【ショート】ただいまの聞こえる日に。#2
僕がどうしてここにいるのか、正直なところよくわからない。美味しい食べ物は食べてきたし、散歩もボール遊びも充分にしたと思う。家族はみんなよくしてくれたし、今だって幸せそうだなと感じる。
「ロクはさ、みんなで食べているときはいっつもテーブルの下で寝てたよね。」
「きっと、寂しかったんじゃないかな。」
みんなと同じように、ご飯を囲んで食べてみたいなって思った時もあった。でも、別に寂しかったわけじゃない。なんとなく、囲んでいるような、一緒にいられるような、そんな瞬間だったから。僕はあの時間は好きだった。
今日は、とってもいい匂いがした。甘い匂いに誘われる。僕はこの「りんご」が大好物だった。酸味が少し、甘みとみずみずしさ。この食感がたまらない。さくっと噛むと、あふれる果汁がたまらなく好きだった。僕の写真の前にも置かれている。どうやって食べようか、模索してみるけどやっぱり触ることはできない。りんごを食べるために、ここにいるわけではないことが分かった。
それから、しばらくした時にようやくその理由が分かった。そう、その時のために僕はここにいたのだと。そして、その瞬間、僕は家族の一員に戻ることが出来た。嬉しさ半分、悲しさ半分。なんとなく、残っていた後悔が少しだけ解消されたようで、ここに居られてよかったと思った。
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