唐揚げ

唐揚げは〝ガラ揚げ〟?

鶏もも肉の唐揚げが大好きで、個人的には、いちばんのごちそうのひとつだと思っている。近所のスーパーで国産(解凍ではない)若鶏もも肉が100g70円台で特売しているときがあると、たまらず買いに走る。そして、衣をつけるとひと回り大きくなるのを頭でわかっていても、ついつい一切れを大きく切ってしまう。

一時期、唐揚げブログを開設して、食べ歩きしようかとほんのり思ったことがあるぐらいである。でも成人病まっしぐらになりそうな気がしたので踏みとどまった。

我が家では長らく唐揚げのレシピについては迷走していたが、ここ数年は飯島奈美先生のレシピに従っている。先生の「LIFE」というレシピ本に載っていたもので、衣は全卵と片栗粉の厚めさっくり系である。二度揚げしてクリスピーになった衣の中でぷりっぷりの肉からジューシーな肉汁が弾け出る。もうダメだ。ビールを飲まずにおれない。東海林さだお先生ふうに描写すると「ガブッ、サクサク、ジュワー、んぐんぐ、プハー」である。幸せ。

さてそんな唐揚げであるが、いったいどこの料理かといえば皆中国料理と信じて疑わないだろう。しかし、これも巷にあふれる中華料理の例にもれず、日本独自の発展を遂げてきたガラパコス的な揚げ物、略してガラ揚げなのである。……と考えられる。

たぶん。

いろいろ調べた結果をざっくりまとめると、以下のとおり。

・そもそも唐揚げとは「空揚げ」と書き、
 サッと粉を叩いた程度に衣が薄いか、そもそも素揚げだった。
・日本に入ってきた中国料理の揚げ物を雰囲気優先でマネした結果、
 衣のつけ方がお店によって違う曖昧な料理に。

中国料理では日本の「唐揚げ」とキレイに一致する調理法があるわけではなく、日本語の料理名とは以下のように対応しているのが現状である。ややこしいけどこの表をまずは把握してください。

唐揚げ 表

そして唐揚げ誕生にはこんな歴史がある。

これらの中華料理の揚げ物が日本に入ってきた当初はまだ料理名が定着しておらず、何と呼べばよいか皆が頭を悩ませていた。

本来ならば字義的にも「清炸」=「素揚げ」こそが「空揚げ」であるはずだったが、あいにくそうはならない。

まず「軟炸」という厚めの衣をつける調理法「やわらか揚げ」は日本でいう「天ぷら」に近いため、わかりやすく「天ぷら」と訳された。

酥炸」=分厚く衣をつけた「サクサク揚げ」は、広東地方で発達したものだが、日本に中華料理が広まった当初はあまり入ってこなかった。

そこにある店が、鶏の「乾炸」=「カリッと揚げ」を「唐揚げ」という呼び名で売り出した。

「唐揚げ」というメニューを最初に大々的に売り出したのは、昭和7年頃、東京・銀座にあったレストラン(三笠会館)。
現在も作られているメニューを見ると、骨付き鶏にサッと粉を打って揚げているので、調理法は「乾炸」=カリッと揚げ

おそらく当時の店員たちは、ただ粉を打って揚げるこの揚げ方を「天ぷら」とは呼べないし、というので命名に苦労したはず。
その結果、中国の揚げ物なんだから「唐揚げ」と考案(したのだろう)。
これ以降、「乾炸」=「唐揚げ」になった
「唐揚げ」とはこの時点では、骨付鳥に下味をつけ、粉をサッと打ってカリッと揚げたものを指した。

しかしそのうち町の中華料理店では、揚げ方の細かな違いなんかどうでもええねん、となって「鶏に衣をつけて揚げたものならなんでも唐揚げだろう」というふわっとしたイメージだけが広まり、卵を溶いて片栗粉と混ぜた衣の「軟炸鶏」と呼ばれる料理も「唐揚げ」と呼ばれ混同されるように。調理法の違いは二の次にされたのである。

戦後〜1960年代にかけて、中国から引き揚げてきた日本人と、出稼ぎに来た中国人によって、日本国内の中華料理店が一躍増加した。食料不足の時代、カロリーが高い=油を多く使う料理が好まれたため、揚げものが人気に。
鶏の唐揚げは中華の人気メニューとして日本中に広まってゆく。

こうして現在日本には、卵を溶いた液状の衣で揚げる唐揚げと、粉をまぶして揚げる唐揚げが混在している。

さらに店によっては、同じ揚げ方(軟炸)なのに鶏だけ唐揚げ」と呼び、豚肉や小エビ、イカなどは天ぷら」と呼ぶ、という曖昧な線引きに。

この唐揚げという呼び名が鶏にだけ広く用いられるようになった要因は3つほど考えられる。
・三笠会館のメニューが東京一の繁華街、銀座で有名になった
・戦後の食糧難を解決するために養鶏場が多く作られ、
 同時に鶏の揚げ物が広く出回るようになった
・1970年、大阪万博以降、外食文化の盛り上がりとともに
 中華料理店が町に増えた
一方、古くからの中華料理店の中には、
乾炸」=「サッと粉を打って表面をカリッと揚げたもの」→「唐揚げ」(鶏は骨付き)
軟炸」=「片栗粉と卵でやわらかな衣をつけて揚げたもの」→「天ぷら」(鶏は骨なし)
の原則を守っている希少な店もある。
大阪・上本町の南海飯店本店では、片栗粉と卵で衣をつける料理はすべて「天ぷら」と呼び、鶏(骨なしモモ)、豚、小エビ、大エビなどがメニューに並ぶ。
一方、骨付きの手羽、モモなどに粉をさっと打って揚げる料理は「唐揚げ」と呼んでいる。
つまりこの店には鶏の「天ぷら」と「唐揚げ」が衣の違いによって共存しているのである。超エライ、すごいと思う。

こういうややこしい、書いていても混乱するような行き違いがあって、鶏に衣をつけて揚げたものをざっくり全部「唐揚げ」って言っちゃえ、ということで現在に至るのである。

なぜこういうことになったかというと、中国料理と日本料理の命名方法の違いに大きな原因がある。中国は「そのまんま」命名、日本は「雰囲気で」命名するのである。

中国料理では(一部例外を除き)調理方法がほぼそのままストレートに料理名になる。干焼蝦仁、といえばエビ(蝦仁)をカリッと炒め(干焼)たものである。

それが日本だと、見た目、雰囲気重視で名前をつけてしまう。エビチリ。エビのチリソースである。チリソースに目を奪われてしまって、肝心の調理方法は名前から脱落する。そうなるとエビの衣を厚くしようが素揚げにしようが、エビチリに違いはない、となってしまう。そんなこんなで唐揚げもごちゃごちゃになってしまったのだ。


ここまでややこしい内容を読んでくださった皆様ありがとうございます。

いろいろ書いたけど、おいしければそれでいいよね。唐揚げ大好き。

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