鬼なのにやさしい……。 大根おろしの季節到来。
週末の肌寒さがウソのように気温が回復して、さっぱりしてみずみずしい大根おろしが嬉しい気候になってきましたね。
でも大根は、ご存じのとおり冬が旬の野菜。いくら栽培地や作付け時期を変えることで年中入手できるようになったといっても、こんなふうに大根おろしが夏のメニューとして定着したのはいつ頃からなんでしょうね。
現在国内で最も多く生産され、通年で収穫されている品種・青首大根が普及したのは昭和50年代だそうなので、意外と歴史が浅いのかも。俳句でも「大根(だいこ)」は冬の季語だそう。
軽く調べると、井原西鶴が1681年に「生板に釘山ほととぎす 村雨や大根おろしにふり雑り」と詠んでおり、江戸初期には大根おろしの食習慣はすでにあったようだ。ほととぎす=初夏、村雨=夏という季語(にも用いられる語)が並んでいるところを見ると、夏の情景を描いた歌のようだ。もしかしてこの頃すでに大坂の市中では夏に大根おろしを食べる習慣が出来上がっていたのかもしれない。
さて、我々夫婦は料理道具に関してはなるべくオーセンティックな、長年使えるものをじっくり吟味して揃えてゆきたいと常日頃から思って暮らしているのだけど、その中でも長い間憧れ続け「いつかはほしいね」「ねー」と指をくわえて眺めていた品がある。今回はそんな、食卓を豊かにしてくれるお気に入りの道具のお話。
もはや民藝のたたずまい、鬼おろし。
ばばーん。鬼おろし〜!
竹を見事に組み合わせた機能美のフォルム。整然と揃った刃がシンプルかつ美しい。これが長い間ほしくてほしくて震えていた。
でもね、けっこういいお値段がするんです。ふつうのおろし金に比べると。
思うに現代社会において、大根(などの野菜)をおろすおろし金ってプラスチック製の普及以降、すでに市場は飽和状態にあると思うんですよ。その結果、皆さんあまりその品質や使い勝手を吟味せずに、言い方は悪いけどテキトーにやっすいのを選んで使っている気がします。僕もずっとそうで、それで別にいいと思っていました。
でも、鬼おろしはまずなかなかプラスチック製じゃ売っていない。通常のおろし金もあるときアルミ製のスタンダードな品を使うようになって以降、鬼おろしに関しても買うならこういう伝統的な品じゃなきゃイヤだと、いつ頃からか思い始めていました。
最終的に購入したのはある年の暮れだったかな、大阪・日本橋の道具屋筋でのことだったと思います。もうそろそろ思いきって買ってもいいじゃない?と妻と見つめ合い、うなずき合って、胸を高鳴らせながら購入。1500円ぐらいだったかしらん。
これが果たして使ってみるとまことに気持ちいい。
大根がボロボロと崩れ、ほぐれて、小さな塊になって落ちてゆく。ふつうに大根おろしをするよりスピーディ。あれよあれよという間にすり終える。鬼、すごい。仕事が早い。
鬼おろしの本領は生でこそ。
きょうは鶏モモ肉をカリッとジューシーにチキンステーキに。両面に塩コショウした後、ニンニクを熱したフライパンで、皮目から中弱火でじっくり火を通していきます。
途中、にじみ出る油を適宜キッチンペーパーで拭いつつ、カリッとキツネ色に焼き上げる。
辛味の少ない、あっさりさっぱり風味でお箸が進む!
焼き上がったチキンステーキを食べやすい大きさに切り、鬼おろしと一味、手作り「やさしいポン酢風ソース」をかけてできあがり。
<やさしいポン酢風ソース>
醤油・煮切りみりん(レンチンでOK)・・・各大さじ1
レモン汁・・・少々
もちろんただの醤油やポン酢でもいいけど、せっかくの鬼おろしにあまり強い味をつけたくなかったので、角の立たないソースを考えました。
お好みで刻みネギ、ミョウガなどの薬味をくわえても素敵です。
鬼おろしは大根の細胞をあまりつぶさないので辛味成分ができにくく、生の大根をそのままかじったような甘さが際立ちます。鬼なのにやさしいどころか、むしろ鬼のほうがやさしい仕上がりなのです。そこへ手作りソースのマイルドな風味が合わさって、食欲が増すこと間違いなし。
道具(技術革新)と品物(手法)は二人三脚。
料理の世界に限らず、何か新しいコトやモノが生まれるとき、そこには必ず新しい道具や技術革新があります。どちらが先かはケースバイケースで、何かを始めるにあたって道具を考案することもあるだろうし、道具が生まれた結果、新たな展開が発想されることもあると思います。
どちらにしろ、そうやって新たな選択肢が増えるときはワクワクします。そんなワクワク感を、たとえささやかであってもひとつひとつ、かみしめていきたいものです。
とか大きいところに着地して強引にまとめる。
ごちそうさまでした。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?