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図書館の”気になるクラシックCD”を、いろいろ聴いてみる#11

ポピュラー音楽は、クラシック音楽や現代音楽からどのような影響を受け、それをどのように表現させたのか。それを認識させてくれた、なかなか興味深い体験だった。

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ア・デイ・イン・ザ・ライフ
ポップスに影響を与えたクラシックと現代音楽
(原題   I’d Love To Turn : You On Classical And Avant-Garde Music That Inspired The Counter-Culture)

クラシック音楽以降、新しい時代に生まれたポピュラー音楽において、その音楽家たちは、例えばロックならロックの偉大な先達に影響され、そしてそれをベースに自らが作品を生みだしているが、クラシックはもちろん、異なるジャンルの音楽家からも大きく影響を受けている。
誰の、どの作品が、クラシック音楽のどの作品に影響を受けたのか。
このCDは、それをたやすく結びつけてくれた、なかなか面白い企画である。

3枚組で、多くの作品が収録された内容については、ビートルズのエピソードが一番多く収録されている。
他にはピンク・フロイド、デヴィッド・ボウイ。そして、ボサノバのアントニオ・カルロス・ジョビンなど、幅広い音楽家が影響を受けたクラシック音楽の元ネタが収録されている。

以前、ビートルズはよく聴いていたことがある。とはいっても、せいぜい、シングルになったような、ある程度広く聴かれ、ノリが良い作品ばかり。かなり後期の、ちょっと毛色が変わってきたころの作品は、あまり聴かなかった。

なので、このCDを聴くことで、そしてなかなか楽しい解説を読むことで、今更ながらだが、ビートルズに対しても多くの発見をすることができた。

例えば「ペニー・レーン」。間奏で聴くことができる、あの華やかなトランペットのソロは、バッハのブランデンブルク協奏曲に出てくるトランペットに影響されたということは、以前聞いたことがあるが、ラジオから流れていたブランデンブルク協奏曲第2番を聴いたメンバーが、その放送で演奏していたトランペット奏者を連れてきて、あのソロを録音したのだという。


また「ビコーズ」の冒頭で聴かれるギターの和音は、ベートーヴェンの「月光」の第1楽章に出てくる和音を逆に弾いたものを参考にしたとか。以前は特に気にもしていなかったが、そう言われると、「へぇー、確かに」と思ってしまうエピソードだ。


また、このCDにはクセナキスやシュトックハウゼン、ベリオやケージといった現代音楽作曲家の作品も収録されている。それらは、なかなかじっくり聴いたことが無かったもの。あったとしても変な、実験的な、心地悪いもので、とても興味持つどころではなかったものだが、今聴いてみると、そんなに目新しい感じはしない。ただ、心地があまりよくないのは変わらなかったのだが、面白く聴く機会ができた。

ビートルズは、実は彼らからも大きな影響を受けたという。

私自身、ここで大きな誤解をしていたことが分かったのだが、ビートルズと彼ら現代音楽の作曲家の活躍の時期について、ビートルズの前にすでに現代音楽の作曲家は、いろいろな実験をして彼らの音楽を生みだしていたということ。なんとなく現代音楽というだけで、もっと新しいイメージがあったのだが。

「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」(このCDの邦題にもなっている)には、間奏と最後の部分に、管弦楽によって混濁した音が低音から徐々に高音へ、クレッシェンドして高まっていく、という部分がある。聴いた当初は単なる騒音で気分が悪く感じたものだ。きっとメンバーが麻薬でハイになった時の様子を表現したのだろう、と思ったり。これは、クセナキスの「メタスタシス」で聴かれるものだという。
以下では、その管弦楽がレコーディングされる際のスタジオと思われる様子が映っているのが興味深い。


シュトックハウゼンの「少年の歌」。これは聖歌隊で歌い少年の歌を録音したものを、切り取って、つぎはぎに張り付けつるコラージュを取っている。まあ、ちょっと気味が悪いのだけど。途中の電子音楽も、当時は最新のものだったのだろうが、今から聴けばレトロに思え時代を感じさせる。「トゥモロー・ネバー・ノウズ」にも同じようなコラージュというアイデアで成り立っている。


「レボリューション9」は様々な音楽や声を録音したものを逆回転させて、コラージュしたものだが、ここにシベリウスの交響曲第7番が採用されているとか。逆回転なので、どこなのかはよくわからないのは当然か。でも、それらしい、管弦楽がなっている部分はある。


今回、このCDがきっかけで、ビートルズを再度聴いてみたり、また、現代音楽をじっくり聴いてみたり、とても刺激的な時間を過ごすことができた。

ポピュラー音楽の作品を聴く際、これはクラシックのこの作品に似ているとか、想像でもいいので気にしてみると、今までにない違う観点から聴くことができるし、それが新たな発見へとつながるだろう。

Yannick McCabe-CostaによるPixabayからの画像

(記:2021年1月18日)

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