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「アート思考」と「ハーモニー力」で切り拓いた人生って面白い[転載記事]


本日は、アーティストのみにならず多様な社会活動家として活躍するルミコ・ハーモニーさんにインタビューをさせていただきます。ルミコ・ハーモニーさんよろしくお願いいたします。まずはじめに自己紹介をお願いします。

アーティストのルミコ・ハーモニーです。三人の小学生のママでもありますが、社会課題をアートで解決するグローバルアートチーム「非営利型一般社団法人リトルアーティストリーグ」の代表理事、2023年4月に創設予定の「NPO法人ありのままでいいんだよ」の理事としても活動しています。

今の仕事に至った経緯を教えてください。
現在私はアーティストなのですが、実は美大卒ではないのです。新卒で入社したのが株式会社バンダイ新規事業室です。大学卒業後独立しなくてはという危機感がとってもあったので大学時代もインターンシップなどやってみたものの、自分で事業を作り出せる気が全くせず、エンターテイメントの総合商社と捉えたバンダイに入社しました。

法人チームだったので、超有名企業との協業プロジェクトにも多数下っ端として参加させて頂き、企業がブームを作っていく温度を近くで見させていただいたのも大きな糧になっていると感じています。

バンダイはテレビをメディアとして放映されたコンテンツのオモチャを企画し販売しているので、新規事業ではテレビを使わないキャラクター展開をしてみるというミッションがありました。その中で絵本をメディアとして展開する「くまのがっこう」のプロジェクトに参加するようになりました。絵本を基軸にグッズ展開から始まり、次第に展覧会や映画そしてナショナルキャンペーンと全国展開も手掛けるようになりました。

絵本の絵を使うことで、野菜便が魅力的になったり、料理教室がもっと訴求が高まる様が面白くて無我夢中にやり尽くした末に、自分で絵本を描く側にまわってみるのはどうだろうか?と考えるようになりました。

と同時に、東京のオフィスの近くでフィンランド人と偶然出会って、ファーストデートから一緒に住むことになりました。元々トーキョーワンダーランドを提唱していて、東京にいながらにして如何に世界文化を楽しもうかと様々な国の友達をたくさん作っていました。今の夫となる人に出会った日は、「フィンランド人初めて!ちょうど北欧にビジネスで進出しようと思っているからちょうど良い!」くらいにしか考えていなかったのですが。

そこからは「歯車が噛み合うってこのことか!」と思う程結婚出産と急展開していき、育休を経てバンダイの中枢のメインキャラクターを手掛けるチームに復職を果たしました。元々ビジネスを学びたいという思いで入社しアニメキャラクターに興味がなかったので、花形部署に所属しているにも関わらず自分のやりたいことはなんだろうと考えるようになりました。と同時に出産育児の衝撃があまりにも大きく、このまま立て続けに行かないと次の出産は無いなと思い、思い切って年子で二人目にも踏み切りました。

長女が一歳、次女が生まれて三ヶ月の時に、夫のブラジル赴任で約一年ブラジルのサンパウロにて過ごしました。その際に、赤ちゃんを背負いながら、自分も絵本作家になろうと思い、絵本作りに奮闘していました。フィンランド人と日本人がブラジルに住むことで、異文化の違いの面白さを味わいました。また、子どもを大切にする南米のカルチャーに触れたり、夫の欧米の友達はみんな子どもを三人産んでいることを目の当たりにして、我々も三人育ててみようかということになりました。バンダイの3人目出産に200万円の支援金という制度も背中を押してくれました。

帰国して三人目を出産した一ヶ月後に、初めてのイラストの受注と国際交流を支援するNPO法人ザ・グローバル・ファミリーズの立ち上げに至りました。初めてのイラストの受注は日本財団が助成するLファミリーイベントのメインビジュアルで、後に「家族の心をつかむデザイン」(ピエブックス)に掲載されました。

NPO法人もブラジルで感じた異文化理解の楽しさを、日本の人にも伝えたい一心で英語でピクニックや、英語でアートなど思いつく限りのイベントをバイリンガルで実施しました。その一年後の2016年、よりアート活動にに特化したリトルアーティストリーグを創設しました。

毎月、英語で様々なテーマでアートワークショップを実施していきました。英語でアート制作をする目的は、子ども達に確かな表現手法を掴んでもらうことでした。サードカルチャーキッズと称される子ども達は親の文化とは異なる第三国で暮らしています。親が日本語が得意で無い場合にサポートが手落ちになったり、見た目が違うことで除け者にされる場合がある子ども達が、自分はありのままで良いんだと思える安心できるコミュニティの場づくりを目指しました。

サードカルチャーキッズ向けにクローズドで活動していましたが、多くの日本人達も参加したいと希望が集まるようになり、夏休みや春休みに公開イベントとして展覧会とワークショップイベントを実施するようになりました。

2020年コロナ禍で、病気と闘う子ども達への支援を始めました。知識や経験がなくて、突然重度障がいのある子ども達にオンラインでワークショップを始めたので、とても考えさせられました。考えた末に「思い切ってぶつかって行けば良いんですよ」とアドバイスをもらって、試してみたのが、筆も使わずに作る「やさしさの花」アートでした。半分に折った画用紙に絵の具を置いて畳んですりすりして開くと、華やかな「やさしさの花」ができました。筆さえも使わないので、寝たきりの子であっても、指先が思うように動かない子であっても、素晴らしい作品が生まれるダイバーシティアートが誕生した瞬間でした。

2022年秋、青山の伊藤忠SDGs STUDIOにて、ダイバーシティアート「やさしさの花展」を開催し、多くのスペシャルニーズの子ども達や車椅子の方々にも、ダイバーシティアートや「やさしさとは何か」をお楽しみ頂きました。

その活動をきっかけに、目の見えない子・目の見えにくい子のグループ「ひよこの会」からワークショップをしてほしいという要請を頂いてやってみることにしました。目の見えない子達ってやはり全体を把握するのに時間がかかります。ワークショップをする際にも、一つ一つ触って材料を確かめていき、「紙袋でオバケを作るというより、紙袋をオバケにしてという方が分かりやすい」など少しずつ経験を積み重ねていきました。

2023年2月15日〜21日横浜の象の鼻テラスにて「INVISIBLE MUSEUM-見えない大切な何かを探す展」を開催するに至りました。今改めて思い返すと、私はそういった発見した様々なことをアートにして展覧会をするのが好きなんですね。

忘れやすい、最後までできない自分
そもそも多様性に寛容な社会づくりって自分のためにやっているんですよね。特性の傾向がある私は、鍵や財布や携帯をなくすのは日常茶飯事です。昔は本も読めなかったり、空気が読めないことも沢山あったりして、小さな頃は結構辛かったです。もちろん夏休みの宿題とか最後までやりきったためしはないし、大学受験ですら結構適当に乗り越えた感じです。

社会人になっていよいよ仕事ができる人になりたいと思った時に、壁に直面しました。自分で質問したくせに、相手が答えているうちに興味がなくなってしまい、会話が続かないことを指摘された時に、「このままでは仕事ができない人のままだ!」と焦りが込み上げてきました。

そこで、一週間に一冊の本を読み、一本の映画を観て感想文を書くようにしました。知らないことも多い状態から二年ほど続けると知識がついたのみならず、理解力が増し会話の中でも即座に的確な返事ができるようになりました。興味対象が移り気で注意散漫になりがちですが、一点集中では洞察力や記憶力は他の人より長けているかもしれないことに気づけました。自分の特性を把握して、失敗しないような工夫をしたり、自分の強みを発見して極力自分の良さを発揮できるような仲間と仕事をするようになって、生きるのが楽しくなりました。

やる気はあるのに、仕事がない
新卒で入社し、希望して配属された新規事業室は、同期四十名の内半数が希望するほど人気でした。新規事業室に晴れて三人に選ばれ、所属させてもらえたのですが、行ってみると実際は会社の墓場でした。既存のソリューションを使わずに事業を立ち上げろというミッションは非常に困難極まりなく、ホープとして様々な業界からヘッドハンティングされてきた方々も手も足も出ないという状況で、実際は仕事が無くて困りました。そんな中で新たに事業を生み出す難しさを体感しながらも、なんとか仕事ができるようになりたくて、前向きになんでも取り組みました。小さなカケラを少しずつ集めるように。

私には、能力も後ろ盾も何もない
昔はコネ入社とかあったと聞きますし、友人のお家に遊びに行くと立派な家に立派なご両親で手厚いサポートされていると感じることが多くありました。一方で平凡な家庭に生まれた私は、特にコネも紹介もないので、自分でやるしかないんですよね。かわいい子ならチヤホヤされるであろうけれども、倒れててものたれ死ぬだけな私は兎に角自分で頑張るしかないという気持ちに追い込まれたのが、今思えば良かったのかなと思います。

子ども三人を育てながら、私を生きる
「よく三人も産みましたね」とか、「三人も育てながらそんなにプロジェクトしてるなんてビックリ」と言われることが多いです。一人目の出産の時は、知識も全くない中進行していったので、精神的にかなりの負担がありました。二人目の時は要領がわかっているので半分くらいなんですけど、三人目って小指一本くらいで育ててるような軽やかな気持ちになれました。確かに、食費などは三倍掛かるかもしれませんが、それに気づくのは小学生になった辺りからです。生まれたばかりはお下がりの服を着せるしそんなに食費も掛からないという面持ちでした。育児をしながら時短で働いている同僚が交通事故を起こしたりしているのを傍目で見ていたので、子どもが生まれて育休の時に自分の今後の人生についてじっくり考えたんですね。一応夫は定職についているので、世の中を眺めると専業主婦という選択をしている人と同様に専業主婦という道もあります。仕事をこのまま続けて、髪の毛振り乱しながら奮闘して子育ても仕事も中途半端に終わるくらいなら、一層専業主婦はどうか?とも考えてみたところ吐き気を覚えました。多様な人がいるのでどれが正解とかはないと思いますが、私は「私として生きたい」ようです。誰かのお母さんや誰かの妻だけでは終わりたくない、と。会社復帰することを想像した時に、取り扱うコンテンツが興味の中心ではないんですよね。かといって、退社して自分で事業を立ち上げるかと想像してみても、どうやってやれば良いか分からない。ましてやよく考えると、絵本作家になるのがやりたいことかなぁと思えてきているのに、美大卒ではないし。

一人目からうっすら思っていたことを「何とか形にする」を続けていたところ、三人目が生まれて一ヶ月後に一気に仕事が来るようになりました。何もできない底辺からスタートしているので、できることだけで嬉しいから、「あーだこーだ文句言う前に謙虚に取り組む」を続けてきました。アクションを起こすとまたやりたいことが出てくるので、気づいたら沢山のプロジェクトを抱えるようになりました。「子どもに愛情を注いで」と母からよく言われますが、愛情が無いわけでは無く、それぞれ独立して自分の人生をそれぞれが楽しめば良いと思うので、子どもには最低限しか手伝わないようにしています。

矢印を自分に向ける(人は変えられないけれど、自分は変えられる)
何も後ろ盾もない自分ができるとすれば、「人は変えられないけれど、自分は変えられる」というマインドセットをすることくらいでしょうか。「あの人がやってくれない」「周りがどうのこうの」と言い訳を並べても何も進みません。人が動いてくれなかった時、「ああ、自分の言い方に問題があったのかな。次からはこうしよう」と常に矢印を自分に向けるようにしました。

受注してからやり方を考える
謙虚さを持って、いただける仕事は兎に角「YES」と言ってからやり方を考えました。発注側でなんとなくイメージがあったイラスト制作の仕事も実際にフォトショップを使おうとするとやり方が分からなくて困っていたところ、理系の夫が教えてくれたりと、必要に応じて沢山の救いの手を差し伸べられました。兎に角、断らないことが今に繋がっていると思います。

ゼロからイチを生むハーモニー力
何も後ろ盾もない自分からスタートするには、誰かとコラボレーションすれば良いという発想になりました。事務作業が苦手な私が最初に組んだNPOの相手は事務作業が得意でした。私は企画と運営が得意だったので、素敵なハーモニー力が生まれました。次に創立したグローバルアートチームでは、英語がネイティブではなく美大卒でもない私が、アメリカの美大卒の相手と組むことで、一人では行けないところまで行けたように思います。フィンランド人との結婚もそうでした。北欧好きの森ガールでもなかった私は北欧諸国全部言えるか怪しかったのですが、急にフィンランド人と結婚することになり、結婚生活の中で発見したことを少しずつ集め北欧専門家としてトークショーをするまでに至りました。

ハーモニー力には何が必要かと考えると、相手にギブできる何かです。私の場合は、昔人の気持ちが分からないことが悩みの種だっただけに、常に相手が喜んでいるかどうかが気になり一生懸命考えています。だからこそ相手が欲しがっている情報などをギブできるようになってくると、様々な領域の違う人ともハーモニーできるようになりました。ハーモニーすることは可能性の拡張だけでなく、一人だと停滞しがちなところをパートナーと期限を決めたりすることで、プロジェクトもドンドン進めていかざる得ないところもすごく良い点だと思っています。

人生を切り拓く「アート思考」
ビジネスでは、「ロジカル思考(論理思考)」が必要だと言われたり、「デザイン思考」だ、そして「クリエイティブ思考」だと言われて久しいです。昨今では「アート思考」こそが未来を切り拓く鍵だとされています。「アート思考」とは、アーティストが作品を創造する時と同じプロセスを用いた思考法のことと言われています。アート思考は、自己の内部を見つめ、そこから生まれる表現の欲求が軸となります。全てのことにとらわれない発想を重視することから、今までにない新しい商品開発やコンセプトづくりに適した思考法といえます。つまり、〇から一を生む思考法なのです。

振り返ると私の人生を切り拓いて来たのは、「アート思考」なんですね。「美大に行ってなくてもアーティストになっちゃえば良い」とか、「北欧に住んだことないけど北欧専門家になっちゃえば良い」とか。前提を疑って、ゼロから考えることで、自分にとって何が大切か揺らぎないものが見えて来ると、外野から様々なことを言われた時も自分を貫き抜ける強さを持てるのです。

特にアーティストではなくても、この「アート思考」で人生を生きると、ウェルビーイングな生き方になります。ゼロからスタートした私だからこそ、ワークショップなどのイベントを通じて「アート思考」で掴めるウェルビーイングを発見するお手伝いをしていけたらと思っています。

一般社団法人LITTLE ARTISTS LEAGUE
社会課題をアートで解決するグローバルアートチーム。TCK(サード・カルチャー・キッズ)の孤立を防ぎ、自由に表現できるコミュニティ作りを目的として2016年に設立。コロナ禍で病児支援もスタートし、環境問題やダイバーシティなど深刻になりがちな社会問題を、アートアプローチによって捉えやすくし、アート思考やグローバルマインドを養えると子どもから高齢者まで幅広い層から人気を博しています。バイリンガルのアート性の高い展覧会やワークショップを関東を中心に展開中。2022年3月に非営利型一般社団法人化。

主なアートプロジェクトに、フランス発祥環境アート「MASKBOOK」、ダイバーシティアート「やさしさの花」「INVISIBLE MUSEUM」があり、月例ワークショップ「ART BRUT LEAGUE」を定期開催。2023年3月21日には品川区後援で「アートで世界を旅する WORLD ART TRIP」を開催。イベントスケジュールなどはInstagramをご覧ください。
Instagram :https://www.instagram.com/littleartistsleague/



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