見出し画像

Pocochaから学ぶコミュニケーションプラットフォームの作り方

こんにちは、がぱけん(@gapaken335)です。

このアカウントは私が仕事や書籍、日々の気づきを通して考察したものを共有するものです。少しでもみなさまのインプットや気づきになると嬉しく思います。

今回のテーマはDeNAが仕掛けるライブコミュニケーションアプリ「Pococha」の考察です。YouTuberという肩書が一般的に認知されはじめて久しい現在、どんどん伸び続ける配信産業の中でPocochaが目指している世界、そしてそれを実現するための仕組みについて考えます。

キーワードは「コンテンツとコミュニケーションの違い」でしょうか。

それでは早速本題に入りましょう。


そもそもPocochaってなに?

まずはサービスの紹介から入りましょう。

画像1

Pocochaは2017年にサービスインした、DeNA社が提供する「ライブコミュニケーションアプリ」です。

この中では「ライバー」と呼ばれる配信者がライブ配信を行い、リスナーがそれを観覧し、チャットなどでコミュニケーションをとりながら楽しむというのが基本です。

リスナーの取れるアクションの中には「アイテム」と呼ばれる投げ銭に似たシステムがあり、それがPocochaの基本的な収益源となっています。

画像2


2021年3月期のDeNAの決算発表資料によると、現在のダウンロード数は255万継続ユーザーは昨年同時期の約2.5倍(資料から目算)と、先行している競合の17LIVEの国内ダウンロード数1000万(20年時点)と比較するとまだチャレンジャーの立ち位置ですが、現在急成長を遂げています。

画像3

※DeNA社2021年3月期決算説明資料より

同資料によると、ライブストリーミング事業はDeNAの注力対象として捉え今後も成長のために投資を行っていく方針のようで、今期から段階的に英語圏でのサービスも展開していくようです。

画像4

※DeNA社2021年3月期決算説明資料より


Pocochaの目指している世界とは

では、そんなPocochaは成長のためにどんな戦略を取っているのでしょうか?Pocochaの仕組みのデザインや公開されているインタビューなどをインプットに私なりに分析をしてみました。
結論を述べると、


"スキルや才能がない普通の人が、小さいコミュニティで人気者になれる"


これが今Pocochaの目指している世界なのだと感じました。

一部のトップライバーがリスナーの視聴を独占する寡占市場ではなく、一つ一つは小ぶりでも多数のコミュニティが活性化されている状況を目指す。
そんな意思がそこかしこから見受けられます。

画像5

ちなみに競合である17LIVEは、Gacktをはじめとした有名人の起用や「Empower Artists, Entertain The World.」という理念からも若干方向性が違うように思えます。17LIVEのやりたいことは「プラットフォームを整えることで、埋もれている才能を世界に発信できるようにする」というイメージでしょうか?


さて、ここで重要になってくるのがなぜそこを目指すのか?という話です。


私は"ライブコミュニケーション"という構造上の特徴がここを強く規定しているように感じています。

YouTubeなどの動画配信と比較して、以下にまとめています。

画像6

大前提として抑えておくべきことは、Pocochaにおいてリスナーが求めているものです。

それは「可愛らしい女性の姿」でも「素晴らしいアーティストの演奏」でもなく、「ライバーとのコミュニケーション」ということです。

Pocochaにおけるどの配信においても、基本的なコンテンツはリスナーとの対話です。リスナーのチャットを読み上げながら、それに対してライバーが答えるというのが配信の形です。

その特徴を踏まえると、リスナーが増えすぎるとこれが崩壊してくることがわかります。
3人のリスナーに対しては和気あいあいとしたお喋りが成立すると思いますが、それが100人になったらどうでしょう?コミュニケーションが崩壊してしまうのは火を見るよりも明らかです。

「チャットを打ったら返事をくれる」というのが良いところだったのに、それが実現できなくなってしまう。つまりライブの価値が低減してしまうことになってしまいます。

こんな構造になっているからこそ、寡占市場を促すのではなく、多数の小規模コミュニティを活性化させる方向に舵を切っているのだと推測されます。



どのように実現するのか。

さて、前段で「たぶんこんな理由でこんな世界を目指している」というWhatとWhyの話をしました。

そうなると当然気になるのはHowの部分ですよね。

まとめると、大体以下のような方向性を志向して仕組みがデザインされているように感じます。

①コンテンツがなくても配信できるようにする
②コミュニケーションを活性化させる
③リスナーを運営側に巻き込む

それぞれ一つずつ見ていきましょう。


①コンテンツがなくても配信できるようにする

目指すべき世界を

"スキルや才能がない普通の人が、小さいコミュニティで人気者になれる"

としたときに、実現に向けた一番の課題は「コンテンツの提供」です
noteやTwitter、Instagramなど、どんなSNSでも同様なのですが、はじめて一番苦労するのは「ネタづくり」に他なりません。

「アカウントを開設したは良いのだけど何書いていいかわからん」「毎日投稿が大事だって言うけどそんなに毎日面白いことなんかないよ」と言うのが普通の人。

だからこそ大量のコンテンツを投下することができる稀有な人が大手アカウントとして成長していくのが普通のSNSです。

しかし、ことPocochaに関しては、コンテンツがなくてもある程度戦える仕組みが整っています

例えばアイテム(投げ銭)とリアクション

前述しましたが、Pocochaにおいては投げ銭システムとしてアイテムと言うものが存在します。

これらは単価1円相当から使用することができる上に、アプリ内で使用できるコインは無料でもらえることも多く、たくさんのアイテムが配信中に飛び交うこととなります。

また、アイテムを使用(投げ銭)すると、画面上にエフェクトが現れ、リスナー含めてアイテムの使用が認識できる仕組みになっています。

このときに、お礼を特定のコメントやアクションで返すと言うのがPococha独特の文化である「アイテムリアクション」です。

おそらく言葉だけでは伝わらないと思うので以下に動画を貼っておきます。

手をくるくるさせたのちに頭に手をやり、

「くるくるーパンダ〜♪りっちゃんの頭にパンダ飼ってんねん♪」

これがリアクションです。

これは定型文であり、一度定めてしまえば再利用できるのでライブ配信を盛り上げるコンテンツとして機能します。

あまり馴染みがないと「こ、これは何が楽しいのだろう...」と言う感情が湧き上がって来ますが、リスナーが求めているのはコンテンツではなくコミュニケーションであると言うことを思い出してください。

「自分のアクションに対して名指しで好意的なリアクションがくる」。
これだけでも十分価値であり課金に値する
のです。
アイドルの握手券と同じようなものだと思えば理解もしやすいでしょうか。

配信者や環境によっては、アイテム投下→リアクション→アイテム投下→リアクション...だけで配信が終了していることも珍しくありません。

つまり、話題なしでコミュニケーションをとることができ、尚且つ課金が促進される仕組みなのです。なかなかに悪魔的ですね。

余談ですが、私はこの光景を見たときに大学の飲みサークルにおけるコール文化を思い出しました。

彼らは他校や他サークルと積極的に飲み会を開き、どんな場合も概ね仲良くなって帰ってきます。

それを見て「やっぱりコミュニケーション能力が高いからどんな人とでも楽しくお喋りできるんだろうな」と思っていたのですが、それは少々誤りを含んでいました。

彼らは飲み会において予想以上に会話をしていないのです。
飲み会の時間の大半をコールに費やすため、話題がそれほど必要ない。
共通の話題がなくても楽しくコミュニケーションできるので、共通言語であるコールさえ通じれば仲良くなれる。と言う構図なのです。

これはこれで、コミュニケーションにおける一種の発明だと感じます。

コールを生み出した人はなかなかセンスがあるなあと気づいたときには感銘を受けました。


②コミュニケーションを活性化させる

次にコミュニケーションの活性化です。

前述の通り、チャットや投げ銭などのリスナーのアクションがあって初めて成り立つ世界なので、そこを活性化させる仕組みは重要です。

例えばポコチャBOX。

これは配信を見始めて7分間たつと、無料でアプリ内で使えるコインがもらえる仕組みです。

小額のコインでもアイテムは使えるので、無課金でも楽しめるようにする施策として機能しているのですが、それだけではありません。

なんとこのボックスのカウントダウン、1分30秒コメントをしないと止まってしまいます。つまり「コインが欲しければライバーに話しかけなさい」と言うシステムなのです。

これは単純にコメントを増やすだけでなく「ライバーに話しかける」と言う行為をリスナーに教育する上でも重要です。

「気軽に話しかけていいんだよ〜」と言う運営側の声が聞こえて来る気がします。

ほかにも配信に入ったときに名指しで「xxさんいらっしゃい」と声かけをする文化や、画面をタップしたときに「xxさんがいいねをしました」と通知が流れる仕組みなど、とにかくリスナーをコミュニケーションにひきずりこむ仕組みが満載です。


③リスナーを運営側に巻き込む

Pocochaはリスナーを運営側に巻き込むのも非常に上手です。
リスナーは基本的には消費者であり、金銭を払ってサービスを受ける立場にあるのですが、ファン型ビジネスには金銭を払って尚且つ労働力を提供すると言う逆転現象がしばしば起こります

Pocochaではリスナーのコメント量やアイテム金額に応じて上下するランク制が敷かれており、配信時の実績によってマイナスポイントがつくこともあります。
結果「Aランクまであと少し!手伝って!」と言うライバーに対して「任せて!」と喜んで課金したり、配信に人がやってこれるように広報活動を行うリスナーがそこかしこで散見されます。

まさに「推しを武道館に連れていく」感覚なのでしょう。
その行動はライバーにも可視化されるため、ライバーの好感度を得ることができることに加え、手間と金銭の提供に対するサンクコストバイアスも相まってエンゲージメントはさらに強まると言う仕組みです。

そのほかにも配信のサポートをする「アシスタント機能」やイベントを積極的に盛り上げる宣言をする「ナイト機能」、一定の貢献度を持った人のみ入れる「ファミリー制度」などとにかくリスナーに応援させる仕組みが多数存在します。

ライバーのためなら喜んでお金と労力を払うと言う構図は消費の新しい世界の一端を垣間見れるような気がします。


結びとして。

Pocochaにはここで紹介した以外にも、数えきれないほどの仕組みが一つの思想にぶら下がって存在していることが確認できます。
調べれば調べるほど「よくできてるなあ」と唸るばかりです。
きっと方針を決めた上層部も、仕組みを調整する担当者もとても優秀なのでしょう。

コロナウィルスの蔓延で、あらゆるものが分断された世の中において、他者とのコミュニケーションは更に求められることと思います。

そんな世の中で少し不器用な人の背中を押し、コミュニケーションの輪に入れてあげるPocochaは、なかなか案外優しいアプリなのかもしれません。

「あの子とお話をしたいけど、なんて話しかけていいかわからない」なんてことは実は恋愛でもよく聞く悩みだったりしますよね。

「誰が言ったのかではなく、何を言ったかを評価しよう!」と言う主張はごもっともですが「何を話したかでなく誰と話したかの方が重要なんだ!」と言う文脈もあることは忘れてはいけない気がします。

人はただ人とつながっているだけでもほんのすこし幸せになるものなのです。

読んでいただきありがとうございました。

日々の学びや考えなどを発信していますので、よければTwitterも覗いてみてください!

ではまた。

お気に召していただけたら、サポートをお願いします。 私が家で小躍りいたします。