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図書館の”気になるクラシックCD”を、いろいろ聴いてみる#10

自分がまだ知らないクラシック音楽との新たな出会いを求めて、図書館にある”気になるクラシックCD”を借りて聴いてみる。
今回はトロンボーンの協奏曲を借りてきた。

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「トロンボーンの冒険旅行」(TROMBONE ODYSSEY)
  トロンボーン:クリスティアン・リンドベルイ
  指揮:レイフ・セーゲルスタム
  演奏:スウェーデン放送交響楽団

トロンボーン。今ではメジャーな楽器で、クラシックはもちろん、ジャズや吹奏楽でもおなじみ。あの腕を伸ばして管をスライドさせる方法で、滑らかな音程変化をつけることができるのが特徴。

でも、もともと、トロンボーンは宗教的な行事とかかわりが強い楽器であり、主に教会で演奏される音楽に使われていた。

例えばレクイエム。有名なモーツァルトの作品を例にとれば「トゥーバ・ミルム(奇しきラッパの響き)」という箇所において、トロンボーンがソロで印象的に演奏される。

また、葬儀においては「エクワーレ」と呼ばれる曲を演奏しながら、トロンボーンを先頭に葬列が進んでいくこともあった。

確かに、トロンボーンはコミカルな音色も出せるが、もともとの響きは厳かで深いものに感じるのである。

宗教的作品以外で本格的にトロンボーンが使用されたのは、ベートーヴェンの「運命」だと言われている。第4楽章のあの苦悩を脱した勝利のような曲調の部分。厳かさとは全く正反対である。それまでのイメージを覆すようなことはベートーヴェンだからこそできたのかもしれない。

それ以降、幅広く使用されることにはなるが、まだ宗教的な部分を表現したり暗示させるところではトロンボーンに演奏させて、その効果を狙うことも多く残った。

さて、そんなトロンボーンを使った協奏曲もいくつか作られているが、作曲家でもあり、指揮者でもあり、現代トロンボニストの第1人者でもあるリンドベルイの演奏を聴いてみようと思い借りてきた。

一番の聴きものはCDの最後に入っている、サンドストレム作曲「トロンボーン協奏曲」だった。これには正直驚き、また面白く、そして感動した。

このCD、借りてきてから収録曲もよく見ないまま、CDプレイヤーにセットして「ながら聴き」していたのだが、後半、何か変な音が聴こえてきたのである。それはF1マシンが、遠くから徐々に近づき、通り過ぎるような音。外をF1マシンが走っていることは考えられない。明らかにトロンボーンの音色らしいのであるが。

収録曲をここで確認することになったが、サブタイトルに「オートバイ小旅行」と記載されている。つまり、F1マシンではなかったのだが、オートバイのエンジン音を模した音を、トロンボーンが演奏されていたのだった。

トロンボーンは音程が滑らかに変化させることができるのが特徴。なのでエンジンの回転数が徐々に上がり、そして下がるというような、または、近づくときは音は高く聞こえ、遠ざかると音が低く聞こえる、救急車のサイレンのような「ドップラー効果」が表現できるのである。

各楽章は各地の音楽を表現している。フロリダだったり、オーストラリアのアボリジニの音楽だったり。その各楽章の最初に、あのオートバイのエンジン音が聞こえる。オートバイに乗って各楽章の地区を旅する。ムソルグスキー「展覧会の絵」におけるプロムナードのような役割のような共通点があるのが面白い。

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トロンボーン協奏曲を依頼された作曲者は、どのような曲を作ろうかと悩んでいたらしい。その時、リンドベルイが各地を旅をした様子を話をしたことで、このアイデアが浮かんだようだ。この作品がきっかけで、さらなるCD制作依頼がリンドベルイに対して行われ、トロンボーン奏者としての名声を獲得したという記念すべき作品であったという。リンドベイ自身がオートバイ愛好家のようで、ジャケット写真もライダースーツ姿だ。

彼のトロンボーン演奏を生で聴いたことがある。指揮者として来日したのだが、アンコールではトロンボーンを持ち出してきて、モンティのチャルダーシュを吹いた。その超絶的なテクニックに驚いた覚えがある。

宗教的な厳かな作品からオートバイの音まで、本当に幅広い顔を持つ楽器であることを再認識した。

CDより演奏が短い短縮版のようだ。

(記:2020年10月24日)

Tom und Nicki LöschnerによるPixabayからの画像

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