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昨日エアコンが壁から落ちかけた。

あの16kgもある約30畳を冷やせる大型のエアコンだ。
新婚当時は私たちは比較的新しい賃貸のアパートに住んでいた。

場所はお互いの職場の中間点で、浴室乾燥機もありお風呂は脚が伸ばせて窓も付いていた。快適だったし、近所付き合いも薄い。

キッチンはオール電化で2Fには2部屋あった。私たちは新婚当初から夫婦別室だ。これはお互い譲れなかった。実は私たち夫婦は同じ部屋で眠ったことがない。ただの一度もないのだ。

お互いシフトの仕事をしており決まった時間に会うわけではなかったが、別々の家で暮らしているよりは話す時間が増えた。食事もともにすることが多くなった。お互いに仕事を優先していて同居人、という立ち位置だった。

そして付き合いも3年目となった頃、新婚生活として住むための家電を一緒に選んだのだ。背伸びして買った大型エアコンは1Fのキッチンもあるリビングにつけた。前に突き出したエアコンは立派だった。センサーが内蔵されていて、人を狙って風を当てたり避けたりできるAI機能付き。
エアコン内部は勝手にお掃除機能が作動してくれていてお手入れも楽々だった。

ただ一つ、今でも引っかかっているのは結婚前に、夫から「一緒に暮らしてみて性格が合わないこともあるから住む場所はとりあえず賃貸にしよう」と言われたことだ。「籍入れるのになんじゃコイツ?」とは思ったがそれだけ慎重派なのだと思った。

それに、もしもバツ1となった時ダメージがでかいのは一回り以上年上の夫の方なのだから。そして私は「1回したけどダメだったんだよね」という仕事に生きることの免罪符を手に入れられる。

しかし今のところ円満な家庭生活を営んでいる。
賃貸で暮らしている時に長男を妊娠した。各部屋で眠るスタイルを貫いていた。とても親しい友人に話すと「本当に結婚してる?そうゆう契約の結婚なの?」と訝しげにされる。

そして約束していた通り、家族が増えるにあたって離婚の可能性が低くなり、分譲のマンションへ引っ越すことに決めた。市内の全部をあたったのではないかと思うほど内見をした。
不動産屋も回数を重ねるごとに、だんだんとデカくなってくる私の腹を見ては「早く決めないと産まれちゃいますよ?」と本気で心配された。時限爆弾は10ヶ月もない。それまでに契約、リフォーム、引っ越しもこなさなければいけない。

夫はあれこれと理由をつけては義実家から遠いマンションの購入を渋った。
結局のところ、夫の実家の近くのマンションでないと納得しなかった。
築年数数が古く、洗濯機は外置きになり、風呂場は深く狭い。もちろん窓もない。なんとも息苦しくて私には耐えられないと思った。湯舟につかって誰もいない時にはドアを開け放ち涼しい空気を浴びている。

トイレも狭く尻をふく時に脳天を壁にぶつけることがある。
何もかもが狭いマンションだった。リノベーションしたとは言え、作りが古いのは事実だった。
だが、もうここに決めなければ腹に抱える時限爆弾が爆発してしまうこともあり、私が折れることになった。もういっそここに住むかと腹をくくった。その選択が地獄への入り口だった。

私の実家は車で約4時間かかるところが、義実家は徒歩〇〇歩だ。
この意味が分かる人、挙手願いたい。
かつて上沼恵美子さんは「嫁と姑は日本とシベリアくらいの距離があったほうがええ」「嫁は家に呼ぶな」と言った。私の中の小人は拍手喝采だった。

嫌な思いをすることが多かった。それも引っ越し当日からだ。
もう書き尽くせないのでここでは割愛する。今はそれとなくうまくやっている。

東村アキコ先生の「身も蓋もナイト」のポットキャストやyoutubeで「ヤバい姑選手権」に投稿しては時々読まれている。これくらいでしか憂さ晴らしにならない。他のコーナーも面白いので是非聞いてみてほしい。

詰まるところお互いの息遣いが聞こえるような距離間での生活は息苦しい。同居の人はよっぽど辛抱強い方だと尊敬する。

そうして引っ越しから2週間後に子は元気に産まれた。
部屋の片づけもままならないまま段ボールをくくって引っ越し業者に引き渡した日に陣痛が来た。いつもギリギリの橋を渡って私は生きている。

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そして昨日、その新婚エアコンが落ちかけた。

実際の写真である。

エアコンを設置した壁は一枚板ではなく、ベニヤ板が3枚横に並べて貼られていた。そしてそれにほっそいほっそい釘が2本×4本(タッカー)打ち込まれている簡素なものだった。こんなもんに16kgのエアコンを設置していたのだ。これは施工不良じゃないのかとすら思った。

5年持っただけまだマシだったのかもしれない。壁紙が破れメリメリと今にも落ちかけている。
もしも、落下地点に息子がいたら確実に死んでたと思う。大人でも打ち所によっては致命傷を負うような勢いで落ちるだろう。仮に大きな地震が来たとしたら揺れの角度によってはすごい角度で落下しただろう。ゾッとする。

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昨日、電気業者が来てこの状態では、補強して使うことは不可能だと説明される。苦渋の決断を迫られて、私の一存でホースは切られた。
こうして、まだ7年しか使っていないエアコンはあっけなく床へと着地した。
もうこの家では使えないのだ。この壁の強度が足りないどうしたって使えない。こんな悲しい別れ方をするとは思わなかった。…この時点では。

このマンションじゃなくてちゃんとしたコンクリート面にアンカーを打っていれば落ちることはなかっただろう。このエアコンを下取りに出して、新しく迎えるのは軽量のものになる予定だった。そういえばジャパネットではエアコン祭りを夏中やっているとぼんやりと考えていた。

ここじゃなかったらエアコンは今も元気に作動していたし、あの日あの選択をしたからこうなったと思うと悔いが残る。
だけど、身の丈にあった家電を選ぶことが必要になったのだ。
釘2本ギリギリ耐えて落ちなかったのは不幸中の幸いだ。

これから必要なのは工務店に壁の修理を依頼することだ。
運の良いことに、ここの土地で知り合った人に腕のいい工務店の方はいないか尋ねて紹介して頂いた。大変なことになってるなぁ…と労ってくれた。
そしてその工務店の方は信頼のおける人だと太鼓判を押してくれた。
その見積もりに職人さんが今日、もうすぐ来る。

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そうして待っているうちにベテランの職人さんが見積りに来てくれた。
汗をかきながら丁寧にベニヤを剥がし、クロスも出来るだけ傷つけないようにカッターで綺麗にとってくれた。

この壁は3枚で構成されていて、真ん中が空洞になっている構造だった。
厚さ9㎜の奥のベニヤを真ん中をくり抜き、奥のコンクリート部に木を固定しそれをビスコンで固定すれば今回落下しかけた16㎏のエアコンでもつけることが可能だという話だった。

リフォームした時に気が付いていたらこうはならなかったのになぁ…と同情してくれる。他にも家の不調の箇所を見てもらいそれも含めて見積りをとった。10万円以下だった。有難かった。

車屋のディーラーやバイク屋や保険屋で若いころ散々多めに支払ってきた。性別と若さと無知がなせる技だった。騙されているなんて考えもしなかった。女1人の大きな買い物は足元を見られる。

結婚後の見積りも1社しかとらなかったし、即決した。
「あの、ここでしか見積り取ってませんしここで決めます。」というと大手引っ越し会社の営業の方が、「え?!」と声をあげた。
そして、閑散期だったこともあり、とんでもないほどの割引をしてくれた。しかも荷造りを手伝ってくれるおばさまたちまでサービスで派遣してくれた。腹がとにかく重かったしすぐに張ったら休ませてくれた。
この土地は基本的におっとりとした人しかいないと思っている。
職場でどろっとした嫌な思いもしたけれど、根っこはいい人だとも思う。

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そんなこんなで、今床で休んでいるエアコンは2週間以内には再稼働するのではないかなと思う。また元気に動いてもらえるのかと思うと嬉しい。
まだ動くものを手放すのは名残惜しい。勿体ないと思ってしまう。下取りに出すような年式でもない。

さて、エアコンの再取り付けも電気工事のお兄さんにお願いしなければならない。

たくさんの選択肢と出会いで落ちかけたエアコンは強化されてまた天高く設置される予定だ。

#あの選択をしたから

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