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アンブシュア・イメージの話

 頭の中で生み出したメロディーやリズムのアイデアを歌にして声や楽器で表現する「音楽」というものを作るときに、
肝心の楽器が頭の中の音楽をダイレクトに出せない場合、それは大変苦しく辛い。
 トランペットの場合、まず楽器をコントロールするという点において気の遠くなる様な時間とエネルギーが必要になる。少なくとも私はこれまで相当な時間と労力を費やしてきた。

 腹式呼吸についての研究、舌の役割についての研究、歯や歯茎、顎についての考察と研究、唇について、上唇と下唇の役割や関係についての考察と研究、アンブシュアについての研究、リラックスするということについての考察、音楽とメンタリティの関係についての考察、、、
 毎日が気付きや閃き、そして失敗や挫折の繰り返しである。

 今回このnoteに文章を記すことにしたのは、随分と永くかかったものだが、最近アンブシュアについての考え方がまとまり、それが腹式呼吸から体全体のことや心のことまで、また音楽制作そのものに影響があることを感じ、私がいつかまた道に迷った時に読み返し前進するための道標を立てておこうと思ったからである。

 唇(口)の周りの筋肉をどの様な形にするか、どの方向にどの程度力を入れて調整をするのか、私の場合あるひとつの形を維持して一定方向に基本同じ力を入れ続ける、といった感じで長年研究をしてきた。
 その基になる考えは「音色や音程の安定は理想的なアンブシュアがひとつの形を維持していること」であった。この考えは腹式呼吸や姿勢にも繋がっており「形の維持」という行為がいつかやがて綺麗で安定した音を生み出してくれる、という思いに溢れていた。
 真面目に一生懸命、苦行の様に、半ば無理をして「型」に拘りその果てに「安定した強さ」を身に付けるということであり、子どもの頃から身についてしまった「我慢」や「苦しみを伴う努力」をしないと進化出来ないという考え方なのか、この姿勢が大きなブレーキになっていたと思う。
 これは「自分を苦しみの中に置く」ことにより自分を鍛え、そこからいろいろな事を得て「強い精神や勝ち抜く魂」を手に入れる、という考え方で、
でもそれは、「怠け者的な考え方」「試行錯誤からの逃げ」「努力の姿勢を見せることで安心する」という後ろ向きな、あまり頭を使わない方法なのであったと今にしてみれば言葉にすることが出来る。
 これに気付き、この一年ほどアンブシュアというものについて深く考え、実験を繰り返してきた。

 まず、頑張って一心不乱に「型」を維持し続ける訓練を止め、「音域により振動帯(主に上唇)がどの様になっている、もしくはなっていくのか」を細かく研究してみた。
また「イメージした音色や音程を出すために振動帯の形や硬さの変化が必要か」「自分の顔の筋肉の動きの癖によって振動帯がどの様に変化していくのか」等をチェックしその都度考察し音にどの様に反映されているかまでをじっくりと観察した。

 その結果、上唇は出来るだけ柔らかい状態を維持し、形もある程度変化の無い状態、それを口の脇の筋肉や下顎の力の入れ具合で調整し支える。
…というのが現在行き着いた、今の私の奏法の中心になる考え方である。
 低音は空気のスピードが遅く、量が多い。高音は空気のスピードが速く、量は少ない。それぞれ状態の違う空気の出力の微調整が大切だ。
また音色については、空気の出力の調整に加え耳を使った「部屋(箱)の響き」を作るイメージを中心に置く。
 いずれにしても自分自身の感覚と耳からの情報(響き)をミックスし、総合的に「音を作る」ことがこのアンブシュアの調整のイメージに繋がり、そしてそれに必要な脳と体、細かくは口腔内の動きの基本方針が決まる。

 〜私にとっての具体的なアンブシュア・イメージ〜(*必ず腹式呼吸を伴うという条件付)

「ウォーミングアップ開始から3時間程度(途中休憩時間を含む)まで」
■Low Bb以下 口の脇の筋肉と下顎は「何もしない」感じ
■Low Bb〜F辺り 口の脇の筋肉と下顎にほんの少し力を入れる。形のイメージはニコリとするsmileリップ。
■F〜チューニングBb辺り 少しのsmileリップ。(口の脇が外に広がらない。寧ろ内側に寄せる様なイメージ)
■チューニングBb〜その上のF辺り しっかりしたsmileリップ。(内側に寄せるイメージだが、上唇に影響が無いように気を付ける)
■F〜High Bb辺り よりしっかりとしたsmileリップ。(上唇に影響が出やすいので特に注意して)
■High Bb〜W high Bb辺り あくまでも上唇の柔らかさと形が崩れない様に注意しながら、口の脇の筋肉と下顎のsmileリップを微調整していく。基本的には寄せていく感じ。

ただし、
■「型」に拘りすぎて「音」を考え方や感覚の中心から外さない。
■上記のアンブシュアの細々とした点についてはあらゆる要因で常に変化することを忘れない様に。
■脳も体もリラックスして初めて良い振動が得られるということをいつも理解すること。

「3時間を過ぎてから」
■唇の状態の変化を認め、
■充分な休憩を取りながら、
■無理をせず、
■その日の最初の良い状態を復元しようとせず(難しい、多分無理)、
■基本的には前の3時間の「イメージ」を大切にしつつ、
■特に、超高音が出づらくなる状態については焦らず、
■下顎が前に出てきて疲れた口周りを支えようとするのを止め(ついやってしまいがち)、あくまでも上唇で吹くこと(上唇が音を作るということ)を忘れずに、
■「いま」のベストな音を生成することに意識を向ける。

 面白いのは、この状態(3時間以降)になってからの方が逆に、音楽的に無駄な音の羅列をしなくなり、音楽制作に集中することが出来る。この考え方に至ったのもこの研究の成果だ。

 唇は振動することで腫れてそのものの形や硬さが変化してくる。
 耳も時間の経過と共に音量に対して鈍くなってしまう。(大音量に慣れ、pやfをそれより大きな音と錯覚してしまう。)
 また「心」は体や耳が常に変化していくことを忘れがちで、その上「状態の良い時の再現」への欲求を捨てることが大変難しい。

 この研究を通して、いつもベストコンディションで気持ちの良い状態が「良い音楽の制作」や「良い音の生成」に比例しているとは言えないのではないか、と思うようになってきた。ある境地に辿り着いたとも言えるのだろうか。

 しかし、コンディションが良く精神的に安定している時の音的な安定感は捨て難い、、、いつかこの「安定感のある音色や音域を保ちつつ、音楽世界が自由に広がっていく感じ」を実現することを夢見てこれからも進んでいこう。

 楽しむことを忘れずに。

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