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アフリカの妊産婦死亡率削減に向けた医療支援の重要性に迫る!

アフリカでは、妊産婦死亡率が依然として高い水準にあり、多くの命が救える可能性があるにもかかわらず失われています。日本とは一見全く関係のないことのように思えますが、日本の医療は世界でもトップクラスであり、アフリカ全土での妊産婦死亡率の削減に向けた支援は、より健康で持続可能な未来(SDGs ※1 の描く理想的な未来)を築くための重要な一歩です。ここでは、現在のアフリカ諸国の妊婦さんの現状やその背景、そして支援の必要性や将来の展望ついてお伝えしていきます。


はじめに

ここでは、現在のアフリカ諸国における妊産婦の現状についてや、妊産婦の死亡率が上がるとどのような問題が起きるのかをお伝えします。

アフリカ諸国の妊産婦の現状

アフリカ大陸全体での妊産婦死亡率は依然として非常に高く、特にサブサハラ・アフリカでは深刻な問題となっています。2020年のデータによれば、世界中で妊産婦死亡が最も多いのはサブサハラ・アフリカで、アフリカ諸国の約70%に相当する妊産婦死亡がこの地域で発生しています。
具体的に言うと、サブサハラ・アフリカ地域の妊産婦の死亡率は100,000件の出産あたり551件であり、これは世界平均の223件を大きく上回りほぼ2倍の件数です。

これは、質の高い医療サービスへのアクセスが限られていることや、十分な産前・産後ケアが行き届かないことが大きな要因となっています。
また、妊産婦死亡の主な原因は、出血、妊娠高血圧症、妊娠関連感染症、そして安全でない中絶などです。これらの多くは予防可能であり、質の高い医療へのアクセスがあれば防げるものです。

※1 SDGs(Sustainable Development Goals、持続可能な開発目標)とは、2015年に国連総会で採択された国際的な目標です。SDGsは、2030年までに達成すべき17の目標と169のターゲットから構成されており、貧困の撲滅、教育の向上、気候変動への対応、ジェンダー平等の推進など、地球上のあらゆる人々の生活の質を向上させ、持続可能な未来を実現することを目指しています。
※参照URL:https://files.aho.afro.who.int/afahobckpcontainer/production/files/iAHO_Maternal_Mortality_Regional_Factsheet.pdf
※参照URL:Addressing maternal mortality in Africa

妊産婦死亡率とは

妊産婦死亡率(Maternal Mortality Ratio, MMR)とは、妊娠中または出産後42日以内に、妊娠やその管理による原因で死亡した女性の数を、出生10万件あたりの割合で表したものです。
この指標は、特に女性に対する医療アクセスやケアの質がどの程度提供されているかを示す重要な健康指標であり、この指標が高ければ高いほど、医療サービスの不足や医療機関へのアクセスが悪いということになります。

なぜ妊産婦死亡率が盛んに重要だと世界中で叫ばれているかといえば、それは妊産婦死亡率は、社会全体の保健医療制度の質や女性の権利の保障状態を反映しているからです。
特に国自体の経済状態が悪い国が多いアフリカ諸国では、この率が高く、妊産婦の命を守るための医療資源や教育が不足していることが問題視されています。

妊産婦死亡率が高いことは、社会的および経済的な発展の障壁ともなり、緊急に改善が求められる課題です。さらに、妊娠死亡率が高い国では将来的な働き手である若者も育たないため、国の未来も衰退していく運命にあると考えられています。

※参照URL:Maternal mortality

妊産婦の死亡率が上がることによる弊害

アフリカ全体での妊産婦死亡率の高さは、地域社会全体に大きな影響を与えることになります。特に母親の死は、子供たちの健康と教育に悪影響を及ぼし、家族の経済状況を悪化させることが多いです。
母親を失った家庭は、日本のように児童相談所のような子どもへのケアが十分でない国においては、子どもたちの栄養不良や教育の機会喪失に繋がってしまいます。

また、高い妊産婦死亡率は、地域や国全体の経済に悪影響も与えます。健康で生産的な世代が減少することにより、労働力の減少と経済的生産性の低下が生じてしまいます。それにより、医療費や喪失による経済的な負担が家計にのしかかり、貧困の連鎖が無限に続きます。

そのほか、妊産婦死亡は、女性の社会的地位や権利に対しても重大な影響を与えます。高い死亡率は、女性が健康な出産を迎える権利を侵害し、彼女たちが社会に参加し、経済的に自立する機会を制限してしまいます。

これにより、ジェンダー平等の達成が遠のく一因となるため、妊産婦が死亡することで家庭や地域社会に経済的・精神的な負担が増大し、健康な出産の機会が奪われることは、長期的には社会全体の発展を阻害する大きな要因となります。

※参照URL:https://www.who.int/news/item/23-02-2023-a-woman-dies-every-two-minutes-due-to-pregnancy-or-childbirth--un-agencies
※参照URL:Addressing maternal mortality in Africa


背景と課題

妊産婦の死亡率は各国によりその原因はさまざまですが、近年世界中で増加傾向にあります。ここでは、アフリカ諸国だけに焦点を絞り、その主な原因や現在の課題をご紹介します。

主な原因

国連機関が2023年2月に発表した報告書によると、世界中では今現在も、2分に1人の割合で女性が妊娠中または出産中に死亡しています。

世界のほぼすべての地域で妊産婦死亡が増加または停滞していることから、近年における女性の健康や権利も脅かされていることが分かります。 
また、アフリカ諸国だけを見てみると、妊産婦死亡の主な原因は、出血、妊娠高血圧症、妊娠関連の感染症、そして安全でない中絶などが原因による死亡率が最も高くなっています。
これらの多くは予防可能であり、質の高い医療へのアクセスがあれば防げるものです。しかし、アフリカでは医療インフラの不足や専門医の不足、医薬品の供給チェーンの弱さが進展を妨げており、これが妊産婦死亡率の高止まりの原因となっています。

※参照URL:A woman dies every two minutes due to pregnancy or childbirth: UN agencies
※参照URL:https://files.aho.afro.who.int/afahobckpcontainer/production/files/iAHO_Maternal_Mortality_Regional_Factsheet.pdf
※参照URL:national committee for confidential enquiry into maternal deaths (nccemd) saving mothers fact sheet for 2022

医療インフラの不足

アフリカ諸国にとって、妊産婦の死亡率を下げるための課題は山積みになっています。その中でも、大きな問題になっているのは、インフラ不足です。アフリカ諸国では、医療インフラの不足が妊産婦死亡率の高さに直結しています。

多くの地域で医療施設の数が不足しており、専門医療スタッフも限られています。その結果、妊産婦が必要とする適切な医療ケア(例えば、安全な出産のための医療設備や、緊急時の手術設備など)を受けられないケースが多発しています。

また、医薬品や医療ケアのための備品の供給チェーン(治療薬だけではなく脱脂綿やアルコール、または包帯など)が弱く、出血や感染症などの治療が遅れることも死亡率が高くなる原因です。​

さらに、アフリカの多くの国では、医療施設が都市部に集中している一方で、農村部では施設が極めて少なく、交通インフラも整っていないため、緊急時に適切な医療ケアを受けることが困難です。

例えば、ナイジェリアでは、人口の多い地域でも医療施設が不足しており、妊産婦が病院に到着する前に死亡するケースが報告されています。ケニアでは、妊娠中の女性の約42%が分娩時に医療専門家の支援を受けられない状況にあります​。

※参照URL:https://files.aho.afro.who.int/afahobckpcontainer/production/files/iAHO_Maternal_Mortality_Regional_Factsheet.pdf
※参照URL:Addressing maternal mortality in Africa

教育の欠如

アフリカ諸国では医療インフラだけが大きな課題になっているわけではありません。妊産婦の死亡率と教育の普及の低さも死亡率の高さの原因になっています。
なぜならば、性教育も含めた総合的な教育を受けた女性は、妊娠や出産に関するリスクをよりよく理解しており、適切な医療サービスを利用する可能性が高くなるからです。

また、経済的に自立する可能性も高くなり、医療サービスへのアクセスが改善されます。経済的に自立している女性は、必要な医療を受けるための費用を賄えるため、適切な時期に医療ケアを受けることが可能になるからです。
例えば、教育を受けた女性は、妊娠中の適切な栄養や健康管理の重要性を理解し、産前ケアや医療機関での分娩を選択する傾向が強くなります。これにより、妊産婦死亡率の上昇を抑えることができるようになります。

そのほか、教育が普及することで、女性が学校に通う期間が延び、早期結婚や早期出産が減少します。早期結婚と若年出産は妊産婦死亡率を高める要因とされており、教育の普及はこれを防ぐ効果があります。
さらに、性教育が普及すれば家族計画や避妊の知識を持てるようになり、望まない妊娠を避けることができます。これにより、妊娠関連のリスクが減少し、結果として妊産婦死亡率の低下に繋がります。

※参照URL:Addressing maternal mortality in Africa
※参照URL:national committee for confidential enquiry into maternal deaths (nccemd) saving mothers fact sheet for 2022
※参照URL:https://files.aho.afro.who.int/afahobckpcontainer/production/files/iAHO_Maternal_Mortality_Regional_Factsheet.pdf


実際の支援成功事例と進展

アフリカ諸国では多くの問題や課題がありますが、現在日本は政府や民間企業により、アフリカ諸国へさまざまな支援をしています。ここでは、実際にどのような企業が妊産婦さんのために支援しているのかその実例をご紹介します。

AA Health Dynamics株式会社のアフリカにおける事業展開

2020年のケニアの妊産婦死亡率は10万人あたり530人と、日本の4人に比べて非常に高いです。ケニアにあるケニヤッタ病院では、日本の国際協力機構(JICA)の支援で超音波機器が導入され、医療の質向上が図られていますが、地方では超音波機器が限られています。

AA Health Dynamics株式会社のCEOである原健太は、この現状に目を向け、医師向けに超音波診断(POCUS)技術のトレーニングを提供しており、これまでに約200人の医師が受講し、その一部が後進の指導にあたっています。

また、AA Health Dynamics株式会社の関連企業で、ケニアに在るAfrica Asia Health Dynamics Limitedは、2024年5月にケニアのキアンブ・カウンティに「NIPPON UZIMA AFYA Medical Centre & Sexual Health Clinic」を設立しました。

このクリニックは、一般内科診療に加えて、性感染症の検査や治療を提供しています。また、超音波診断装置(POCUS)を完備し、同社の医療教育トレーニングを修了した医師が実際の診療で活用できるようにしています。

さらに、臨床検査室や薬局も併設し、医師がトレーニングを通じてスキルを高める環境を整え、医療機器や指導医の不足という現地の課題に対応しています。

※参照URL:アフリカで展開する医療トレーニングサービス「MedicScan」 はどんなサービスを提供しているのか?
※参照URL:https://note.com/harakenken22/n/ne2a16ecc3a07
※参照URL:AA Health Dynamics(株)関連企業がケニアに医療クリニック「NIPPON UZIMA AFYA Medical Centre & Sexual Health Clinic」を開院! |WEB CRAFTERS Inc. - 革新的なウェブデザインとデジタルマーケティングソリューション

ザンビアへの支援

日本政府はザンビアの母子保健システムのデジタル化と母親シェルター建設に貢献しています。2024年7月24日の報告によると、日本政府は、ザンビアの妊産婦保健分野において、サービス提供の強化を目的としたデジタル化とインフラ整備に重点を置いた支援を約束しています。

シルビア・マセボ保健大臣は、ザンビアの保健セクターに対する日本の長年のコミットメントと貢献に感謝の意を表明しています。というのも、日本の国際協力機構(JICA)を通じて、日本政府はザンビアのルサカにある主要な選挙区に保健センターを建設し、病院をレベル1の施設にアップグレードし、UTH(University Teaching Hospital)とコッパーベルト教育病院への混雑を緩和したからです。

マセボ大臣はまた、質の高い医療を提供するために不可欠な医薬品と医療機器のサプライチェーンにおける日本の援助についても述べています。

アフリカ経済開発協会の矢野哲郎会長は「ンデケハウス」での保健大臣への表敬訪問の際、ザンビアが妊産婦保健システムのデジタル化において日本の支援を受ける最初の国になることを明らかにしました。また、技術的進歩とインフラ整備を通じてザンビアの医療成果を向上させるという日本政府の意思を表明し、母子の健康を守ることの重要性も強調しました。

日本政府は既にコッパーベルト州と中央州でこのプロセスを開始しており、3年以内に完了させ、さらに女性の健康と妊産婦死亡率削減のために、全国の様々な保健施設に母親用シェルターを建設する予定であると発表しています。

これらのシェルターは、女性とその家族への干ばつの影響を軽減することを目的として、女性に無料で食事を提供する目的で建設されています。

※参照URL:Japan Commits to Digitizing Zambia’s Maternal Health System and Building Mother’s Shelters – Efficacy News

日本の母子手帳をアフリカ諸国へ

日本政府は、日本で成功した「母子健康手帳」のシステムを、アフリカ諸国に導入しています。この手帳は、妊娠から出産、そして子供の成長に至るまでの健康状態を一元的に記録するもので、母親や家族が自宅での健康管理を行う際にも役立っています。

この手帳の導入により、継続的な医療ケアが確保され、妊産婦死亡率の低減に貢献しています。例えば、日本政府は、モザンビークで全国的に使用されている妊婦シート、新生児評価シート、および子どもの健康カードを統合したモザンビーク版「母子健康手帳」を開発しました。

この手帳は、日本の母子健康手帳に倣い、臨床的な記録スペースだけでなく、母子の栄養・保健についての重要情報をイラストとともに掲載しています。

※参照URL:モザンビーク保健行政官 6 名が 日本の母子栄養

まとめ

アフリカ諸国における妊産婦死亡率の高さは、地域の健康、福祉、社会経済に深刻な影響を及ぼす重要な問題です。

妊産婦死亡率が高いことは、適切な医療サービスへのアクセスが不足していることを示しており、母親と子どもの健康を守るための緊急の対策が必要です。

この問題に取り組むことは、地域社会全体の福祉向上に直結し、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも貢献します。

日本でも、AA Health Dynamics株式会社やJICAまたは日本政府がさまざまな技術協力や支援を行っていますが、今後も継続して質の高い医療、教育、インフラ整備を通じて、アフリカの未来を支える健全な社会基盤を築くことが求められています。

ライター紹介
増田さなえ
米国ピッツバーグ州立大学卒業後、セントマシュー医科大学とウィンザー医科大学に進み医学博士取得、救急医師として、米国やカリブ海の医療に従事する。2014年に出産のため休職し、ウェブライターを始める。2014年からカリブ海の救急医として2019年まで働く。2020年からは米国に戻りウェブライター専門で活動中。

お問い合わせ

この記事に関するお問い合わせや、アフリカビジネスに関するご相談は、以下の「Form」AA Health Dynamics株式会社のお問合せフォームへ移動します)、または、Email [info@aa-healthdynamics.com]までお気軽にどうぞ!


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