テーマで乗りきれ！　手抜きごはん。　〜荒くれウェスターナー定食〜

きょうのごはん、我ながら手抜きだなあと自責の念にかられることはありませんか？　そんな貴方に最高の乗りきり方を伝授します。それは、テーマを設けてイメージを（過剰に）ふくらませること。

週明けから雨が降り続く予報だったので、その前に行っておきたいところややっておきたいことがいろいろあって、昼間ドタバタしたらすっかり疲れてしまった。こんな日はもうありあわせのもんでチャチャッと作るか、いっそスシローでも行っちゃえ、という気分になる。皆さんもそうですよね。

しかし今うちの根菜ストック箱（冷暗所＝玄関に置いてあるただの段ボール箱）には大量のジャガイモがあるので、芽吹きと戦いながらせっせと食べ進めねばならない。かつ先日イオンで88円だったので矢も盾もたまらずレジカゴに放り込んだトウモロコシが、新聞紙に包まれて我が冷蔵庫で幾晩かを過ごしていた。
トウモロコシとジャガイモはともかく食べよ、アメリカ人みたいだけど。あとは何をメインに持ってくるかだな。

と、そこで天啓が降ってきた。そうだ、アメリカ人になろう。奮発してステーキ焼こう。透明フィルムに印刷されたレタスが飾られた100g198円のとっても赤身なオージービーフ、２枚で600円弱を思いきって購入。アメリカンビーフじゃなかったのが惜しいけど、そこは誤差の範囲でしょ。

西部開拓時代をイメージしたごはん。

まずは蒸し器でトウモロコシとジャガイモを蒸かす。蒸気というのはいかにも頼りなげでありながら、その実野菜からなるべく栄養素を失わずに摂取できる優れものである。ゆでたりするのと違ってビタミンが水のほうに溶け出したりしないからね。もちろん加熱で壊れるものはしかたないけど。

蒸す、という工程に実は不慣れでスマホ片手に蒸し時間をググる。ふむふむだいたい15分も蒸せばいいのだな。意外と早いな。

きょうのごはんのテーマは、「荒くれウェスターナー定食」。歴史的な意義としてこの言葉が正しいのかどうかはまた別の話だけど、いわゆる西部開拓時代。幌馬車で西海岸を目指した人々が囲んだ、ある日の夕食をイメージ。そっけなく蒸したジャガイモとトウモロコシ、そしてステーキという取り合わせである。

15分も蒸すとジャガイモのひとつの皮が裂けた。火が通ったというしるしかなあ。トウモロコシを取り出して皮を剥いてみると……？

おほー、ピッカピカのツヤッツヤ。美しーい。冷蔵庫に長いこと入れていたから萎れてないかと心配したけど、杞憂だったみたい。

ステーキも全力で焼く！

お肉のほうも「ステーキ　安い肉　焼き方」でググった結果得られたコツを忠実に遵守して焼く。曰く、常温に戻しておいて、筋切りをして、焼く直前に塩コショウ、牛脂を熱して強火で片面1分、ひっくり返してもう1分。

それにしても赤身。そして薄い。

わあーお久しぶりですーう。お元気でしたかー。久々のステーキ。お風呂上がりの妻が横から覗いて「いきなりステーキじゃなくて、ようやくステーキやなあ」と笑った。

焼けたらホイルに包んで5分ほど休ませ、その間にフライパンですり下ろし玉ねぎとニンニク、醤油・みりん・酒で和風ソースをこさえる。

荒くれウェスターナー定食、一丁あがり。

ピーマンもついでに焼いて、できあがり。南米原産の野菜を揃えた、西部開拓時代の夕ごはんである。こうして考えると日本で夏野菜として生産されている野菜は中央〜南アメリカの亜熱帯〜熱帯由来のものが多いんだなあ。もはや夏野菜とはアメリカ野菜、と言ってもいいのかも。キュウリとかは違うけど。

じゃあソースをかけて久々のステーキ、いただきます。

ああー、うん、このクラスのお肉にしては文句なしの焼き上がり。ああ、今オレ肉を咀嚼しているんだという弾力（察してください）がたまらない。いやそれほど固くはないですよ、ほどほどです。ファミレスのステーキレベルにはなってます。

荒くれ、というにはお肉のボリュームがさみしいけど、ジャガイモやトウモロコシをほおばれば、気分はすっかりアメリカン。大峡谷に夕陽が落ちて、サボテンが滑稽なシルエットを浮かび上がらせる。タンブルウィードが空っ風に転がり、砂塵が舞い上がる。

明日はどこまで馬車を走らせよう。バンジョーを爪弾きながら地平線の彼方に待っているはずの幸福な生活に思いを馳せる。

ただ焼いただけの肉と蒸しただけの野菜。手抜きにもほどがあるけど、それは手抜きなんじゃなくてそういうテーマ、コンセプトありきなんですよーと自分たちに言い聞かせれば楽しくおいしく乗りきれるはず。いや乗ってください。乗りきってください。

「アメリカ人に生まれてよかったなーと思う瞬間だよねー」

いちびってそう言うと、妻が「は？」と言った。彼女はそこまで没入していなかったようだ。

スッキリしない天気ですが、ガツンとスタミナつけて立ち向かっていきましょう。あるいはうまくかわしていきましょう。