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「生産者に情が移る」以前の問題

以前、都内の同業の方(大先輩)に言われた言葉。

「あんまり生産者と深く付き合うな。情が移るからな」

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この言葉の裏には次のような背景があります。

米屋の業務の中で「精米(加工)」「販売」と並ぶ重要な仕事…「仕入」。私は米屋を継いで10年経ちますが、未だに苦労している仕事の一つです。

父の代まではお米を購入するルートというのは、ほとんどが、

生産者 → JAまたは現地の集荷業者 → 卸業者 → 米屋

というパターンでした」。

生産者→米屋

というダイレクトパターンは数えるほどしかありませんでした。

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私の代になってから急激に後者のパターンが増え、今では取引先だけで30は優に超えてます。
生産者とダイレクトに取引するというパターンは、もしかしたら消費者の皆さんには「当たり前」のように思えるかもしれませんが、米屋としてはイレギュラーな選択肢です。

それは「在庫を持つリスクを回避できる」「価格交渉のわずらわしさがない」「物流を任せることができる」等、卸業者を活用するメリットはたくさんあるからです。

にも関わらず私が生産者と直につながるようになったのは、単に

どのような人が、どのような環境で、どのような思いで栽培しているのか

について関心があったからです。

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そしてその「自分の関心ごと」を満たすことにより、そのお米の「お客様へのPRポイント」を見つけることができるからです。

私が小池精米店で仕入れを担当するようになって以後、北は北海道から南は沖縄まで、本当に幅広く生産者さんと繋がることができ、本日に至っています。

冒頭の話は私がせっせと各地に生産者さんとのネットワークを広げていたときに、先輩から頂いた言葉です。

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この言葉は「あまり情が移ると価格交渉が出来なくなるぞ」という意味のアドバイスなのです。確かに卸業者に任せていれば、その部分に関してはビジネスライクに物事が決まります。

お米の品質については、お米は「自然のモノ」であるため生産者の努力だけではどうしようもないこともあります。
ただ、それでも生産者が品質を上げるために出来ることもあります。私はその出来る範囲で行って欲しいことはきちんと生産者にお伝えしております。

しかし価格については需給バランスで決まるものです。作り手や売り手の思い通りにはなりません。

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世間的にお米の値段が高騰すれば生産者はそれにつられて値段を上げます。お米の値段が暴落すれば今度は買い手である米屋や業者が生産者に対して値段を下げるように迫ります。

BtoBの取引において、このようなやりとりをするのは至極当然のことです。

しかし…私のように毎年3~4箇所の現場に足を運んでいる人間からすると…そのような「割り切り」が出来なくなります。

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しかしそれは「情が移る」からではありません。「自分たちの商売が成り立たなくなる」、そして「お客様への安定したお米の供給が出来なくなる」危険性を感じるからです。

生産者と話をすればするほど、近年の稲作は気候変動の影響をもろに受け、年々大変な苦労を伴う作業になっていることが分かります。また、高齢化の進行、担い手不足は相変わらず深刻です。
そう…毎年当たり前のようにお米を仕入れることのできる時代…はとうに過ぎているのです。

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当たり前ですが、私たち米屋は自分でお米を栽培することは出来ません。もし安定した仕入れを目指すのであれば、まず生産者が稲作をこれからも続けることができるくらいの価格での買取が必須です。

もっと言ってしまうと私たち米屋は「生産者と一蓮托生」くらいの気持ちでないと、毎年のお米の安定仕入れが出来ないのです。

そこにはもう「情が移るとか移らない」とか、「価格交渉をするとかしない」とか、という論点はありません。時代遅れです。

そうではなく「私たちが商売を続けられるために」=「お客様に安定してお米を供給するために」という視点で生産者とお付合いしなければならないのです。

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最近、お陰様でテレビや雑誌の取材を受ける機会が多くあります。

その際「お米の値段が下がっている」現状を説明すると取材をされる方から「安くておいしいお米が手に入るのは消費者にとって嬉しい事ですよね」と言われます。

本当にそう思いますか?

安いモノだけ追い求め続ければ、いずれはお米そのものが手に入らない時代が来ます。それは生産者さんが稲作を続けることが出来ないからです。誤解を恐れずに言えば今はまさに「食糧安全保障の危機」なのです。

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よく「安い食糧を輸入すればいい」と言いますが、世界的に不安定な情勢のなか、安定した食糧輸入を続けられる保証は…ありません。

お米は日本人にとって命をつなぐ大事な食糧であるとともに、日本で自給できる食糧です。

もちろん今日明日にどうこうなる…という話ではありません。

ただ、願わくばお米を買うときに、ほんの一瞬でいいので『日本の稲作はこれからずっと続けていけるのかどうか?』を心の片隅でつぶやいて頂ければ…と思うのです。

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「楽しくなければお米ではない!」
有限会社 小池精米店
三代目 小池理雄(ただお)

五ツ星お米マイスター
東京米スター
6次産業化プランナー(中央サポートセンター登録)
社会保険労務士

東京都米穀小売商業組合所属
東京都ごはん区メンバー

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