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初めて迎えた秋学期に6つの授業から学んだこと

昨日、今学期最後の課題を提出し、晴れて冬休みに突入しました(!!)。

8月末に始まった3か月半のケネディスクール最初の学期はあっという間でしたが、それでもとても充実していました。

今日は簡単な振り返りということで、私が秋学期に履修した6つの授業の中身とその感想を簡単に書きたいと思います。ケネディスクールをはじめとした海外の公共政策大学院を考えている方には参考になるかもしれません。また授業や課題の様子も簡単にまとめてみたので、眺めてみると大学院留学のイメージが湧くかもしれません。

(注:「簡単な振り返り」のつもりでしたが、壮大な振り返りになってしまいました笑)


まず「学期」の仕組みについて簡単に

アメリカの多くの大学院は、2つの学期で授業が開講されます。

  • 秋学期 (Fall Semester):9月~12月

  • 春学期 (Spring Semester):1月~5月

  • 夏休み:5月~8月

  • *さらにケネディスクールでは1月に"January Session"という希望者のみ受講できる学期が存在します(1月2日とかから授業が始まります笑)。

また、秋と春の各学期(Semester)は2つのタームに分かれており”Fall 1” "Fall 2"とそれぞれ呼ばれます。秋学期を通して開講されている科目もある一方で、Fall 1のみ開講している科目なども存在します。

今学期の6つの授業を振り返る

私の属するMPP(公共政策修士)の履修システムは少し特殊なのですが、そちらについては以前書いたこのエントリーをご覧ください。

今日は今学期私が履修した6つの授業について書きます。

(6つと書くと、日本の大学の感覚からすると少ないようにも感じますが、実はそうでもありません。1つの授業は大抵週に2コマ授業があります。一コマは75分間ですので、授業だけで150分くらいは取られます。そこに予習や課題、試験などが乗っかってくるので、実はそれなりに大変です。)

さて、では一つずつ。

1. 経済学(必修)

  • 【学んだ内容】

    • 今学期はミクロ経済学の基礎を学びました(来学期はマクロ)。「ミクロ」なので、主に消費者や生産者(企業)がどのように意思決定を行うのかを扱います。具体的には、価格はどう決まるのか、利益最大化のための生産量はどう決まるか (費用便益分析)、ゲーム理論などを学びます。

    • しかし焦点は上記のような経済学の基礎的知識そのものではなく、政策(public policy)が上記の理論にどう影響するのか、政策立案者としてどう市場に介入すべきか、という点に置かれています。授業では政府による市場介入の事例を多く扱い、その成否や是非を議論します。トピックは例えばこんな感じです:

      • 国民や社会の効用を最大化するために交番と病院どちらを建設すべきか(シエラレオネの事例に基づいて)

      • 現金給付と物品給付、クーポン券の発行それぞれで国民や社会の効用はどう異なるか(メキシコの実例に基づいて)

      • 所得税控除の対象を、子持ち家庭に限定すべきか、子のいない家庭も含めるべきか(アメリカの実例に基づいて)

      • HIV用の薬を高所得者と低所得者向けに価格を分けて販売することは理にかなっているか

例:税の導入前後における供給曲線の変化(もう少しいい事例がある気もするが探すのが面倒だった)
  • 【形式】

    • 授業:週一回の講義+週一回の少人数グループでのディスカッション

      • 講義は基本的に教授が一方的に話すスタイル。

      • 少人数ディスカッションは、5~8人程度+教授で60分間。その週の講義内容についてどう感じたか、また特定の政策事例の妥当性を議論します。

    • 課題:

      • Problem sets (問題集) x 5:講義内容を具体的な政策に応用して、計算させたり示唆を出させるタイプの問題が隔週で課されます。

      • エッセイ x 3:自分が関心のある政策介入について、その是非を論じます(私は主に日本の政策介入について記述しました)

      • 期末試験:3時間

  • 【感想】

    • 理論は最低限にカバーし、ひたすら応用に時間を使うという、いかにもプロフェッショナルスクールらしい授業だと感じました。習っている概念そのものは学部の学生でも十分理解できる程度の初歩的なものですが、そのような基本概念だけで世の中の実際の政策について議論ができるのは大きな衝撃でした。(もちろん限界はありますが)

    • この授業だけで経済学者になることは絶対にできないものの、あらゆる事象を経済学的な視点で観察できるようになるための「着眼点セット」を体得できたという意味でとても有意義な授業でした。ケネディスクールではこれまでも多くの社会科学が必修になったり外れたりを繰り返していますが、この経済学は常に必修のトップに残り続けている(教授談)そうで、その理由もよくわかります。

    • 毎週の少人数ディスカッションでは、他の生徒の発言と自分の発言の違いを観察することで、一つの政策トピックに対して両サイドの意見を理解できるようになりました。例えば、ダイナミックプライシングは経済的弱者への差別か?という問いに対して、以前は片方の意見しか持っていませんでしたが、ディスカッションを通じてニュートラルに考えられるようになりました。

公式の授業説明はこちら:
API-101: Resources, Incentives, and Choices I: Markets and Market Failures

2. 政策デザイン&デリバリー(必修)

  • 【学んだ内容】

    • 政府として政策を立案し、実行するための基本的な流れを理解します。PDD Frameworkというフローチャート(下図)の各ステップを学期を通じてひたすら実例に当てはめて練習する、といったイメージです。

    • 学期の前半は、下図の各ステップについて、具体的にどうやってインプットを集めて分析していくのかを、細かな分析フレームワークを使って学びます。一通り下図を理解し終えた学期の後半は、実世界の政策を具体的に取り上げ、評価を行います(いわゆるケースメソッド)。ケネディスクール授業の中ではケースが多い方で、例えば扱ったケースはこんな感じ:

      • ニュージーランドのマオリ族に対する不平等是正策

      • アメリカのフィラデルフィアにおける薬物依存蔓延対策

      • 米軍の女性軍人に対する差別・ハラスメント・機会不均等対策

      • AI/自動運転車への規制策

      • 空港の混雑解消施策

PDD Framework(正直公開してよいかは不明だが、公共善をミッションにする学校なので大丈夫だと勝手に思っています。)
  • 【形式】

    • 授業:週2回の講義

      • 講義は極めて双方向的で、質問や意見が飛び交うスタイル。

      • 学期の前半は教官が話している時間が長いですが、後半にはほぼ喋らなくなり、生徒やゲスト講師が話している時間が長い。

      • ゲスト講師としてホワイトハウスで政策立案をしていた方、市長をしていた方、政策課題の対象となるマイノリティの方などが頻繁に招かれます。

    • 課題:

      • 政策メモの作成 x3:基本的に政府や官庁の内部で働く人が想定されており、その際に必要になる「政策メモ」を書くことが課されます。「政策メモ」のイメージは下に添付しておきますが、要は当該政策の対象となる課題と解決策を簡潔にまとめた文書のことです。これの書き方も授業で習います。トピックとなる政策課題は教官から与えられる場合と、自分の好きな政策について書ける場合が両方あります。

      • 政策ブリーフィング:政策メモに書いた内容を、市長や大臣などの"principal" (政策立案の責任を取る人)に対してプレゼンします。ただし、市長などは教官が演じます。

      • (この他に、毎回授業の前に何かしらの小さい課題もあり)

政策メモの例 - "How to Write a Policy Memo That Matters" by Harris School of Public Policy
  • 【感想】

    • 民間企業から来た者としては、世界の政策課題について理解を深められたことがまず知的に大変面白かったです。自分は国際問題や人道支援など特定の領域についての事前知識はあったものの、その他の諸課題に対する理解が極めて薄かったので、多岐にわたる課題をケース(実例)を通じて学ぶことができたのは、知的好奇心が旺盛(だと思っている)な人間にとってはとても楽しかったです。特に米軍における女性の不当な扱いの問題、米国におけるオピオイド問題(Xでポストした内容を下記に貼っておきます)は大変衝撃的でした。

    • 政策分析のフレームワーク(PDD Framework)は、コンサルティング業界から来た自分にとっては、特段目新しいものではありませんでした。一方で、逆に同じようなフレームワークを使っているからこそ、コンサルティングも政策立案も「課題解決」という意味では大部分が共通しているという気づきを得ることができました。これは、将来パブリックセクターで働くことも考えている自分にとっては、背中を押してくれるような発見でした。(「コンサルティングのやり方を続けていてよいんだ」と自信を持てるため。)

    • 事実、コンサルティングの延長のような意識で取り組んだ課題の多くが教官に評価され、クラス全体に発表する機会を複数もらうことができ、その意味でも自信につながりました。

公式の授業説明はこちら:
API-501: Policy Design and Delivery I

3. 人種と人種差別(必修)

  • 【学んだ内容】

    • 2020年、ジョージフロイドの死に端を発したBlack Lives Matterの流れの中で、2021年にケネディスクールのMPPの必修科目として新設された。どの教官を選択するかによって内容ががらりと変わる。また、学期の前半と後半でもトピックが大きく変わる。(以下は私が選んだ教官の場合)

    • 前半は主に、「米国の人種差別」を軸に、なぜ人種差別が始まり、拡大し、定着し、倒壊し、そして今に禍根を残しているのかを学んだ。主な問い:

      • 人種とはいったい何か(生物学的事実か、社会的産物か)

      • 米国の人種差別はどう始まったのか

      • なぜ撤廃された今も人種について議論する必要があるのか

    • 後半ではアメリカの外に飛び出し、世界の各国・各地域で人種やその他のカテゴリーによって、特定の集団が抑圧されてきた歴史を学び、有効な解決策を議論した。主な問い:

      • 人種は個人間の問題なのか?(国家間の問題でもあるのか?)

      • 人種とカースト、階級、性別はどう異なるか?どう相互に影響を与えてきたか?

      • 気候変動、移民、紛争の裏に隠れる不平等は何か?

  • 【形式】(煩雑になるので学期後半の方の授業についてのみ書きます)

    • 授業:週1回の講義(ただし3時間)

      • 教授のレクチャーが1/3程度:主にその週の題材となる国・地域の背景についての詳細なレクチャー(今学期は、ハイチ・インド・フィリピン・グアムなど)

      • 教授の問いかけによるクラス全体のディスカッションが1/3

      • グループ別のディスカッションやディベートが1/3

    • 課題:

      • 毎週の振り返りメモ x 5:毎週、授業で学習した主要な論説や概念を自分の言葉で文章にすることが求められる。加えて、自分自身の経験や将来に対してどういう示唆があったかを含めることが求められる。私は主に授業で議論したことが日本の文脈にどう当てはまるか/当てはまらないか、を書いた。

      • グループプレゼンテーション x 1:4~5人程度のグループを作り、特定の国や地域における人種やその他カテゴリーによる不平等の起源・現状をクラス全体にプレゼンする。今年トピックになった国は、ルワンダ、UAE、インドネシア、ロシア、シンガポールなど。私はクラスメイトと一緒にUAEを取り上げた。

      • 学期全体を通しての振り返りメモ x 1:毎週の振り返りメモを再度振り返り、学期全体を通して自分が学んだことは何だったかを言語化する

学期全体の振り返りメモのカバーページ(絵はDALLE-3の力を借りてつくりました)
  • 【感想】

    • そもそもこの科目が必修になったというのが、極めてアメリカの公共政策大学院(もっと言えばハーバード)らしいと思います。BLM以前は、政策立案者がこのような人種に関する教育を受けてから政府で働くということが全く当たり前ではありませんでした。しかし、パブリックセクターのリーダーを生み出すというミッションを掲げるハーバードとして、BLMの流れの中でこの問題を教育に組み込まないという選択はできなかったということだと思います。

    • 正直、学期前半の「米国の人種主義」について学んでいる間は、この学びを日本人である自分が将来どう生かしていくべきかよくわからず、もやもやしながら授業を受けていました。アメリカの政府で働く人にとって重要だということは理解できましたが、それがどう日本に示唆を与えるのかがわかりませんでした。

    • しかし、学期の後半になり、世界各国の不平等を目の当たりにする中で「人種だけが特別なカテゴリーなのではなく、各国・地域の歴史によって、そこでの不平等を説明するカテゴリーは異なってよい」という考えに教授の助けを借りながらたどり着き、その後は極めて前向きに授業に臨むことができるようになりました。インドではカーストが、フィリピンでは人種が、サウジアラビアではジェンダーが、日本では出身国や言語が、それぞれの不平等を形成する武器として使われてきました*。人種はアメリカにおいて最も武器として使われてきたカテゴリーであって、どこでもそうだとは限らないということに、ようやく気付きました。
      *代表的なものを挙げたに過ぎず、実際には複合的にこれらのカテゴリーが絡み合っています。

    • 結果的には、この授業(特に学期後半)は自分にとって大きな変革の経験となりました。自分のアイデンティティを見つめ直す機会にもなりました。

公式の授業説明はこちら:
DPI-385M: Race and Racism in the Making of the United States as a Global Power

DPI-386M: Race and Racism in Public Policies, Practices, and Perspectives

4. 交渉(必修)

  • 【学んだ内容】

    • ケネディスクールは交渉の授業が有名です。この授業に限らず、多くの交渉関連の授業が開講されており、ハーバードの他のスクールやMITからもケネディスクールに履修しに来る生徒がいるほどです。この授業も選択する教官により内容が異なりますが、以下は私の選択した教官による授業内容です。

    • まず、交渉の基本となる概念を学びました。BATNA, reservation price, ZOPAといった概念は、交渉戦略を立てる際に必ず必要なものです。

    • 次に、交渉の種類によって異なる交渉戦略を学びました。たとえば、近所のスーパーで価格を値切るような交渉と、雇用条件を雇用主と摺り合わせるような交渉は、ルールや目的が異なります。

      • 前者は片方が得をすれば片方が損をする交渉であり、distributive negotiationと呼ばれます。

      • 一方で後者は、こちらにもdistributiveな要素はありつつも、単なる給与交渉とは異なり多くの交渉要素を含むため、話の進め方によってはお互いに得をする(=交渉がない状態よりも良い状態に妥結できる)ことができます。このような交渉をintegrative negotiationと呼びます。

    • 授業では、世の中で一般にdistributive negotiationだと思われていることの多くが、実はintegrative negotiationであるという事例を学びました。つまり、本当はお互いが得をできるはずなのに、ゼロサムゲームだと勘違いをすることで誤った戦略を取ってしまうという事例(+その対応策)を学習します。

    • 最後に、これらの交渉に付きまとう人間の心理的バイアスとそれを回避するための施策を学びます。バイアスの例:

      • Naïve Realism: 相手が自分に反対するのは、相手が自分を理解していないからだと考えてしまうバイアス(ゆえにひたすら説得しようとしてしまう)

      • Vividness bias: 一番わかりやすい指標に飛びついてしまうバイアス。雇用条件交渉において、給与にこだわるあまり社風や時に仕事内容にさえも盲目になってしまう。

  • 【形式】(半期Fall 1のみの授業です)

    • 授業:週2回の講義 + 毎週金曜日の午前中に交渉のエクササイズ(ロールプレイング)

      • 講義:リーディングの内容をもとに、教授が交渉術について講義します。活発に質疑応答が起きるタイプの講義でした。たまに授業内でも交渉エクササイズがあります。

      • 交渉エクササイズ:毎週月曜日にクラスメイトの中から交渉相手が決められ、金曜日までの間に交渉の前提条件を予習し戦略を立てます。その後金曜日午前に交渉相手と実際に学校で会い、ロールプレイングをします。交渉終了後は妥結した場合も決裂した場合も、その場でお互いにフィードバックと振り返りをします。

    • 課題:

      • 交渉エクササイズ:上記のエクササイズに向けて、各人が毎週交渉準備シートを作り事前提出することが求められます。また、上に書いた振り返りの内容も教官に提出します。

      • 実世界の交渉エクササイズ:学期中に3回、教室外の実際の環境で交渉をすることが求められます。その場合も同様に作戦を事前に立て、交渉実施後に振り返りをします。テーマは夏のインターンシップの雇用条件であったり、普段の買い物だったり、と様々です。

最終週の交渉エクササイズは、アイルランドにおける宗教団体のマーチ(行進)の可否とルートを争うもの(5人くらいで交渉します)。実際の街の地図を使って演習します。
  • 【感想】

    • この授業の最も大きな学びは、日常の中に交渉機会は眠っていると気づいたことだと思います。もともと交渉とは、外交官のような特別な人がやること、あるいは転職など人生の転換点にだけやることだと思っていました。しかし教官はことあるごとに「Everything is negotiable (全ては交渉可能である)」といいます。思ったよりも多くのことが、実は交渉可能だということです。そう聞くと、「そうは言っても、交渉なんてしても相手を困らせるだけだ」と思うかもしれません。しかし、交渉前・交渉中・交渉後にしっかりと準備とケアをすることで、自分も交渉相手も交渉をした方がbetter offな状態を作ることができる(可能性が高い)ことを学ぶことができました。

    • また、人間の心理バイアスをしっかり体系化して、「名前を付けて」学べたことで、今後誰かと対立しそうになった際に自分を客観視できるようになると感じます。「名前を付けて」というのが重要で、例えば先ほど紹介したNaïve Realismという名前を知らなかったら、たとえ概念を知っていたとしても思い出しづらくなります。「自分は今Naïve Realsimにハマっているのかもしれない」と明確にチェックできることが、対立を防ぐ突破口になることがあると思います。(ここでいう対立というのは大規模なものだけでなく、仕事の中での同僚との対立など、日常的なものも含みます」

    • なお、クラスメイトと実施する交渉エクササイズはどうしても「現実でない」という楽観から本気度が落ちてしまい、あまり実践的な効果はなかったように思います(単純に色んなクラスメイトと話せるという楽しさはありましたが)。むしろ、一人で交渉に向けて準備している時間や、実世界の交渉エクササイズの方が学びは多かったように思います(例えば下記)。

公式の授業説明はこちら:
MLD-220M: Fundamentals of Negotiation Analysis and Practice

5. パブリックスピーキング(選択)

  • 【学んだ内容】

    • 一言で言えば、スピーチを上達させるためのクラスです。効果的なスピーチをするために、内容面、デリバリー面双方のフレームワークを学んだ上で、あとは授業時間中にひたすら練習します。

    • フレームワークとは、例えば内容に説得力を与えるために必要な3要素といわれる”Logos / Ethos / Pathos”や、ピンチなときのパブリックスピーキング(謝罪会見など)に使える”Acknowlege / Bridge / Communicate"、などです。

Logos / Ethos / Pathos
  • 【形式】(半期の授業です)

    • 授業:講義 or スピーチ演習

      • 講義:全授業コマの1/3程度は、上記のようなフレームワークを実例(主にYouTubeに残っている名スピーチ / 駄スピーチ)を使って学びます。

      • スピーチ演習:残りの2/3の時間を使って、生徒全員が、半期の内に4度も全生徒の前に立って4分のスピーチをする機会を得ます。スピーチをするたびに他の全生徒からフィードバックのコメントが届き、教官からも後日動画でフィードバックが来ます。スピーチテーマは下記の4つ:

        • 説得スピーチ:相手に行動を促す

        • 問題解決スピーチ:社会問題を取り上げ、それに対する解決策を提示する

        • 即興スピーチ:自分が危機的状況に置かれた想定で、鋭い指摘や質問を打ち返す

        • 価値観スピーチ:自分が広げたいと思っている価値観を共有する

    • 課題:上記4回のスピーチを練習してくることのみです。

  • 【感想】

    • この授業は、新たな発見が多かったというよりも、自分のスピーチがアメリカでもなんとかやっていけそうだという自信を得ることができたという点で成果があったと思います。私はプレゼンやスピーチの類はどちらかというと得意な方で、好きでもありましたが、それがネイティブの前でも通用するのかというところが気にかかっていました。しかし実際にスピーチを披露したところ、4回とも教官はじめ全体からポジティブなフィードバックをもらうことができ、大きな自信につながりました。

    • また、クラスメイトのスピーチを4度も聞く機会があるため、クラスメイトの人となりについてよく理解することができたのはとても貴重な機会でした。他のクラスよりもクラスメイトと一段深く仲良くなれた気がします。

公式の授業説明はこちら:
DPI 802M - The Arts of Communication
(なぜかケネディスクールのサイトがなかったためCoursicleにしています)

6. ソーシャルインパクトのための戦略(選択)

  • 【学んだ内容】

    • NPOやインパクトスタートアップなど、社会的インパクトを生み出すことをミッションとしている組織を主語に、その経営戦略を学ぶ授業です。

    • まず、ソーシャルインパクトの基本的概念である"Theory of Change"や"Impact Model"といった概念を学びます。(企業でいうMVV、サプライチェーンやビジネスモデルに該当する概念だと思っていただくとイメージが湧くかもしれません)

    • その上で、このような組織("impact-first organizations")が抱える課題を4つに分類し、ハーバードビジネススクールのケースを用いて事例研究を行います

      • 課題①:どうインパクトモデルを組み立てるべきか

        • ケース:Khan Academy, Embrace, Last Mile Health

      • 課題②:どう収入を確保するべきか

        • ケース:Blue Meridian Partners, Pratham, Nehemiah

      • 課題③:どう組織としてスケール(成長)すべきか

        • ケース:GreenLight Fund, Community Solutions, B Corporation

      • 課題④:どうインパクトを計測すべきか / どうリーダーシップを発揮すべきか

        • ケース:Rocket Learning, Patagonia, Harlem Children's Zone

「ケース」の例。このように一つの組織について10~20ページにまとめられた資料を、全員が授業までに読み、ディスカッションに準備します。
  • 【形式】

    • 授業:週1回2.5時間の授業で、1つのケースを扱います。2.5時間は主に3つの時間に分けられます。

      • 講義:その日のケースをよりよく理解し議論するためのフレームワークや他の事例を教授が紹介します。

      • ケースディスカッション:大半の時間がここに割かれます。教授と生徒のやり取りを通じて、当該組織が抱える課題を浮き彫りにした上で、どう解決すべきかをディスカッションします。雰囲気を伝えるために下にYouTubeの動画を貼りましたが、まさにこのような感じでテンポよく授業が進みます。

      • ゲストとの質疑応答:当該組織の経営陣(時には社長、創業者、時には従業員)が授業に招かれ、教官や生徒と質疑応答をします。ケースディスカッションの時間に議論した内容について、社長(やNPOの代表)はどう考えていたのかなどを直接聞くことができます。

    • 課題:

      • (授業の予習:ケースベースの授業の場合は発言が成績の30~50%を占めるので、予習が不可欠です)

      • グループプロジェクト:4-5人でグループを組み、一つimpact first organizationを決め、そこについてのケースを作成します。詳細な分析が必要になるため、組織内部の人にインタビューを実施することがほとんどです。

  • 【感想】

    • この授業は、この学期で最も学びが多く楽しい授業でした。まず、関心領域が私にドンピシャでした。Impact-first organizationsに対して、日本でコンサルティングを提供していた経験から、その最先端を学びにアメリカに来ましたが、まさにこの授業でそれが叶いました。毎週ケースの題材となる組織はどこもある程度うまくいっている反面、必ずどこかに課題を抱えています。それは寄付者との関係性であったり、組織の不和であったり、将来の戦略性の不在であったりと様々ですが、そのどれもが私のコンサルティング経験の中で実際に見てきた事例に符合しました。それに対して、組織のトップがどういう判断を下したのかを本人の口から聞ける機会は極めて貴重でした。

    • また、この授業は私にとっての最初の完全ケースベースの授業でした。ハーバードビジネススクールでは、基本的に全ての授業がケースベースですが、ケネディスクールではそこまで多くありません。はじめはものすごいスピードで流れていく議論にどう貢献できるか悩んだ時期もありますが、考えながら発言したり、議論の一歩先を読んだりといった訓練を重ねる中で非常に楽しく授業時間を過ごせるようになりました。

    • 最後に、グループプロジェクトでケースを作成することを通じて、日本のとあるNPOについてどっぷりと分析をし、チームやスタッフの方々のご協力も得ながらとてもクオリティの高いケース(組織の直面するトレードオフを鮮明に描くケース)を作ることができたと思っています。また少人数のチームではありましたが、実質的にマネージャーとしてチームワークを統括する経験もすることができました。教官とも仲良くなり、今後一緒に仕事をしていく可能性が高いです。その意味で将来的にも大きな意味がある授業になりました。

公式の授業説明はこちら:
MLD-820: Strategies for Social Impact

授業から最大限に学べた秋学期

ケネディスクールに来る学生の中には、授業が最優先事項ではない学生も多くいます。就職活動が優先であったり、課外活動、ネットワーキングに重きを置く学生も多いです。それもそれで素晴らしいことだと思います。

一方で、私は明確に学びたいことがあってケネディスクールに来ました。そんな私にとっては、「6. ソーシャルインパクトのための戦略」で書いたように、その目標に沿った授業を受けることができた今学期は、極めて満足度の高い学期になりました。

今後も学業とそれ以外はバランスを取りつつ、自分の学びを最大化して卒業したいと思います。

(超長文にお付き合いくださりありがとうございました)

ではまた。

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