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ハッピーエンドは眠りについてから~ランタナ心の花~【第23魂】

【不安】

「ちょっと来て~」と母が呼んでいる。
「は~い」
  声の方へ向かうと母は寝室に居た。
「今ねタンスの中を整理してたらこれが出てきたから見せてあげる」
 それは、誠が早矢華の母宛てに書いた手紙だった。
「お母さん宛にに書いたの?」
「そうだよ。結婚式が終わってすぐにね、渡してくれたんだよ」
  手紙を受け取り部屋に戻った。ベッドに仰向けに寝転がり手紙を開いて小さく声に出して読んだ。
「おかあさんへ
  突然のお手紙すいません。早矢華さんとの結婚の挨拶に伺ってからたくさん悩ませたり、悲しませてしまいましたね。そして不安だったと思います。ごめんなさい。四月から社会人で、まだ僕はまともな稼ぎもありません。おかあさんに早矢華と一緒になったのが、まことくんで良かったと言ってもらえるように頑張ります。正直結婚して良かったのかなぁとか、いろいろ悩んでずっと不安でした。でも今は大丈夫です。
早矢華さんの事大好きだから必ず幸せにします。大切にします。これからも宜しくお願いします。早矢華さんに出逢えてよかったです」
  早矢華は手紙を読み終えた後、手紙を両手で胸に軽く押さえつけ目を閉じゆっくりと泣いた。

あなたも不安だったんだね
私は不安って考えもしなかった
幸せしか考えてなかったから
あなたの気持ちが分かっているようで分かってなかったのかな
今は私凄く不安だけど
あなたと友達と家族の絆がとても支えになってるんだよ
ずっと先
私がおばあちゃんになって
そっちに行った時にはまた愛してね
今はみんなの絆と君のために
前を向いて
全力で走るね
まこちゃん
 
 その頃天国では天国で唯一の大きな木、虹木にもたれかかって座っている女性が、〈見界本〉を見ていた。虹木とは虹の花を咲かせ天国にいる人達を心地良くさせる香りを発する不思議な木。もたれかかっている女性は天塚恵。
天塚は誠が早矢華のお腹に運ばれてからずっとその見界本で生きている世界を見ていた。
本はこちらで言うテレビの様な物。
「彼女も頑張ってるわね。彼の気持ちを素直にしっかり受け取っていて素晴らしい。」
  天塚の心話が鳴った。スピリットデリバリーからだ。
「はい。天塚です。はいそうです。
ランタナを、はい、蘇生しました。…ええ、たぶん。大丈夫だとは思いますがわかりました。それでは失礼します」
  天塚の見界本の見る優しい目から真剣な眼差しに変わった。

【現実の終わり】
  
  十二月二十三日、今日は午後から病院に行く予定で早矢華は部屋のベッドに寝転がっていた。
「明日はまこちゃんの誕生日だなぁ。麻美達が一緒に祝ってくれるって言ってたから、まこちゃんも喜ぶなあ」
  独り言を言っていると携帯が鳴った。
「ん?」
  携帯を開くと誠の友達の『平野 智則』とでていた。
「モモ君からだ。なんだろ?」
電話に出た。
「もしもし」
「もしもし早矢華ちゃん。お久しぶりです。元気ですか?」
「うん元気だよ。お久しぶりです」
  誠がいる頃は、智則と友吉と四人でたまに遊んでいた。
「明日さ誠の誕生日だから、友吉と三人で飲もうかなと思ってさ」
「覚えててくれたんだね。ありがとう。でも明日は、私の友達の子と約束があるんだ」
「結婚式に来てた子?」
「そうだよ。よくわかったね!」
「誠の誕生日だから何となく。それさオレらも一緒じゃダメかな?」
「う~ん。私は大丈夫だと思うんだけど」
「聞いてもらっていい?みんなで誠におめでとう言いたいな」
「わかった。聞いてみるね」
「ありがとう。よろしくお願いします」
「はーい。また後で連絡するね。バイバイ」
  電話を切ってさっそく麻美に電話をした。
「はいは~い」
「今いい?」
「大丈夫だよ。おはよー」
「おはよー。明日のまこちゃん誕生日会なんだけど」
「うん」
「私達の結婚式にまこちゃんの友達で、智則君と友吉君って覚えてる?あのー披露宴で歌ってた二人なんだけどさ」
「うん。わかるよ」
「今連絡があって、一緒に誕生日会したいって言ってるけど良いかな?」
「全然良いよ。オッケ!オッケ!美沙子には私が伝えとくよ。きょうちゃんは旦那様とデートで来れないってさ」
「きょうちゃん。残念だけどクリスマスだもんね。うん。わかった。オッケって伝えとくね。ありがとう。また時間とか決まったら連絡してねぇ」
「は~い。バイバイキ~ン」
「バイバイキ~ン」
よしっ。と一言。智則にメールで伝えた。しばらくして、ありがとうございます。と返事が来た。
  さあそろそろ病院に行くための準備をしなくては。まだ着替えてないし髪もくしゃくしゃ。一時間かけて準備完了。
「そろそろ行くよー!」
  小さく母の声が耳に届いた。は~いと返事を返しながら向かった。母と会い、車に乗りこみ助手席に乗りいつも見る景色を目に移し病院に到着した。
「お腹の調子どお?体調もなんともない?」
  母はいつも気遣ってくれる。その優しさがとても嬉しい。
「大丈夫だよ。ありがとね」
「さやかさーん」
  名前を呼ばれ診察室へ向かった。
「こんにちは」
「こんにちは」
  早矢華と母は軽く会釈した。先生の説明が始まった。
「今は十三週~14週ですね。つわりが終わって、生活にも慣れてくる頃でしょう。お腹が膨らんでくるので赤ちゃんの存在を実感できますね。胎盤の完成で安定すると思いますよ」
「はい」
  先生の話しを真剣に聞いている。
「これからお腹が大きくなるから、お腹の部分が調節できるズボンを用意しておくといいですよ」
「どんなのでもいいですか?」
「締め付けてしまう様な物でなければ大丈夫ですよ」
「わかりました」
「妊娠十五週までには、胎盤が完成しますから流産の心配は減ります」
「そうなんですか。あのっ、たいばんってなんですか?」
「そうですね。胎盤は胎児をへそのおで子宮内に繋いでおく盤状の器官で、赤ちゃんがお母さんから酸素と栄養を受け取ることができるようになります」
「へ~、ありがとうございます」
  検査を終えて部屋を出た。
  診察室を出た後に母が自分のお腹を押さえて、
「あ~お腹調子悪くて。ちょっとトイレ行ってくるね」
「うん、行ってらっしゃい」
  母はささっとトイレに向かい、早矢華院内の通路にあるはベンチに座って待つ事にした。座ったベンチの横向かいにはちょっとした保育所があり、親が診察を受けている間に面倒を見てくれる場所。早矢華はそこに目を向けた。
「子供可愛いな」
  遊具で遊んでいる子供達を見ていると、五歳くらいだろうか一人の女の子が早矢華に寄って来た。
「おねえちゃん。あそぼ」
  早矢華はトイレの方に目をやり母がまだ来てない事を確認した後、しゃがんで女の子に目線を合わせて笑顔で、
「いいよ。遊ぼっか!何する?」
「いっしょにお歌うたお」
「いいよ。じゃぁおねえちゃん楽器を使おっかな」
  女の子と一緒に保育所の中に入り、早矢華は遊具からカスタネットを手にした。
「カスタネット懐かしいな、小学生の音楽の授業で触った以来かな」
  早矢華はカスタネットを手のひらの上に置き、もう片方の手でトンと叩いた。

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