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雪辱晴らして雪が降る(2023年1月21日の日記)

 俺は根に持つタイプだ。


 7年前、14歳。中学の部活の友達にカラオケに誘われた。カラオケに行くのはそれが初めてだった。当時の俺は親の影響でクラシックや映画音楽ばかりを好んで聞いていて、流行りの歌は全く知らなかったので、自分がカラオケに行って楽しめるのか不安だった。

 一曲だけ歌いたい歌があった。
 今となっては超有名曲。サカナクションの「新宝島」だ。

 たまたま聞いたラジオ「SCHOOL・OF・LOCK」で初公開されたこの曲。 サカナクションはおろか日本のバンドを一つも知らなかったので、ラジオで流れる曲はほとんど聴き流していたが、この曲だけはめちゃくちゃハマった。YouTubeで例のMVが公開されてからは、この曲だけ何度も再生した。

 カラオケに誘われたとき、俺には「新宝島」しか無い!と思って、当日までに頑張って歌詞を覚えて参戦した。(カラオケで歌詞が画面に表示されることすらよく分かってなかった)

 当日、俺の知らないアニソンやボカロやドラマの主題歌を皆が歌って、ついに俺の順番が回って来る。満を持して曲を登録する。最新の曲だし大盛りあがり間違いなしだろ、決まったな!


 「今となっては超有名曲」と書いたが、当時のうちの中学でのサカナクションとかいうバンドの認知度は、はっきり言って無に等しく、「新宝島」を知っていたとしても映画「バクマン。」の主題歌として知られている程度。要は早すぎたのだ。

 カラオケにもまだ本人映像などは無く、安っぽい使い回しのドラマが流れる。特徴的な歌い方を丁寧に真似して「て~いねて~いね」歌う。だがなぜか誰もノッてこない。「おんっ!」とかやっても苦笑い。次第に恥ずかしくなってくる。顔真っ赤で震えながらもなんとか歌い終え、「あれ、これ皆知らんかった?」と聞くと返ってきたのは衝撃的な言葉。

 「なにこの変な曲」

 なんとその場にいた誰も「新宝島」を知らなかった。どうして・・・。

 その日は他に歌える曲も殆どなく、悔しさで泣きそうになるのをぐっと抑えながら友達が知らない曲を歌うのをニコニコ聴き続けた。

 あの時の絶望感は忘れられない。間違いなくトラウマである。その後現在まで続くカラオケ嫌いの原因でもあるし、他人との音楽の共有を諦め一人孤独にバンドにのめり込んでいくようになった原因でもある。


 去年の年末、あの日カラオケに行った友達の一人と久しぶりに会った。
「また空いてる日久しぶりに遊びたいな。」
「どこ行く?」
「カラオケでも行く?」
(カラオケ・・・?カラオケと言えば。)
 俺は7年前の屈辱の日を思い出した。今こそリベンジの時!


 そして1月21日。
 俺はついに7年ぶりの雪辱を晴らした。

 あの日と同じように、一曲目に「新宝島」を登録。意気揚々と歌い終え、彼にここまでの経緯を話した。すると彼は、
「あ~、その時俺ボカロとかしか聴いてなかったからそりゃ知らんわ」とあっさり。
 俺も特に強い怒りがあったわけでもなく、謝って欲しいとか、行いを悔い改めて欲しいとかじゃない。歌い終えたらすっかり満足してしまい、その後は楽しく好きなアニソンを歌い合って終わった。

   7年間持ち続けた感情はあっさりと解消されてしまった。単純にすっきりしたという感じもなく、今までに無い感覚。何だか不思議な1日だった気がする。

 家に帰って、俺は久しぶりにぐっすり眠った。日記を付けることも忘れてひたすら眠った。

   その夜は雪が降ったらしい。


■今日聴いた音楽紹介
サカナクション - 忘れられないの

 
 過去の清算、トラウマの克服、そんな機会に恵まれる事がこれから何度あるだろうか。
   

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