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大学で化学を学ぶと決めた理系女子・男子他に告ぐ

前回記事で、シレっと

(化学の世界で言うと、例えば、Nature、Science、JACS、AngewandteなんぞのTop Journalは、難関大の掲載がやっぱり多いです。)

と書きました。これ、大学に行って化学を学ぶなら論文がTop Journalに掲載されてるような研究室に入ってなんぼ、自分の研究がTop Journalに掲載されてナンボ、という意味では決してありません。

で、大学での勉強って何だったのかなぁ?大学で化学を学ぶってってどういうことだったかな?というあたりも回想していたのですが、書き足りなかったので、別記事としてお伝えします。

■ そもそも

小 学校・中学校:
義務教育の場で、日本で生活するための、最低限の教養、経験を得る場所。

☞新聞が読める、お金の勘定、簡単な計算ができる、自然現象をイメージできる、政治や選挙など社会の仕組みを理解している、集団生活に慣れる、健康的に生活する術を知る、、、、等々か?

高校:
中等教育の場として、高等教育(専門学校・短大・大学・大学院)で学ぶための準備、或いは中等程度の専門知識を得る場所。

☞工業科・商業科等;いわゆる職業科。工業・商業等の現場で働く為の専門知識、技術を体得する。
☞普通科;高等な専門知識を得るための準備、人はそれを受験勉強と云ふ。

短大・専門学校・大学・大学院:
高等な専門知識を得て、その実践(研究)を通じて技術を体得する場所。

☞学術、産業分野で貢献するための準備。

社会人:
専門知識、技術を実践。日々、新たな知識、技術を習得し、産業分野で貢献し、対価を得る。
アカデミアなら、若い人を育てる、後継者を育成する、研究する、学術論文書く、研究成果が社会の役に立つ、究極はノーベル賞級の発見をして、自分の発見した系が教科書にも載る。

上記は小生の実感です。きっと、文科省かなんかで、指針なり、なんなりがあるんでしょう。知らんけど。

■ 講義で何を学ぶ?

これも前回記事でシレっと書きました。

高校化学なんて、ただの上っ面、ちょっとした教養位のレベルじゃん、と気付く。。。化学を勉強するには、物理はもとより、数学、英語も必要じゃん。

そうなんです、高校化学は化学という学問の表層をさっと眺めた程度、真実はもっと深くにあります。

高校化学は、それはもう丸暗記の世界、と言ってもいいかもしれません。ややこしいのは有機化学?ちょっと意味が違いますが、それこそ有機的なつながりを理解したり、意識したりしないと、ちょっと暗記も難しい、程度かと。

方や大学。小生が卒業した工学部、応用化学専攻での例でしかありませんが、

ざっというと、反応を、電気・電子的状態、極性、立体性、エネルギー、速度論を軸に議論するようになる。また、高校化学では物質、簡単な反応、有機、無機、高分子が軸だったと思いますが、大学では他に、物理、熱力、電気、物性、触媒、分析なんかが加わったり細分化されたり、ハイブリッド化されたりし、工業、社会、環境、数理・統計といったアプローチもします。加えて、化学工学概論、生命化学概論、技術倫理なんかも学びます。

これは、あくまで講義の話。ほかに実験(実習)なんかもやります。

化学工学(プロセス)や生命化学(バイオ)といった専攻、或いは理学系の専攻であれば、大分様子が変わると思います。因みに、小生の偏見ですが、、、

化学工学:真面目で実直な人
応用化学:ちょっと変わった人
生命化学:頭がいい人

が専攻している印象があります。大学で応用化学を専攻してエンジ会社で化学工学を実践した小生は、ちょっと変わった真面目で実直な人、ということですね。

講義が面白い・楽しいと感じるかどうかは、人それぞれで、教授次第というところもありますが、高校化学の延長で知的好奇心を満たすためなら、十分な環境だと思います。教授も議論に付き合ってくれる、はずです。

私の場合、、、
B1の時は総じて面白かった。
B2〜B4は全然面白くなかったかな。
M1〜M2は、また少し面白くなった。
特別講義やら集中講義やらで、他大学の先生なんかが講師の時はどういうわけか妙にテンションが上がり、楽しかった記憶がある。

特にB2〜B4は、課外活動が面白くてしょうがない時期でもあったせいか、学ぶため、というよりも、単位を取るため、に受講目的がシフトしていたふしはある。

■ 研究室に入ると?

ここからが本番。本当の勉強、学び、の様な気がします。

細分化された専門分野に突き進みますので、講義で学んだことがすべて生かされるわけではありませんが、やっぱり引き出しが多いほど考えることも多い、ひらめきも多い、課題に対して多角的なアプローチができる、とは思います。

まず、教授他研究室スタッフ、D生に、直接的に研究テーマを与えられたり、或いはヒントをもらったり、一緒に考えて決めたりして、卒論なり、修論のタイトル(仮)が明示されます。

やること決まったら、先行文献(所謂、学術論文)を学内OPACで検索、入手し、内容を分析・評価することで、その研究テーマにどう取り組むか、即ちどのようなアプローチで課題なり、謎なりに対峙していくか、どのような実験、分析、検証が必要か、と仮説を立てます。これつまり、学術的に誰もまだやっていない事、を明らかにする工程です。

自分が卒業した大学の事しか分かりませんが、よっぽどのことがない限り、文献調査は学内OPACで事足りました。学術論文って基本有料ですが、大学があらゆる出版社と契約してくれているので、読み放題です!

ここで、冒頭に例示したTop Journalと〇ンコツJournalの歴然とした差を、まざまざとみることになります。Top Journalは、なにも例示した4件しかないわけではなく、細分化された分野毎に存在します。例えば、小生が専門分野とした(不均一)触媒化学では、

:Journal of Catalysis(7.92)
:Applied Catalysis A(5.71)、Applied Catalysis B(19.5)
:Catalysis letters(3.19)、Journal of Molecular Catalysis(1.34)、Catalysis Communications(3.51)、Catalysis today(6.77)、Topics in Catalysis(2.47)、、、

という印象でした。で、松がその手の分野でのTop Journal。()内は2022-2023年のImpact Factorですが、当時の印象と随分序列が変わってますねぇ。Impact Factorが高ければいい雑誌、ということでは決してありませんが、論文の引用件数と合わせて、評価の指標となります。

当然、”化学”という視点で、冒頭のTop Journalにも触媒化学関連の論文は掲載されますし、少し視線を変えて、Green Chemistry(10.7)、Chem. Commun.(6.22)、Journal of Physical Chemistry C(4.13)、 Physical Chemistry Chemical Physics(3.43)といった雑誌に投稿するケースもあります。

因みに、Top JournalのImpact Factorは、Nature(42.8)、Science(47.7)、Journal of the American Chemical Society(8.09)、Angewandte Chemie(16.8)、といったところです。

こうしてみてみると、(不均一)触媒化学は蘭Elsever、英?Springerが主で、化学全体での著名な雑誌は、英、米、独?からの出版が主。日本化学会もBull Chem Soc Jpn(5.49)なんかがあるけどね。

話が飛びましたが、結局のところ、卒論や修論はもとより、新たな発見を著名で評価の高い雑誌に投稿、査読を通過して掲載される、ということが研究成果を世に示す一つの形、モチベーションになります。

もとい、

いよいよ、実験に移ります。ここからは、仮説と検証の繰り返しです。例えば、ある仮説に基づき、実験を計画・実施。得られた実験データを自分なりに整理、評価し、週一の研究室Meetingの場で教授やスタッフ、所属学生に問う。コメントを反映/参考にして次の実験を計画する(あるいは新たな仮説を立てる)。この繰り返しです。

ところで、いい実験結果って何?

Champion Dataが飛び出した!というのが分かりやすいでしょう。世界一高性能なXXXを開発した、ということですね。

あとは、新たな視点・手法(YYY)で、すでに知られたXXXを再評価したら、ZZZという実験データが得られた。yyyの解析を行ったところ、xxxとzzzにはAAAという相関が得られたことから、XXXはaaaと評価され、課題BBBの解決に有効である。ってなのも新たな発見ですね。

誰もやってないことをやって、新たな発見があったら何でも、いい実験結果になり得ます(つまり卒論、修論、学会発表、査読付き論文投稿の対象)。

他方、CCCについてDDDの評価をしたが、既知のEEEと比べて、箸にも棒にも引っかからない性能(機能)しか発現しなかった。。。

こういったケース、学術的価値は低いのでしょうが、産業的価値は高かったりします。失敗実験データ、とでもいうのでしょうか。”こういう着眼点で、こういう実験をすると、うまくいかない”、という。これも発見、新たな知見ですよね。これはClosedな世界でのKnowledgeの蓄積として貢献できます。(もしかして、世の中で明示されていないだけで、誰でもわかるような失敗かもしれないけど。。。)

ということで、あれやこれや考えながら、週休1日、Working Dayは深夜まで実験やデータ解析を繰り返し、午前様も当たり前、場合によっては研究室に寝泊まり、完徹。。。たまのご褒美は学会発表(楽しい旅行)、発表の準備も大変だけど。。。そして盆と正月は企業より休みが少ない???というのが、学生時代の私でした。

言っておきますが、みんながみんなこんな感じの研究室じゃないですよ。下級公務員の様な勤怠で、すごい結果をバシバシ出しているような研究室だってあります。

■ 繁盛研究室に入ると? 

前項は、明るく、楽しく、書いたつもりです。

方や、繁盛研究室、即ち、国プロや共研、科研費をワンサカ教授が引っ張ってくる金持研究室に入室すると、様子が違ったり、違わなかったり。

やること全部決められて、まるで作業員、ひたすら労働力、兵隊として酷使される、みたいなケースもあったりなかったり。研究資金に困ることはないけれど、研究室生活がいやになって、化学も嫌いになる人、研究室を去る人がいたり、いなかったり。。。研究室は学ぶ気持ちを搾取、やる気を搾取する場、お金払ってるのに何でこんなに労働してるんだ!なんてな事を感じたり、発言したりする人も多いかもしれません。。。

社会人(仕事)と同じで、興味がある分野を突き詰めたい、好きなことが仕事にできればハッピー、でも労働条件や環境も大切、という感覚は、研究室選びで持っていて損はないと思います。

■ 結局何を学んだ?

ある着眼点で、実験的な検証をすると、新しい発見・知見(Finding)が得られた。このFindingについて、FactとOpinionに分けて議論する。この一連を研究と呼ぶ。これ即ち、”仮説と検証を繰り返し、ブラッシュアップして形にしていくこと”、が研究成果。

ということを、学びました。勿論、この過程で、講義で得た知識以上に、自分で調べ、考え、学ぶことで専門知識も蓄積されていきます。

ここで大事にしたいのが”着眼点”という言葉。

工学部で学んだが故、かもしれませんが、新規性とともに、世の中の役に立つかどうか、にも着眼する、という癖がつきました。というより、そう指導されました。目的や課題に対して、どういう着眼点でアプローチしたか、着眼点≒世の中で誰もやってない新たなアプローチ、といった具合ですかね。工学部の研究は単なる謎解きではない、ということを強調しておきたいと思います。

以上の学び、専門性はもとより、考え方は、社会に出てからも大いに役に立ちました。

社会人になって思うのは、大学のうちに知的財産とかレポーティングの知識、スキルも身に着けておきたかったな、と。もしかして一般教養や、工学部の講義を受講していた???全く記憶にありません。。。まぁ、社会人になってからも学ぶ機会はたくさんあるので、大きな問題とは感じてません。

学術論文は定型がありますが、社会に出てから日々作成する報告書は全く別物です。どこかで聞いた話、米国の大学では、レポーティングの講義が必須だとか。実際のところは、しらんけど。。。

あと、技術倫理、知財、レポーティングに加えて、LCAAIなんかも化学に関わるものとして必要な知識と感じます。20年前のカリキュラムにはなかった気がしますが、近頃はこういうネタも学部もしくは一般教養の講義があったりするのかな?

■ 都市伝説

(応用)化学あるある?思い出深いネタがあるので3つほど紹介します。

①化学系の男は腰が弱い、化学物質に触れまくっている、、、

が故に、子供は女の子ばっかり生まれる。。。

☞小生のところは、一男一女です。

②理学系、工学系の先生のドンパチ、、、

小職の専攻した応用化学には、理学系出身の先生と、工学系出身の先生が半々くらい?いました。

理学系の先生は、”工学系の先生は、サイエンスがわかっとらん、Top Journal読め”、と言い、

工学系の先生は、”理学系の先生は、工業がわかっとらん、とりあえずサウジの油田を見てこい!、と言い、、、

☞私は両方大事と思います。Top Journalを眺めたこともあれば、輪講・輪読でピックアップしてみたり。幸運なことに、社会人になってサウジの油田も見ることになりました。。。ということで、多様性に触れる、ってことも大事ですね。

③ドイツ語必須?

化学とか医学ってドイツが強そうなイメージありません?少なくとも20年前時点で、小生はそういうイメージを持ってました。そして、教科書や論文もドイツ語だったりして、、、と勝手に想像してました。

大学では、一般教養で第二外国語というのを選択することになります。ドイツ語、中国語、スペイン語、ロシア語、、、色々選択肢がありましたが、小生は中国語を選択しました。。。先生が美人で、、、常に最前席で講義を受け、質問しまくり、当然成績は優でした!

え?ドイツ語じゃないの・・・って?

そうなんです。先輩に聞いたら、別に要らないよ、と。。。小生、その後の人生でずっと化学に関わってますが、ドイツ語出来なくて苦労した経験はありません。社会人になってからは、中国語が役に立った経験は多数、文献調査でポルトガル語とかロシア語に遭遇したことがある、といった程度ですね、第二外国語。

そういえば、Angewandteはドイツの雑誌ですね(英語でかかれてます)。

■ さいごに

おじさんのおもいでポロポロ、昔話で恐縮です。酔っ払ったおじさんに聞かされる昔話は最悪ですが、小生、シラフで書いていますので許してやって下さい。

そういえば、採用面接したり、リクルーターとして大学訪問したり、若手の社員と仕事したり、、、すると、

近頃の若い人、めっちゃ頭いい、色々知ってる、考えが合理的、、、

と、自分の若いころと比べて、めちゃくちゃ優秀、って思うことが多々あります。

情報社会の中で、必要な情報を取捨選択しInputしていくこと、そしてそれを咀嚼して、自分事としてOutputすること、に長けているからか?と思ってみたり。

小生の若かりし頃は、”つべこべ言わず黙って仕事する人”、が求められていたような気がする。いつもニコニコ、イエスマン、ですね。

今の時代は、”つべこべ言って、自分で課題を特定、解決方法を策定、実際に遂行して結果出し、失敗したら尻拭いまでする、上司の失態も尻拭いする人”、が求められている気がする。大変よね、若い人。

種々機会に恵まれてきたおじさん世代以上に比べたら、経験(成功も失敗も)する機会に恵まれない中で、結果出していかなきゃいけない。

これから大学で化学を学ぶ人、然り、大学に進学する人、そして社会に出る人。大変な時代を生きているんだと思います。勉強や研究も大事ですが、

大学に入学して、高校生の時以上に、部活やサークル活動に励む、女の子(男の子)とワチャワチャする、バイトする、遊びまわる、本を読み漁る、そして旅にでる、ボランティアしてみる、インターンしてみる。夏休みや春休みも随分長い(研究室に配属されたらそうはいかないけど)、色んなチャンス、色々考える機会

前回記事

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若人に幸あれ!

おしまい

■ おまけ

別に良書としておススメするわけではありませんが、学生時代に読んで、その後も化学に関わる人生を送るうえで影響を受けた本を、いくつか紹介します。(こないだ、学生に聞かれた。)

地球持続の技術  小宮山宏(著)
理系白書     毎日新聞科学環境部(著)
深夜特急     沢木耕太郎(著)

あくまで、20年前の話ですからね、ご留意ください。

過去と現在、という意味で、ついでに、ここ数年で読んだ本で良書と感じたものも紹介しときます。

サピエンス全史  ユヴァル・ノア・ハラリ(著)
ももたろう    ガタロー☆マン(著)

以上

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