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【創作小説】最後の一週間。#4

 その日の夜、僕はすっと目が覚めた。夜中の1時半。普段は途中で起きたとしても、すぐに寝付けるのだが、やけに目が冴えていた。ポチは、今のところゆっくりと眠っている。しかし、若干の呼吸の荒さがあった。僕は換気をしたり、ポチを撫でたり、なんとなく寝れるまで起きていることにした。
 30分ほどして、ポチが目覚めた。正確には、呼吸がしづらく、顎を上げるために布団の方に移動した。前夜までと同じように、鼻詰まりに咳、本当につらい夜が始まった。母が抱き寄せ、呼吸を楽にしたり、腕に顎を置き、鼻詰まりを無くしたり…。食べたものを吐いたりもした。長い長い夜だった。「ズーズー。」「ズーズー。」
ポチのいびきが鳴りやまない。どうにかしたい、どうにかしてあげたい。何度も何度もポチを抱き寄せた。
「ポチ。ポチ。」 (もう大丈夫だよ…)
心の中で、ポチが苦しまないことを願った。

 夜の2時半を回った時だった。ポチはぐっと立ち上がった。吐いてしまうのかもしれない…僕は急いで、ポチの元に駆け寄る。リビングの隅を目指して、ポチは歩く。僕はそれを追いかける。ポチは止まった。そのまま、パタッと僕の腕に倒れこむ。
「あれ、あれ。あ…」
力がない。
「息してない…。」
分からない、何が起きているか分からなかった。母親が駆け寄り、そして父と兄を呼びにいった。ポチはもう動いていなかった。電気がつく。よく見ても、ポチは倒れこんだままだった。
「ポチ!ポチ!」
みんなで声をかける。
「ありがとうね、ありがとうね。」「頑張ったね、頑張ったね。」
涙が止まらなかった。ポチは息をすっとする。息が戻ったわけではない。まだ聞こえているだろうか。
「ポチ、君がいて本当に幸せだった。ありがとう。」
ポチはもう動かなくなった。

 長い長い夜はもう少し続く。ポチがいなくなって。12年ぶりにポチがいなかった、家族四人の生活に戻った。止まらない涙に、ポチの話。固まったいくポチの腕が伸びきる前に、腕を交差させる。氷嚢で冷やした。分からないままに、たんたんと作業をした。そして、みんなで、ポチを囲って、夜が明けるのを待った。

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