに動いてる。私がおかしいの!?だれか~~~」
  早矢華の声は近くにいる人達にもしっかり聞こえているのだが、ゆっくりゆっくりゆっくりゆっくり早矢華の声に気付き振り向いていた。振り向き終わった頃には、早矢華はそこに居ない。病院の中へ戻っていた。
「どうしよ。私だけ。何で、何が。意味がわかんないよ」右足で左足を何度も踏んだ。ドンドンドンドンドン…
 「痛い。痛い。痛い…。夢なら覚めてよ!」
  物事を行う上での正しい順序が乱れてめちゃめちゃになっていた。いわゆる混乱状態だ。泣きだしたかったが泣いてもどうしようもない。今この状況をどうにかしなくては。病院内をうろうろしてると階段でありえない状況を目にした。それは今にも階段上段の角に顔面をぶつけ、転げ落ちてしまいそうな格好になっているお年寄りがいた。すぐに早矢華は駆け寄った。すぐに手を差し伸べそのお年寄りを両手で支え、起こしてあげた。
「よいしょっと。おじいちゃん気を付けてね」
  後ろからお腹の辺りに腕を回し、安全な所へ引っ張って移動させた。
「これでよし。ん~どうしよう。一生このままかなあ、そんなの嫌だ…最初に居た場所に戻ってみよ」
だいぶ冷静さを戻していたが打開策は思い浮かばない。元の場所。今の状況が始まった保育所に来たがどうしていいかわからない。とりあえず声をかけてきた女の子の所へ向かった。その時、床に落としてしまっていたカスタネットに気付かず、足に当たり蹴飛ばしてしまった。
          【カチンッ】
元にもどった。
「おねえちゃん、お歌うたおうよ」
「えっ?あっ、、、お歌またにしよっかごめんね。おねえちゃん、もう行かないといけないんだ。ほんとごめんね、戻ってよかったー。怖かった」
  子供の頭を優しく撫でてベンチに戻り歩き始めた。早矢華は今までの不思議な状況から解放され嬉しい反面、自分だけが何で?と思うと不安があった。さっきの女の子が早矢華を指差しながら言った。
「おねえちゃんすっご~い。虹みたいに光ってる~」
  女の子の声が届いたのでつい両手の平を見た。
「えっ?嘘っ?え~っなにこれ本当に光ってる。。。ンッ! ハッ
ナニ?  アンッ…」
早矢華が倒れた。倒れる瞬間を五メートル程先から母が見た。トイレから帰ってきた母が急いで駆け寄った。
「さやかっ!ねえって!しっかりしなさいさやかっ!!」
  母は一生懸命に早矢華を抱きかかえ揺らした。呼びかけた。そして数分後医者から告げられた。
「お母さん。残念ですが、娘様は心臓麻痺です。悲しいですが…ご臨終です」
    ───
├ 天国 ┤
 ───
「そんな…。うそでしょ…」
  天塚はすぐに通門所へ向かった。

あなたは本当に優しい人
私があなたと同じ世界に行こうとした日
七色の光が満ちたの
そしてあなたが私の前に居て
私の事を願ってくれた
ありがとう
あなたの優しさを
君にもしっかりと伝えたかった
結婚してからの七ヶ月間
まるで線香花火の様だった
凄く短くて切ないけど
とても綺麗で眩しくて
時にはバチバチッとケンカもしたけど
それもひとつの思い出
素敵な日々でした
なんでだろ

   死んじゃった
頑張るって決めたのに
約束したのに
      ごめんね
またあなたに会えるかな

【夢の始まり】

  早矢華は目を覚ました。春の暖かい日差しを浴びながら、心地良い風を感じながらお昼寝をしていた気分だ。そこには立派な門が佇んでいた。十メートル程の高さはあるだろうか。幅は大人十人が両手を広げたらちょうどいいくらい。言葉では上手く言い表せない美しさ。あえて表現をするならばオーロラが『門』の形をアーチ状に保っている。そんな感じだ。後は何にもない。ただ一面真っ白な世界。早矢華は自分の後ろに気配を感じゆっくりと振り向いた。
「おはようございます」
「…はょう…ござぃます」
  薄ピンクのワンピースを着た綺麗な女性が早矢華に声を届けた。「杉山早矢華二十六歳。あなたは死にました」
「えっ」
  『死』を理解できずにいる。もう一度早矢華は辺りを見渡した。
「病院に居たはずなのに?」
「私の名は天塚恵。私はあなたに早矢華様に謝らなくてなりません。そして説明しなければいけない事がたくさんあります」
  今、天塚恵の発した言葉の全てが早矢華にとっては意味不明である。やっと立ち上がって質問をした。
「死んだってどういう事ですか?私元気でしたし病院に…あっ!赤ちゃん」
お腹をさすった。
「はい。お子様は早矢華様のお腹で元気に育っていました。今は、成長が止まっています」
まだまだ理解、納得がいかない。天塚は早矢華が理解、納得してもらうまで一生懸命に話した。
「私は早矢華様の旦那様、宮石誠様を知っています。彼もここに来ましたが、別の場所で会いました。ひょんな事に彼は地獄に落ちました……………」
  天塚は、誠との出会いから天国へ行くまでに人の命を救い若返り、最後には早矢華の命までも救ったと。そしてここにはもう誠が居ない事も。事細かに。もちろん早矢華の心に宿した花の事や赤ちゃんは誠の生まれ変わりだという事も。そして今後の天国で何をするのかも。
「理解していただけましたか?」
「はい…まぁ一応ですけど」
  天塚の言っているのもわかる。正直言うと病院で倒れてから死んだなとは思っていたが現実を受け入れられないでいた。
「と言う事は、私が今死んでここに来たのはその通門花ランタナが満開ではなきままの花の力でって事ですよね」
「はい。本当にごめんなさい。私の行動で結果悲しいことに」  
  天塚は深々と頭を下げた。
  早矢華は真っ白な世界の真っ白な空を見上げた。やっぱりあの時 まこちゃんが一生懸命に私を救ってくれたんだね

そしてこの子供がまこちゃんの命だったんだね
まこちゃんがしてくれた事でこんな事になっちゃったけど
なんでかな
私 死んだのに全然 悲しくないよ
子供に会いたかったのに
親より先に死んでしまったのに
まこちゃんの優しさが今実感できたから嬉しいのかな
ありがとう
でもごめんなさい
生きる約束を守れなくて
「天塚さん、私天国で人生の続きを見たいです。まこちゃんの願いだから。」
  涙が止まらない
「わかりました。それでは目を閉じて下さい。私が合図したら目をゆっくり開いてください」
  ゆっくり目を閉じた。
「どうぞ目を開いてください」
  ゆっくりと開くと、目に映ったのは一面が芝生で上には青空があった。心地好い風も吹いている。
「とても気持ちが良い」
「先ほどもご説明しましたが、ここがなんでもできる自由の天国でございます」
「綺麗ですね」
「ありがとうございます。なんでもできる自由とは、死ぬ前の人生の続きを夢の中でできると言うことです」
「はい」
「お好きな所で寝転がってください。眠りにつけば人生の続きを送る事ができます」
早矢華は適当な場所を選んで最後に天塚に一言伝えた。
「ありがとうございます」
天塚は深々と頭を下げた。
  早矢華はそっと目を閉じ眠りについた。そして夢の世界へ。
「早矢華!頑張るんだよ。もう少しもう少し!」
  母も一生懸命に手を握り早矢華を支えた。
「早矢華さん、大きく鼻から息を吸ってゆっくり口から吐き出してください」
  早矢華には、母の声も助産師さんの声も近くにいるのに微かに聞こてくる程度だが、しっかりと理解している。言われるように大きく鼻から息を吸って、口からゆっくりと息を吐き出した。
「ん~~~~…」
  しばらくして病室に初声が響いた。
「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」
  早矢華は涙ながらに微笑んだ。そして赤ちゃんに触れた。
「あったかい。産まれてきてくれてありがとう」
 涙を流し命という名の幸せに触れた瞬間だった。

   おわり 
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