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攻めろ! 強気の海軍メシ・肉じゃが。

我が家の晩メシは都会に暮らしている世帯では早いほうかもしれない。

あ、食べる速度じゃなくて時間帯の話です(食べるのも早いけど)。だいたいいつも、用事が立て込んでいなければ午後7時に「いただきます」を言う感じで支度を進めている。だって早くビール飲みたいし。

これがどうやら早いみたいだ、というのは、毎晩食後に窓を開け放ってヘラヘラしていると、階下の他所様の煮炊きする香りがかなり遅めの時間帯、午後10時ぐらいに漂ってくることが多いのにあるとき気づいたのだ。

そしてそれをふたりで「お、今夜は中華だね」「今夜は洋食の香りだね」「玉ねぎをバターで炒めているねえ」「焦がし醤油系だねえ」などと勝手に嗅覚で推理して遊んでいる。のんきな大人です。きっと遅く仕事や塾などから帰ってきた家族がいるのかなあ。

そしてさらに気づいたのは、けっこう遅めの時間帯にもかかわらず、わりとガツンとくる系のごはんを召し上がっているお宅(複数あるのかも)みたいだということ。小さいお子さんがいるか、若い所帯なのかしらね。

逆に肉じゃがとか煮物の香りが鼻腔をくすぐる、ってことはないなあ。若い人には意外と難しいし、今はもうお子様受けもそんなによくないのかも。

以前にも書いたと思うけど、料理初心者が侮ってかかって失敗しやすい三大料理のひとつが肉じゃがだと個人的には思っている(ちなみにあとふたつは炒飯と玉子焼き)。使われている食材が小学校の家庭科でもあつかうような定番中の定番ばっかりだからか、皆気軽に考えちゃうフシがあるんじゃなかろうか。

でもその実、意外と難しいのよね。何が難しいって、味がなかなか決まらない。どうしてもぼんやりした、パンチのない仕上がりになりがち。かく言う私もまあまあの苦手意識を持っていて、たまに肉じゃがを作るときは背筋の伸びる思いがする。

しかし新じゃがと新玉ねぎのおいしいこの時季に一度も肉じゃがを作らないというのはちょっぴりもったいないので、覚悟を決め、深呼吸をしてキッチンに立った。

ルーツは海軍メシ? 

ご存じの方も多いと思うけど、肉じゃがは明治時代に海軍のお偉いさんだった東郷平八郎が考案あるいは提案したもの、というまことしやかな説が流布していて、海軍の鎮守府があり東郷平八郎が赴任した京都府舞鶴市と広島県呉市がこぞって「ウチこそ肉じゃが発祥のまちですねん」「いや、ウチじゃけえ」と仁義なき戦いを繰り広げている。

でも真相は例によってよくわかっていない。

一応、1938(昭和13年)年版の『海軍厨業管理教科書』という軍隊メシのレシピ本には「甘煮」という料理名でそれらしき料理の記載がある。でも明治のことじゃないし、肉じゃが海軍発祥説の決定的証拠とは言えない。

でも言えることは、肉じゃがは栄養たっぷりで、兵隊さんのお腹を満たす人気メニューとしてひんぱんに作られていただろう、ってこと。

ちなみに上記の書には「甘煮」は一応こんな風に書かれているけど……。

材料 生牛肉、蒟蒻、馬鈴薯、玉葱、胡麻油、砂糖、醤油
一、油入れ送気※
二、三分後生牛肉入れ
三、七分後砂糖入れ
四、一〇分後醤油入れ
五、一四分後蒟蒻、馬鈴薯入れ
六、三一分後玉葱入れ
七、三四分後終了
備考
一、醤油を早く入れると醤油臭く味を悪くすることがある
二、計三五分と見積れば充分である

※送気とは、当時海軍で使っていた蒸気釜に蒸気を送って熱すること

これを見てすごく重要な問題に気づきませんか? 分量が書かれてないのに調理時間だけ書かれているのです。どない再現せえっちゅうねん。また具材の投入順など、このとおりだと現代の肉じゃがとかなりかけ離れているし、作るのはなかなか勇気が要る。

けど、ここから読み取れる、肉じゃがづくりに活かせるポイントがふたつあると思う。

ポイント1 肉じゃがは炒めもの?

そう、上記の海軍レシピが本来の肉じゃがのルーツに近いとするなら、それはお出汁などでグツグツ煮る通常の「煮物」とはちょっと違うと考えたほうがいいんじゃないかということ。むしろ関西風のすき焼きに近い、砂糖と醤油で甘辛く焼いた牛肉とともに野菜を炒める料理、というような感覚だったのでは?

つまり、煮汁は最小限でいいはず。それを肝に銘じながら作ってゆく。

肉じゃが06

まずは牛肉を炒めてゆく。我が家には珍しい牛肉。230gぐらい入っていて390円ぐらいだったアメリカ産牛肉が2割引だったので購入。なるべく肉は国産を買い支えたいと思っているんだけど、支えようにも経済力がともなわなくてツライところ。予め日本酒を振り、常温に戻してから炒めてます。

肉じゃが07

ついで玉ねぎを炒め、しんなりしてきたら新じゃが(皮つき)とにんじんを加えて炒める。肉は薄すぎて、狭い鍋の中で一緒に炒め合わせると引っ張られてちぎれちゃうので、いったん避難してます

ある程度表面がまんべんなく炒まったら、砂糖を大さじ1〜2ぐらい(お好みで、でもなるべく強気の量で)振りかけ、酒ひと回しと水を最低限(ひたひたより少ないぐらい)注いで、牛肉を戻し入れ、フタをしてひと煮。

あくまで発想としては炒め煮。とは言え炒めるだけでゴロゴロの新じゃがやにんじんに火を通すには、それこそ屈強な兵隊さんに始終かき混ぜていてもらわなくちゃならないので、最低限の水は入れます。

ポイント2 守れ、そして攻めろ!「さしすせそ」

さて、わかりますか、ここまで使った調味料は酒と砂糖。料理の「さしすせそ」でいうと「さ」だけ。この「さしすせそ」の順序を守ることがふたつめのポイント

というのも、まずお酒を最初に入れるのは、臭み消しの役割。そして砂糖は塩(今回は入れないけど)にくらべて分子構造が大きいので、素材にしみ込むのに時間がかかります。塩の3倍かかるという実験結果もあるようです。なのでいちばん最初に入れるべし。また、先に塩を入れてしまうと、砂糖よりも早く食材の中に陣取って、後からくる砂糖のしみ込みを妨げてしまいます。甘みはまずいちばん最初にキチッと入れないと、あとで困ることに。

肉じゃが08

ある程度煮えたらフタを取り、煮詰めて水分を飛ばして、具材がゴロゴロ顔を出してきたところで醤油を回しかけます。そのままフタをせず、味を決めていきます

砂糖をしみ込ませてから、醤油を煮からめる。この2段階の味つけがキモ。魚の煮つけと同じで、中まで醤油の風味をじっくりしみ込ませるのではなく、あくまで風味のよい、味の濃い煮汁を表面にまとわせるイメージ

醤油は「さしすせそ」の「せ」=せうゆなのはご存じのとおり。今回「し」=塩、「す」=酢は入れないけど、「さしすせそ」を守ればこの順序になるのは当然ですよね。
醤油のタイミングが遅いのは諸説あって、香りを飛ばしすぎないためだとも。上記の海軍レシピではだいぶん早めに入れている気がするけど、それでも調味料としてはいちばん最後です。

醤油はこの写真で言うと大さじ2〜3は要るかなあ。かなり強気で入れないと味がボケちゃいます。出自は軍隊メシですから上品な対応は不要。「こんにゃろー!」と雄叫びを上げつつ、ジャバジャバいっちゃってください。

仕上がりが近づいてきたら味見をして、みりんをひと回し。

肉じゃが04

見るからにおいしそうな写真が撮れました! 今回も無事できあがり!

強気の海軍メシ、ヨーソロー!

肉じゃが03

うん、怯まずに取り組んだことが奏功して、なんとか食卓のメインをはれる存在感に仕上がった。お肉も臭くないし、じゃがいもはほくほく。味もボケてない。ごはんのおかずによし、ビールのお供によし。ほっとしたー。

肉じゃがって味わいがどうしても優しすぎて、たとえば定食のおかずとしてはメインを張りにくいイメージがないですか? 唐揚げ定食、ハンバーグ定食などのパンチにはちょっと及ばない感じがする。うちの奥さんも肉じゃがは好きですが、「おかずが肉じゃがだけなのはイヤ!」と頑なに主張して譲りません。それには全く同感。

でも、少しだけ気持ちを強く持って取り組めば、どうしてなかなか侮れない実力の持ち主です。これだけスター級の食材が勢揃いしているんですから、当然と言えば当然。たまには真正面から気合を入れて肉じゃがと向き合うのもいいもんです。

肉じゃが02

……とか書いているうちにもう、午後6時! 

ようし今夜もおいしいごはんを作るぞうー。


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食べること、料理することがめっぽう好きな中年のおじさんです。 定番人気メニューのルーツについてこれまで自分なりに調べたことや、 日常の食事シーンの中でのささやかな気づき、発見、疑問などを書きとめてゆきます。 誰かの目に留まれば幸いです。