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ハッピーエンドは眠りについてから~ランタナ心の花~【第16魂】

    どれくらいたっただろうか、気を失う様に眠りについていた。真っ赤に充血した目をゆっくり開けた真希の前には直毅しか居ない。みんな帰ったようだ。
「起きたか、服着て出てっていいから」
  タオルはほどけていた。脱がされたヨレヨレに伸びた服を着て最後に
「最低」
  と言葉を捨てて泣きながら外へ出た。体の節々が痛くてゆっくりとしか歩けない。
家まで歩いて二時間はかかるだろう。帰れる距離が唯一の救いだ。道をフラフラと歩いていると。
【プップーーッ】
  車のクラクションが聞こえて振り向いた瞬間。。。。。ドカッと車に引かれ真希は頭を強く地面に打ち付け亡くなった。
  真希の父親である喜義は、真希が家を出て行く時に置いて行ったお金を少しずつ使っていたが、働きもしないのですぐに底をついた。それからは公園の水、飲食店の捨てられた残飯やその辺の雑草を食べていた。家はローンも何もかも当然払えないので立ち退いたのだった。例のガソリンに出会ったのは、真希が家を出てしばらくしてからだ。夜中に廃れたガソリンスタンドの横を歩いているとガソリンの匂いがした。夜中なので定員もいない。いい匂いと感じた喜義は、そこへ行くとガソリンがポリタンクの中に入っていたのを見つけてしまったのだ。空のペットボトルをゴミ箱から拾い、ガソリンを入れた。そして躊躇せずに飲んだ。ガハッ、オゴッ…当然不味い。気持ち悪い。最初は吐いたものの悪い気はしなかった。なぜかそれが良かった。慣れてくると全然平気になり、なんだか自分が強くなっていく気がした。完全にガソリンの中毒者になってしまった。
  真希が亡くなる一時間ほど前。喜義は誠と出会った時のようにベンチに居た。何かぶつぶつと小さな声で呟いている。
「かぁちゃんも娘も何処に行ったんだか。オレを捨てて。クソっ人間なんか大嫌いだ」
  ただの酔っ払いにしか見えない。服はボロボロで汚い。もう今着ている物しかないのだろう。急にベンチの上に立ち上がった。
「今のオレは強いから何でもできるんだぜ!!!」
  大きな声で叫んだ。公園を駆け足で飛び出した。ポケットにはどこで拾ったのか鈍器とナイフを隠していた。スピードを落としゆっくり歩きだした。
「ふ~、力を補給しないとな~」
  ガソリンの入ったペットボトルを取り出しグビグビと飲んだ。
「ぷふぁ~」
  口から出る空気は澱んでいる様た。また歩きだしてすぐに、前方にエンジンのかかったままの車を見つけた。その車の持ち主はエンジンを掛けた後、忘れ物に気付いて家に取りに行ってる最中だった。今の喜義には見つかったらヤバイとか車を盗んではいけないという感情は全く無い。
「よーし」
  素早く運転席に乗り込み車を勢い良く発進させた。
「俺は強い。 俺は凄い。 俺は強い。 俺は凄い。 俺は強い。 俺は凄い。 俺は強い。 俺は凄い…」
  運転中ずっと呪文の様に呟いて、目はかなり鋭く殺気が漲っていた。
  真希は家を出たと言っても二つ隣の町に住んでいた。父親に興味がないとは言え一応実家の近くに住んでいた。しばらく車を走らしていると、空が少し明るくなってきた。突然速度を落とした。
「おっ。女発見。まず…一人目」
  ふらふらと歩いている女性を見つけた。その女性は喜義が会社をクビになるまでは愛娘として育ててきた真希。しかし全く気づかない。この事を知ったのは警察の取り調べの時。アクセルを思いっきり踏み込み車の速度をグッと上げ、クラクションを何度も鳴らした。その直後ドカンッと車をぶつけた。喜義はそのまま轢き逃げをし、一キロほど離れた所で車を降り住宅街にとりあえず身を隠した。
その場に座った。今の喜義は正気でないとは言え、人を引いて殺してしまった。体の震えが止まらない。
「ああぁぁ」
  ガソリンを飲んで二、三分ほどじっとして無理やり落ち着きを戻し、立ち上がり歩きだした。
「さぁ次はだ~れだ」
  道を曲がると、今度はスーツを着た若い男性が歩いていた。喜義にとっては運良く周りには人影がない。
「あいつだ。呑気に口笛吹きやがって」
  足音を立てずに鈍器とナイフを取り出し近づいた。手の届く距離まで近付くと思い切り鈍器を頭に目掛けてぶつけた。倒れた瞬間にナイフで刺し一目散に逃げ出した。宮石 誠はこの世を去った。走って近くの公園に逃げ隠れた。
「ハァハァハァハァハァハァ、、、俺は強い。誰にも負けない」
  その興奮が覚めないまま公園の小さな森の中に引きこもったのだった。

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