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【大津市・九重味噌】甘みは当然、香りが命。無添加手作り「極上白味噌」の秘密に迫る。その3

その2はこちら。

さあ、糀の話、後半、行ってみよう。みんな、付いてきてね。

さて、九重さんは木葢で糀を作るのだが、その出来栄えがこちら。筋多めだね。

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美しいですね。

何が?
糀?と思った?

いやいやいやいやいやいやいやいや。甘いですね。(失礼)

木葢に敷いている布が真っ白!!!!!!

これです。私はここに感動しました。

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もう何年もお使いの、布。真っ白けっけ!!
よく考えていただきたい。この布はどんなところで使われていたか。

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湿度90%ですよ。カビが大好きな環境です。
軽く洗うだけでは、こういう白い木綿の布は糀の粉で目詰まりし、不衛生になり、すぐに真っ黒になります。

九重さん、この150枚(入れ替わるから300枚以上あると思う)の布、毎回熱湯消毒し、洗濯機で洗っているとのこと。これは、1度も揺るぎのない仕事だそうです。

そして見ていただきたい。

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この木葢。10年選手ですよね。証拠写真。

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綺麗すぎるでしょう、、、、、。

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私はすでに泣きそうなのである。でも、さらに、だ。次の写真はHPから拝借した。

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この写真を見たらわかるでしょう、糀を触るときは手袋をしていて、木葢1枚1枚丁寧に手入れしている。直接触らないことを、あえて選択しているのが九重味噌さんなのだ。

「できる限り綺麗な白味噌を作りたいですから。」

そして私がこうべを垂れざるを得なかったこと。もう一度上の写真を見ていただきたい。綺麗な壁でしょ???
よくある糀室は、こういう湿度ムンムン状態になると、黒くなり、くぐもった香りがしてくる。杉板張りの室、天井からポタポタと水滴が落ちてくるくらいの湿度なので、これはもう仕方ないのだ。でも。

「九重さん、この室、めっちゃ綺麗なんですが、どうしてるんですか?」「糀が出たら、アルコールで糀室拭いてますよ。薬剤などありますが、使いたくないので」

うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!

消費者の方は、「そんなの当然だ」と思われるだろうか。
これらを、10年もの間、続ける。しかも年中白味噌作っているので、毎日のように。
あなた、できますか?それでも白味噌は高いと言いますか?(というか100g140円は安すぎる)

おそらく、九重味噌さんも、さらに進化するにあたって、木葢を新調し布を使うことに決め、衛生を保ってきた。これはそんな簡単なことではなく、一緒に働く職人さんにも納得してもらわなければならない。私は知ってるんだよ。
伝統産業は、変化することに職場全体(もしくは家族でさえも)を巻き込むのが、とても難しい。

さて。話は変わって、糀の内容であるが。
九重味噌さんの糀は比較的高温経過。13時半に仕事して翌日の朝5時までは手を入れない。菌糸が外側に伸びるのを邪魔しないやり方だ。これは小さな木葢だからこそ可能な方法で、手入れを最小限にしても酸素供給がなされるのだと思う。そして最終品温が40度越えの時間を6時間以上はしっかりとり、糖化酵素が十分に出るように育てる。白味噌を作るための品温経過だ。

ということで、出来上がった糀を改めて見ていただこう。

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美しいですね。ありがたいですね。手を合わせましょう。

それを即日、塩と合わせて、お味噌を作るわけだ。と思ったら、横では、できたての糀を手作りで甘酒にしている。私に説明中にも、甘酒に気を配って温度を測っている九重さん。55度付近をキープ。

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ちなみに、年中白味噌を作っているので、年中できたての糀の販売をしているらしい。夏も糀を作るんだってさ!店頭で注文したら、糀蓋から袋詰めして持ってきてくれる。

そして白味噌は糀だけでなく大豆も大切だ。

白味噌の大豆は皮を剥くのをご存知だろうか。九重さんは脱皮機で皮をあらかた剥いて、徹底的に洗った上で、煮る。脱皮機使っても残ってしまう皮をできる限り取り除くためオーバーフローしながら、煮る。大豆は北海道産が良いそうだ。

「滋賀県産大豆も味噌作りに使用しておりますが、北海道産の大豆を白味噌に使うと、色といい、良いものができますね。綺麗な黄色ですよ。」

(この写真は白味噌用大豆ではないが、浸漬の様子。)

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いやあ、ほんと、手が込んでますよね、白味噌。

ここで注意しておきたいのは、九重さんの白味噌は、本当に素晴らしい。全国どこにも負けない品質だ。
でも、だからと言って、他のやり方がないわけではない。私は九重さんの仕事こそが絶対的だと言うつもりはないのだが、九重さんがイメージする物作りの緻密さとその継続性にただただ敬服してしまうのだ。確かに、そこまでしないと実現できない味わいがある。日本酒造りで言うところの「大吟醸」のようなイメージだ。緻密に積み上げる工芸品としての発酵も、日本人ならではかと思う。

さて、白味噌は普通のお味噌と違い、熱仕込みします。糖化に適した温度帯50~60℃で仕込み、専用の温醸庫に入れます。(画像はホームページより拝借)

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杉製の部屋の壁には新洋技研のプレートヒーター。それだけでは足らず家庭用ストーブで直接暖める。時々ストーブの向きを変えてやると言う。
「昔は仕込み量が多く桶が二段入っていたんですよ」

九重さんの白味噌はこの地域でのお雑煮に欠かせない。正月前は、量り売りを求める行列ができるくらいの大人気だそうだ。

その時に売れるのは、できたての白味噌。時期によっては出来上がってすぐのものが販売される。もちろん、その時のフレッシュな香りと丸い甘み、綺麗な後味も素晴らしいのだが、九重さんの本音はこうだ。

「実は白味噌はヒネたほうが間違いなく美味しいんですよね。旨みがものすごく乗るので」
ヒネるとは、しばらく冷蔵庫で置いておいた、熟成が効いた白味噌のこと。タンパク質分解酵素が豆を分解するのは多少時間がかかるため、旨みが出てくるのに時間がかかる。詳しくは以下のブログを読んでいただきたい。マニアックかつ実践的で、面白すぎる。

一つ注目のところを引用すると

『業務用で取引のある板場さんからは「碑ね(古い)ほうが美味しいから古いのを納品するよう」言われることがたびたびある』

と言うことなのだ。白味噌も本当に奥深く、そして取引をしていている料理屋さんの想いもまた素晴らしいではないか。

「創業以来磨き続けた」極上白味噌が看板の九重味噌さん。実はこのコロナ渦で業務店さんのお取引が激減していることをブログでも、そしてご主人からもお伺いした。飲食店さんが苦しいと言うことは、そこに提供している心ある生産者も苦しいのだ。
そして極上白味噌は無添加なのは訳がある。それは年中業務店さんに白味噌を卸しているからこそ、商品の回転が良く、日持ちのことをそれほど考えずに仕込むことができる。つまり無添加の白味噌を店頭でも買えるのは、飲食店・加工業者さんなどの商売がうまくいっているから、とも言えるのだ。

この状況をどうにか私たち消費者のタッグで、なんとかできないものかと思う。私はこうして記事を書くことくらいしかできないのが歯がゆい。でも、一人一人ができることが噛み合い広がれば、生産者に少しは希望が宿るのではとも思う。

店頭ではいろんな手作り味噌・甘酒・糀が売られている。

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白味噌の他に、淡色味噌も赤味噌も作っている。
「うちのは味噌臭くない、優しい味ですよ」


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それらをこうして量り売りしてくれるのだ。素敵。

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もちろん通販もやっている。

白味噌ではない1年熟成のお味噌に関しては今回割愛したが、すでに九重さんの素晴らしさはみなさんにお届けできたかなと思う。ぜひみんなで応援しよう。
京阪電車の浜大津駅から徒歩で行ける。

この素敵な暖簾が目印だ。

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3回に渡って書きました。最後まで読んで頂きありがとうございました。
九重さん、また白味噌を買いに行きますね。

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おおきに!!

(終)


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