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【業界地図オフ会】NOVAの倒産 マイナスCCCの罠

こんにちは、がぱけん(@gapaken335)です。

このアカウントは私が仕事や書籍、日々の気づきを通して考察したものを共有するものです。少しでもみなさまのインプットや気づきになると嬉しく思います。

今回も、おしばさん(@lumanabu)が主催している、業界地図オフ会に参加してみましたので、その内容をシェアします。

今回のテーマは「倒産企業」生まれるものあれば死せるものあり。
スマホの台頭で駆逐されるプリクラソフトメーカー、シェールガスの出現により採算が取れなくなる石油採掘技術、バブル崩壊で全ての歯車が狂いだす証券会社など、倒産企業の背景には様々なドラマがありました。

全体を通して個人的な気付きは「世の中の大きな流れには勝てない」ですかね。抗って、抗って、それでもダメなら畳んで別のことをはじめる。
こう言う心意気も重要だなあと感じます。

さて、今回の私のテーマは英会話スクールのNOVA。

NOVAうさぎなど、巧みな広告戦略でのし上がって行ったにもかかわらず、最終的には顧客の信用を失い倒産してしまった企業です。

Amazonやアップルを語る時に欠かせない「マイナスのキャッシュコンバージョンサイクル」という黄金の剣を実はこの企業も成長の原動力としていました。

本記事はキャッシュコンバージョンサイクルってなんだっけ?ということも含めてまとめています。

(口頭プレゼン用パワポ資料メインでお送りします。ご了承ください。)

それでは本題にまいりましょう。


NOVA倒産までの変遷。

NOVAってこんな会社。と言うところから。

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NOVAうさぎ、懐かしいですね。
「駅前留学」というキャッチフレーズとユニークなCMによる顧客獲得で英会話業界に風穴を開けました。

「学校に通うようなものだった」英会話教室を「サークルのようなカジュアルなものにしよう」と言うのが基本的なコンセプトです。

そんなNOVAの設立から倒産までの軌跡をまとめてみました。

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1981年設立、急成長するも2005年あたりで経営状態が悪化。
最後は経産省と東京都による立入検査により長期コースの新規契約について業務停止命令が下り、一気に倒産まで転落しました。


NOVA成長の原動力、前払いによるマイナスCCC。

最後はあえなく散ってしまったものの、業界一位を我がものとしたその成長戦略はなかなか興味深いものがありました。

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そのキーとなるのが、「キャッシュコンバージョンサイクル」です。

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キャッシュコンバージョンサイクルは仕入の支払いから、売掛金の回収までの資金回収期間を示す指標ですが、NOVAはCCCがマイナスでした。

ざっくり言うと、仕入る前から売上のお金が入っているイメージです。

この秘密は前払い受講料にありました。
割引などを提示し、三年分の受講料を顧客に前払いしてもらうことで未来の売上キャッシュを先取りでもらうことができていました。

ちなみにマイナスCCCでお馴染みなのは米国Amazon。

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マーケットプレイスの顧客入金と事業者払い出しのタイミングコントロールやAWSの前払いで極限まで早めたサイクルで、積極投資を行い大きな成長を遂げてきています。


NOVAの成長シナリオはこうです。

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三年分の受講料前払いを促し、資金を早期に回収、その資金を使って大規模な広告宣伝や教室拡大に積極投資することでの成長を目指します。

そして実際に広告のヒットとともに急成長。
1995年には、最大手としてのポジションを手に入れます。


倒産へのカウントダウン

そんな好調だった企業がなぜ倒産に追い込まれたのでしょうか?

倒産直前のNOVAの状況は以下のようなものでした。

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ことの始まりは生徒数でした。
教室をどんどん拡大するも、生徒数が伸び悩みます。
例えば2003年時点から2005年まで、教室数は1.6倍に増加しますが、生徒数はわずか+9%にとどまっていたようです。

そこで高止まりしている固定費が収益構造を圧迫し、コストカットのサービスの肝である講師の人件費にまで及び、講師の数と質が低下します。
この時の講師一人あたりの受講者数は約100人。明らかに負荷が高すぎることがわかります。

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出典:2007年6月6日 朝日新聞

そうしているうちに「授業の予約が取れない」と言う不満が爆発し、生徒がどんどん離反していきました。

そしてさらに問題は発生します。

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生徒離反の際、当然ながら生徒側は前払金の返還を要求します。
しかしNOVA側としてはすでに各種投資に資金を使ってしまっているため、全ての要求に応じていると資金があっという間にショートしてしまいます。

そこで、あの手この手で返還額を減額したり、返還に応じなかったりと言うトラブルが多発。その数は1000件/年にも登ったようです。

そんな状況下でついに経済産業省と東京都による立入検査が実施され、新規生徒の長期入会について業務停止命令が下ります。

この一件でさらに生徒は離反。ついに経営破綻まで追い込まれます。


どうして追い込まれてしまったのか?

倒産企業はいわゆる「しくじり先生」です。
今後同じ轍を踏まないようにしっかりと学ばないといけません。

個人的には以下の三つが要因としてはあげられると考えています。


①限界がある市場へ成長前提で投資し続けた

2000年初頭現在、NOVAはすでに最大手であり収益性の高い立地はある程度抑えていたものと考えられます。
しかし、教室の数が成長ドライバーのため、あまり儲からない立地への投資が避けられませんでした。

また、英会話教室は労働集約型ビジネスのため、拡大に固定費増が必ずついてまわります。したがって、成長が止まった段階で一気に収益構造が悪化してしまいます。
CCCマイナス勢として、Amazonやその他IT企業の場合は(物流拠点拡大などは別として)市場規模の成長は見えていますし、サービス縮小など比較的ブレーキをかけやすいと言えますが、人と場所がコアとなるNOVAは小回りが効きづらかったのかもしれません。

成長の限界点をしっかりと見極めて投資活動を行わないと痛い目をみると言うのはいろんなことに共通しそうな学びですね。


②「入会」を最重要KPIとした運営

NOVAの前払い制度では、売上が基本的に入会トリガーで起こるので、入会のみに注力しがちになってしまう構造です。

「とにかく入会させれば勝ち」と言う意識での不正広告(通常の料金を期間限定サービスと偽るなど)や強引な営業が行われていたようです。

また、「通っているかどうか」「満足しているかどうか」が蔑ろにされた結果が講師の量と質の低下です。お金をもらうことにのみ執心し、顧客へ価値を提供しない企業の末路としての倒産は、ある意味納得感のある結果とも言えます。


③潤沢なキャッシュ故のずさんなコスト管理

最後はコスト管理です。
NOVAは手に入れたキャッシュを即投資に回すことが習慣化していました。それ自体は成長に向けての投資なので悪いことではないのですが、売上の減少と授業料返還に耐えられる資金管理ができていなかったのは。

また、拡大して固定費倒れするような状況で教室を拡大させてしまったのもキャッシュの潤沢さ故のことだと感じます。将来を先取りした身の丈以上のお金を使うことに慣れてしまうと身を滅ぼす。これも学びだと思います。


当事者の叫び

ネットでNOVAについて調べていたところ、当時の受講生の悲痛な叫びを見つけました。

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英語を喋れるようになるために必死にためた60万円が無価値になる。
こんなことは二度と起きて欲しくないですね。


新生NOVAも波乱万丈

経営破綻したNOVAはジー・コミュニケーションと言う会社に事業継承されます。詳細は割愛しますが、新生NOVAも二度の買収を経ていたりと紆余曲折あるようです。

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結びとして。

栄枯盛衰、諸行無常。

世の中は常に移り変わるものであり、生まれることもあれば消えていくこともあるのは企業としての必然です。

重要なのはとにかく生きながらえさせることではなく、世の中に価値を生み出すことと私は思います。
時には倒産と言うこともあるかもしれませんが、それ自体をそこまで悲しむことはなく、重要なのはそこから何を学ぶかです。

歴史を学び、未来に役立てる知恵を引き出すことにはとても意義がある。
今回のテーマでそう深く感じました。


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