ベートーヴェンを毎日聴く309(2020年11月4日)
『ベートーヴェン/カノン「タ、タ、タ・・親愛なるメルツェル、ごきげんよう」Woo162』を聴いた。
この作品。大いなる問題作である。
というのは「ベートーヴェンの作品ではない」とされているからである。
では誰が作ったか?というとベートーヴェンのお手伝い役として身近にいた、ということで様々な記録が高く評価されてきたが、その多くは改竄であることが判り、今では悪役に見事な転身をしてしまったアントン・シンドラーである。
でも、この旋律、ベートーヴェンの何かの作品で聴いたような?という覚えがあれば、なかなかのベートーヴェン通かもしれない。
それはベートーヴェンの交響曲第8番の第2楽章である。
この旋律をベートーヴェンは確かに作った。そしてこの旋律をシンドラーは盗んで、ベートーヴェンのカノンとして世に出したということ。
なので、カノン自体は間違いなくベートーヴェン作とは違うのだが、旋律はベートーヴェンの作曲。という難しい立場の作品である。
「メルツェルさん」は、ヨハン・ネポムク・メルツェルという人物。機械技師で難聴になったベートーヴェンの補聴器具を作ったりしていたが、すでにあったメトロノームを改良して特許を取る。
これ以降、作品の速さをメトロノームの表示を記すことで指定することになり、いまでも存在している。
「ベートーヴェンのカノン」は挨拶やお礼として作られたものが多い。
なので、この作品も当初はメトロノームに対するお礼として作り、このカノンを元に交響曲第8番の第2楽章へ転用された。
とシンドラーは書いた。だれも疑う余地はない。一番身近にいた人物が、そう書いているのだから。
しかし、交響曲第8番ができる前にメルツェルはメトロノームを作っていなかった。つまり順序が合わないのである。
シンドラーにとっては会心の作であるこのカノン。史実とめちゃくちゃなことを残してくれたおかげで、現代を生きる我々は混乱している。でも、そのおかげで、今なお、多くの物語ができ、本当のベートーヴェン像を浮き彫りにしようと研究が続けられていることは、面白いことである。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?