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『宇宙人アンズちゃん①』

あらすじ
はるか遠い宇宙のどこかの星。
家出と称して宇宙船を勝手に運転してしまい、地球の日本、
たこ焼きの美味しい大阪に行くつもりが、東京に不時着してし
まった宇宙人の女の子アンズちゃん(見た目は子供だが実は17歳)。
それをたまたま見つけたのが散歩中の小学5年生トモと絶賛引きこ
もり中の中二病の兄ナオキと愛犬マル(フレンチブルドッグ)。
時は世界があのウィルスのために完全自粛中でマスクを大量に買い
溜めしていた頃。両親には隠しながら自宅で同居生活を始めることになる。
大人っぽい宇宙人アンズちゃんと兄弟と一匹の友情と青春の物語。果たして
アンズちゃんを無事に宇宙の星に帰すことができるのか?また、アンズちゃ
んの秘密と地球に来た本当の理由とは?

第1星雲 地球外生命体との対話

時は2020年4月。世界はまさに大混乱の中にあった。
それまで感じたことのない恐怖と不安と圧迫感。
ウィルスは、接触することで人から人へと感染するらしい。
その名は、コロナウイルス。

小学5年生のトモが通う小学校も例外なく登校できずにいた。
「はーつまらない。どうして学校行けないのさ」
せっかくクラス替えして新しい友達と先生に会えると思ったのに、
たった一度始業式で会った時にはマスクで、先生も転任してきたばかりで顔が良くわからなかった。
「俺はラッキーだけど」
こちらは絶賛中2病で家に引きこもり中の兄、ナオキ。
原因は、どうやら部活でのいじめらしいと、母親から聞いた。
ただ、自動的に学校が閉鎖しているので引きこもりがいまいち周りに伝わらないまま始まったという、なんとも奇妙な引きこもりだけれど。

「なんでそんなにお前は学校行きたいの?」
「んー」
世界中がコロナウイルスに取り込まれて、人間たちの思考や正義が色々変わり、ニュースも連日感染人数やらどこどこで集団感染が発生したやらばかりを報道するので、精神的に参ってきていた。
学校で友達と話をしたり、笑ったり手をつないだり肩を組んだり給食で
机をくっつけることも「悪」とされているらしい。
「学校で、友達としゃべりたいよ」

出来なくなると、人間は無償にしたくなるものだ。
会えなくなると、人間は無償に会いたくなるものだ。

そして今、犬のマル(フレンチブルドッグ)の散歩中。
外に出て人と接触してはいけないと言われているが、
犬の散歩だけは公に許されるらしい。
「で、兄ちゃんはマルの散歩は行けるんだ?引きこもりなのに」
「今、この東京都港市小金町の道を歩いているのは、俺とお前とマルしかおらん!」
確かに、人の姿は見えなかった。
「そっか。学校の人には会わないもんね」
こんな平日の中途半端な午前中の時間に、散歩に出るとは思わなかった。
なんせ、本当だったら学校に行っている時間だからだ。
「なんだか、天下取った気分になるな」
兄ちゃんは少しだけオーバーに手を振ってガニ股で歩いた。
後ろ姿がとても滑稽だったので、マルと顔を見合わせて苦笑いした。
「あそこの、ナニヌネ公園周って帰るか」

ナニヌネ公園とは、子供たちがいつの間にか付けた俗名で
正式名称は『港市立第三公園』だ。
どうしてナニヌネ公園になったのかはわからないけれど、
ずっと前からそう呼ばれているし、正式名称で言っても、もう誰にも伝わらないほど浸透している名前だった。

当然、公園にも誰もいなかった。
しんと静まり返った公園は、本当に寂しそうで可哀そうだった。
「いつもは犬を入れちゃイケないけれど~、今日は入っちゃえマル~!」
兄ちゃんはとてもテンションが高かった。
マルも困惑しながらしっぽをブンブン振り回して楽しもうとしていた。

と。

何やら見覚えのない銀色の遊具が、光り輝いていた。
あんな乗り物、あっただろうか。
確か、乗り物系は枝豆みたいなのとエビフライみたいなのだけだったと
思うけれど。
「兄ちゃん、あれ、何?」

そう声を掛ける間もなく、マルが突進していた。
マルが匂いを嗅ぐ。お尻を上に持ち上げてしっぽを振る。
いつもはあまり鳴かないが、下手くそに一声鳴いてみせた。
「ファン」
鳴きなれていないから声の音程を合わせられずに、「ワン」を「ファン」と出してしまった。

プシュー。
間抜けな音と共に、その銀色の遊具の蓋が開いた。
慌ててマルを引き離す。
もしかして爆発物かもしれない。
だとしたら警察に届けなければならない。
兄ちゃんは、足だけは昔から早いので、あっという間に公園の出口付近に
たたずんでいた。
「おい、トモもこっち来い」
「う、うん」

「なんやなんやなんや。けったいなのが周りグルグルして、フガフガ言うて
勝手に驚いてそない遠くから見物しやがって。なんやのさっきから。失礼やで」
銀色の中から出てきたのは、幼稚園生くらいの女の子でした。
「名前くらい名乗ったらどうやの。こちとら、レデーやで。ナンパやったらお断りやからな」
そう言いながら、女の子はボクたちの方にずんずん歩み寄ってきた。
想像よりもかなり早いスピードだった。
「え、何?君、どうしたの?お母さんは?」
「はーいー?何言うてんの?お母さんは?て?なんやそれ。さっき言うたよな。レデーやで。先に名前を名乗れや」

兄ちゃんとボクとマルは、その小さなレデーの前で、直立不動で自己紹介をした。

「よし。そうかそうか。で、その喋り方やけど、どないしたん?」
女の子はアンズ色のポーチのようなモノから、飴のようなモノを取り出し口に放り込んだ。
「なんで、答えへんねん。人が質問しとるんやで、答えーや」
頭がバグって、どうしていいのか体が言うことを利かなくなったマスク姿の2人と1匹が、小首をかしげながら女の子をただじっと見つめている。
そんな、おかしな光景。

「だーかーらー。その喋り方は、どないしたん聞いとるんやで。なんもおかしなこと聞いとらん思うけどなー。それと、その白い変な顔隠してるやつは、なんや?」
兄ちゃんは、思い出したようにスマホを取り出して何やら検索している。多分警察を呼ぼうとしているのだ。
「この白いのはマスク。いや、喋り方って。普通だと思うけど」
「オモウケドー、て何や?それちゃうやろ。標準語は関西弁やろ。アタイかてちゃんと勉強してここまで来とるんや」
またアンズ色のポーチから何やらサイコロみたいな箱を取り出し、ボタンのようなモノを押した。

チャラララチャラ、チャラララチャラ、チャラララチャラ、チャ
ホンワカパッパホンワカパッパ、ホンワカホンワカ、パ
ホンワカパッパホンワカパッパ、ホンワカホンワカ、パ

「な」
な、と言われましても、ボクは何のことやらさっぱりわかりません。
「新喜劇や。アタイんとこではこればっかり見とるで。学校も、みな関西弁が標準語やー言うて教えられとんねん。あんたたちのけったいな言葉は、勉強しとらんからわからん」
どうしたものか。それこそ「けったいな」小さい女の子に巻き込まれてしまった。
その後も雄弁に語る関西弁についての熱き想いを聴きながら、ボクはなんだかめまいを起こしそうだった。
と、兄ちゃんがボクたちのそばに近づいて言い放った。
「もしかして、これ、UFOじゃね?」
兄ちゃんは警察に連絡しているものとばかり思っていたが、違っていた。
ずっと宇宙人について調べていららしい。
ポンコツだ。

「君、もしかして宇宙から来た?」

その言葉を聞くと、雄弁だった女の子は何かに囚われたかのようにぴたりと口をつぐんだ。
そして目を大きく見開き、視線をあっちにしたりこっちにしたりしながら、
伸縮性の高そうなスカッツをひっぱったりねじったりしてモジモジしている。

「これ、乗ってきた宇宙船。つまりUFOでしょ」
確かに言われてみれば銀色が濃い。輝きも違う気がする。
今の地球上には存在しない素材でできているような気がしてきた。
「やばい。バズるぞ、これは」
兄ちゃんは不適な笑みを浮かべて、女の子とUFOを撮影しようとした。
「それは絶対にあかん!」

手からアンズ色のビームのようなモノが発射された。
兄ちゃんのスマホが木っ端微塵になった。
「それは、それはあかん。人としてありえへん」
膝から崩れ落ちて天を仰いでいる兄ちゃんを横目に、
女の子は言った。

「ちょっとしたミスや。出来心や。家出したんや。朝から母ちゃんと喧嘩して頭きて、地球に行ってみたくて、それも大阪に行ってみたくて黙って父ちゃんの新船を操縦してきたら、関西弁を話さない違うとこ来てしもた。それだけでもダメージ負ってんのに、写真なんか撮られてバズって世界中、いや宇宙中に情報が流れてしもたら、アタイ、どうにもならん」

スマホの欠片を必死で集めている兄ちゃんの手元に、その子はもう一度ビームを当てた。
「地球は、こんなんも直せんの?つまんないわー。けったいやな、地球人は」
ビームを当てた欠片は、元のスマホに戻っていた。
「もう、アタイを撮らんでね。約束よ」
頭が地面に着くほど力強くうなずいた兄ちゃんは、少し距離を置いた場所から見守っていた。
「どないしよ。帰れへん。道迷てしもた。来た時は勢いで来てしもたけど、
星座とか目印にして宇宙地図も持たずに適当に来てしもたけど。どないしよ。今晩泊めてくれへん?」

こうしてボクたちは、宇宙人の女の子を家でかくまうことにした。

「そうだ、キミの名前を聞いてなかったね。なんて名前なの?」
「◎▽@%?〇●♡▲▲▲」
これが宇宙語か。初めてこの女の子を宇宙人っぽいと思った瞬間だった。
「ん?」
「◎▽@%?〇●♡▲▲▲」
「もういいや。スカートもアンズ色だからアンズちゃんね」
「なんや、けったいな名前やな。なんでアンズなんや。渋いなあ。ミカンとかでええやんか。ま、どうでもええけど」
それと、

「あんたらさっきからアタイのことずいぶん小さい子扱いしとるけども、
アタイ、地球で言うところの高校生やからな。セブンティーンや」

第2話 『宇宙人アンズちゃん②』|さくまチープリ (note.com)

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