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流氷に憧れて【2】冬の知床一人旅

しばらく雪の森の中を歩くと、急に視界が開けた。広い雪原が広がる。
雪原を歩いていたら、遠くの林の方から野生のシカの群れが走っていくのが見えた。近くにいた一人の観光客に、シカだ!と指をさしながら話しかけたら言葉が通じなかった。でも、彼女もすぐに理解し、deer!と負ぶっている1歳くらいの子どもに嬉しそうに話しかけていた。

雪原と真っ白な知床連山

エゾシカの群れが向かった草地に着いた。エゾシカは雪が解けたわずかな部分に顔を出した草を何も気にしていないかのように当然に食んでいた。檻もなく、シカと人間との自然の距離感だけで成り立つ関係性。人間だけが喜んで写真なんかを撮っていて少し滑稽にも思えた。

シカたちを横目に進むと目の前は断崖絶壁。フレペの滝に到着した。
断崖絶壁の海には流氷が広がっていた。ここから見た流氷の印象は、先ほどバスから眺めたものとは違って、大きな大きな氷の塊が広い海一面に浮かんで漂い、広がっているのが分かった。船がないとロシアにはたどり着けないだろう。
そこから視線を右下に移すと凍り付いたフレペの滝。そこから右に移すと雄大な羅臼岳。その手前でシカたちが草を食む。たまにフレペの滝の氷が溶けて海に落ちていく音が海全体に響き渡った。

最終バスの14:20が近づいてきたので、引き返す。帰り道、私は踏み固められた道を少し外れて森の中を歩いてみたが、スノーシューがないと難しいことがすぐに分かった。歩こうとすると膝まで埋まってしまうのだ。足を雪に埋もれたまま見上げ
た森はとても静かだった。なんとか新雪の道を脱出して遊歩道に合流する。帰りは目の前に知床連山がそびえ立っていた。

バス停に戻るころ、近くを歩いていた一人の観光客に話しかけられた。彼は台北出身で、今日から2週間ほどかけて北海道を一人で旅するのだという。そのままGoogle翻訳でお互いの旅の話をしながら、バスに乗り込んだ。明日、ウトロを発つバスが同じことが分かり、また明日のバスで会うことを約束した。
See you tomorrow!
私は先にバスを降りた。車内にスマホの充電器を置き忘れたことに気づかぬまま。

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