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ジャンププラスに見る新しい漫画の形


こんにちは、がぱけん(@gapaken335)です。


このアカウントは私が仕事や書籍、日々の気づきを通して考察したものを共有するものです。少しでもみなさまのインプットや気づきになると嬉しく思います。


今回のテーマは出版社系漫画アプリの雄「ジャンププラス」です。

紙媒体がどんどん衰退していく中、漫画のデジタルシフトはどのように行われていくのか?
について、週刊少年ジャンプのアプリをベースに考えてみましょう。



漫画アプリは私にとって革命だった。

まずは一般的な漫画アプリについて述べましょう。

今回の記事に関しては、集英社が上場していないことも相まって、分析にいつもよりも私感が多く入ります。
なので、私についても改めて触れておく必要があると思います。


私はオタクです


漫画は家の壁が埋まるくらいはありますし、Netflixで視聴する番組もアニメがほとんど、最近は足をあらいましたが、ポケモンの対戦と育成に休日の時間のほとんどを投入していた時期もありました。

一方でスマホゲームや、グッズ購入、二次創作などにはあまり興味がないので、分類としては"ライトオタク"と言ったところでしょうか。

そんな私がどっぷりとハマってしまったのが漫画アプリです。

一端のオタクサラリーマンにとって、このアプリはまさに革命でした。

・無料で試読できて
・気になる漫画は即購入でき
・家のスペースも取らず
・通勤などの隙間時間にも楽しめる


こんなにアプリと相性の良いコンテンツはなかなかないです。


これは私見ですが、漫画アプリの登場は漫画と言うコンテンツのあり方を大きく変えたのではないかと思っています。

今まで、「大人が電車などの公共の場で堂々と漫画を読むのは恥ずべき行為である」と言う共通認識があったと思います。

しかし最近は電車でスマホを覗き込むと老若男女問わず多くの人が漫画を読んでいます


本当はみんな漫画が好きなんです。
でもわざわざ買いに行くほどでもないし、通勤カバンにいれるのも憚られる。

そんな中、スマートフォンから気軽に、お金もかけずにアクセスできるような環境が整ったのだから、この普及もうなずけます。


また、これは私個人の話なのですが、漫画アプリを導入しだしてから、年間の漫画に対する支出が明らかに増加しました。


試読→続きを見る→購入までのシームレスな体験は、スマホゲームなどと同様に人々の財布の紐を緩ませます。そして何より読みたくなったらすぐ読めると言う体験が非常に強力です。


事実、こちらのデータによると、2019年の電子の市場占有率は52%程度、ついに紙のコミックスを追い抜いています。

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※ソースは2020年2月発売の出版月報

また、電子書籍市場の84%がコミックスであることは「通常の書籍以上に電子化のシナジーがあった」と言う説をさらに後押しします。



ジャンププラスのビジネスモデル。

様々な漫画アプリがある中で、今回メインに取り上げるのはジャンププラスです。

ジャンププラスは漫画雑誌発行部数で不動の一位を保ち続ける天下の「週刊少年ジャンプ」と連動した漫画アプリです。

2019年2月時点でダウンロード数は1000万以上。2020年4月現在のMAU数は240万人(ソースはこちらこちら)。2020年の週刊少年ジャンプの発行部数が約150万部ですから、ユーザー数だけで言えば本誌を上回ったことになります。

シンプルに化物コンテンツですね。

このアプリ、使えば使うほど本当によくできていると関心します。
1ファンとして、ビジネスモデルや特徴をご紹介します。

まずはコンテンツ。

①ジャンプ本誌(サブスク課金)
②過去作も含めたジャンプ関連作品の試読・購入(都度課金)
③ジャンププラスオリジナルマンガ(無料コンテンツ)

の三つがメインコンテンツです。


最大の特徴は③のオリジナルコンテンツが、曜日ごとに異なる連載を持っており、毎日更新されると言うことです。

さらに言うなれば、このオリジナルマンガのクオリティも(濃淡はありますが)高いです。

アニメ化された「彼方のアストラ」や、舞台やドラマとなった「左利きのエレン」ヤングジャンプでも同時連載している「推しの子」などもジャンププラス作品です。

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これらのコンテンツが担うのは「ユーザーのアプリへの訪問の習慣化」です。

スマホアプリでユーザーのLTVを向上させるためには、アプリ接触の習慣化が最も重要です。だからこそ、スマホゲームは習慣化を狙いログインボーナスなどのインセンティブを用いることが一般的。

一方で、ジャンププラスは「面白いものが毎日無料でみれる」と言うある意味王道ド直球ストレートで勝負をしています。


無料でみれる漫画を集客コンテンツとして、アプリ内で新刊や既存作品などをレコメンドし、コンテンツ購入を促す。


これがジャンププラスの基本的なビジネスモデルです。


電子コンテンツだからこその作品数。


このモデルの実現に向けての課題の一つが作品数の確保です。

ユーザーを毎日集客するだけのコンテンツを用意するためには、週刊誌よりもさらに多くの作品が必要になります。
事実、現在ジャンププラスでは50作品程度連載されています。

こんな数の連載を扱えるのもアプリならでは

もし、紙の媒体でこの量を連載しようとすると、印刷・製本・配送・販売などのコストが大きくかかってしまいます。「コストに見合うだけの収益を生み出せる作品」と言うのが最低条件になり、だからこそ本誌では連載をかけた熾烈な争いが発生しているのでしょう。


しかし、アプリによる連載であれば、上記の製造・流通コストはかかりません。さらに「無料で読んでいる漫画」と言う立ち位置なのでユーザーからの期待値は低め、「投資対効果」と言う意味での連載ハードルをグッと下げることができます。

結果として、少年誌ど真ん中のキラーコンテンツの他にも、本誌人気作のスピンオフやパロディ、ジャンプではあまり連載されない日常系ラブコメやホラー系など、幅広いコンテンツを揃え毎日更新でもマンネリ化させないラインナップになっています


さらに、「コンテンツ量の確保」のための取組としては「ジャンプルーキー」の存在が挙げられます。

ジャンプルーキーはジャンププラスとは別のアプリで、新人作家中心の電子媒体です。
大きな特徴として「アプリを通した広告収入は全て作家に還元される」と言うルールが敷かれており、新人作家が応募しやすい仕組みになっています。

ジャンプルーキーに多くの新人作家を集め、その中から有望な作品をジャンププラスの連載作品にしていくことで、コンテンツ量を確保しているのです。


形を変えた「アンケート至上主義」。

ジャンプ編集部の指針として「アンケート至上主義」と言うものがあります。

読者が面白いと言う漫画を優遇し、逆にそうでないものはどんどん打ち切り、新陳代謝を促していくと言うものです。

「読者にウケる漫画が正義」と言うシンプルで本質的な良い指針だと個人的には思います。(作家は辛そうですが)


そして、この考え方はデジタルコンテンツとの相性が非常によいのです。

ジャンププラスの中では、全ての漫画の閲覧数とコメント数が可視化され、順位が表示されています。人気の作品ほど大きく表示され、さらに閲覧数を伸ばしていくような仕組みです。

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さらに、作品を応援する「イイジャン」機能(FBにおけるイイね!のようなもの)も搭載されています。

コメントや評価がダイレクトに編集部や作家に伝わる仕組みがあることで、作品の方向性にユーザーの意見を反映させることができます。


この仕組みの影響を最も感じたのは「2.5次元の誘惑」と言う漫画です。

これは「コスプレ」を題材とした漫画で、「アニメ好きの主人公が、コスプレイヤーの同級生とアニ研として活動をしながらラブコメ的な展開を繰り広げる」と言うあらすじです。

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この漫画、表紙からわかるように初期はお色気一本足打法でした。

都合の良い設定とアクシデントでひたすらラッキースケベが繰り広げられる。

中学生のころならちょっと隠れながら読んだかもしれませんが(いちご100%は男子全員読んでいたと思います)、アラサーになった私としては「ちょっときついなあ」と言う感想で、3話くらい読んだ後はクリックしなくなっていきました。


おそらく同じような人が多かったのでしょう。

この作品、新連載の時は曜日内で1位を獲得していましたが、次第に順位を落とし、2位や3位に落ちて行きました

しかし、連載開始から半年くらい立ったあたりからまた様子が変化してきました。

掲載順位が安定して1位になり、そしてキャッチコピーも変わっていることに気付きます。


「愛、バトル、青春!もっともジャンプなコスプレ漫画!」


なんだろう?みてみると、露骨なお色気要素が少なくなっていました。
そして過去の話を見返すと、ライバル登場、主人公の作品愛、親との決別と和解などなどストーリーとしての厚みが明らかに増していて、シンプルに面白くなっていたのです。


「コスプレを活かしたお色気コンテンツ」から「コスプレを題材にしたジャンプ王道マンガ」へのシフト


おそらくこれは読者の反応とコメントを反映したテコ入れでしょう。
この漫画の変化と人気は、紙媒体よりもずっと精度の高いPDCAを回すことができるということの証明だと私は思います。



作品を応援し、共感する仕組み。

①掲載順の可視化②イイジャンによる応援③コメント機能といったインタラクティブな仕組みは読者にも良い影響を与えていると私は思います。


オタクと言う生き物は応援と共感が大好きです


例えば今のアイドル市場の隆盛は「ライブを見に行く」や「歌を聞きに行く」と言う体験から「好きなアイドルを推す」と言う体験にシフトしたことが大きな要因です。

「自分の好きなものが、自分の応援によって高みに登っていく」と言う体験が高濃度のロイヤリティを生み、結果として大きな熱量を生み出すのです。

ジャンププラスにおいては、「掲載順」と「イイジャン機能」が「漫画を推す」と言う体験を可能にしています。


そして、その熱量を発信したり、発信を受けて共感すると言う行為もさらにロイヤリティを高めます

とても素晴らしい映画を見た後に、同じ作品を見た人と語りたくなったり、ネットやSNSでレビューを見たくなったことはありませんか?

ジャンププラスはコメント機能で、各話についてリアルタイムでコメントをすることができ、さらにコメントに対して「イイジャン」をすることができます。

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イイジャンによる「漫画を推す」体験と、コメント機能による「共感と作品理解の深化」これによりどんどんファン化が加速する。


これがジャンププラスの仕組みとして強いところだと私は思います。



結びとして。

まとめると、
ジャンププラスは
新人作家を収入インセンティブで集めながら、
毎日連載作品を無料配信しユーザーの毎日訪問を習慣化させたうえで、
ユーザーインタラクティブな仕組みでVoCを吸い上げながら作品をブラッシュアップし、
応援と共感でユーザーのロイヤリティを高め、
コンテンツ購入を促すビジネスである。

と言ったところでしょうか?
考えれば考えるほどよくできた仕組みです。

それにしても電子化と漫画の相性が良さが際立ちます。
今はまだジャンプ本誌がメインストリームですが、そう遠くない未来、電子媒体がメインになる未来もありえるでしょう。

ただ、どんな形になっても、「良い作品の持つ力」は変わりません。
おそらく漫画と言う文化はまだまだ発展していくでしょう。

これからどんな作品が出てくるか、とっても楽しみですね。

読んでいただきありがとうございました。
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ではまた。

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