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【本】新版 流れる星は生きている (偕成社文庫)

新版 流れる星は生きている (偕成社文庫)

藤原てい

第二次大戦の敗戦後、朝鮮に駐在していた3児の母である筆者が、一人で生後1ヶ月をはじめとした3人の子どもを連れて日本へ引き揚げる話。

とにかく壮絶の一言。何より衝撃なのは、敵は朝鮮人でもアメリカ人でもなくて、同じく帰路を辿っている、仲間であるはずの日本人ということ。

オムツの替えがなくて下痢をし続ける子どもたちに向かって「臭い、親はどんな教育をしているんだ」と罵倒してくる3人の娘を連れた親子。冬の山道を雨の中歩く場面で、筆者は生後1ヶ月の娘をおぶって幼い次男の手をひいているため、仲の良かった日本人である友人が「私が絶対に長男くんを北緯38度線まで責任を持って連れて行くから」と言って安心したのもつかの間、下半身が裸で山の中に置き去りにされていた話。

生き延びるための、それまで専業主婦としてのほほんと暮らしていた筆者の変わりようもすごい。「はじめて子どもに汚い言葉を使ってしまった」と嘆く冒頭に見られるように上品な印象の冒頭だが、終盤には「死ぬんじゃねえぞ!」と疲れと空腹で泣き続ける長男の尻を叩きながら、意識が朦朧とする中、ひたすら北緯38度線に向かって、膿んだ足に靴を縛り付けて、次男の手を引き、娘を背負って歩いていく。

戦争で活躍したわけでもなし、実際に誰かを亡くした悲劇でもない、ただの生き延びた人の話だが、とにかく胸を打つ。親になった人にぜひ読んでほしい本。

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