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あなたの町は、何色ですか?

衣食住の「住」とは、狭義には部屋という箱を指すが、広義には町のことを指すのかもしれない。

私は今住んでいる町に越して早二年が経つが、それなりに気に入っている。
都心で交通の便も良く、生活に必要なものは手に入り、その上、近くには大きな公園がある。
お洒落でおいしいカフェやレストランも沢山あるので、週末は他所の街から沢山の人が訪れる。

でも、二年以上経ったある時、全然知らない道を見つけた。
それも、家から6分ほどの道で、この辺りは把握している、と思っていたエリアにあった。

はて、こんなに良いカフェやレストランを、私は二年以上も見逃していたのだろうか?
ひとまずその日は、外観の美しいバー・レストランに入ってみることにした。


新しい町へ引っ越す時、人は何を考えて選ぶのだろう。
職場までの距離、駅までの距離、スーパーやドラックストアなどでの生活用品の入手しやすさ、公園などの緑、スポーツ施設…。
加えて外せないのが、土地の価格や治安、行政サービス。

そうして選んだ、条件の整った町に、全ての人が馴染めるのだろうか?
町の一部として、気付いたら同じ空気に染まっているのだろうか?

あなたの町は、何色ですか?

ふとこの問いを考えた時、私の頭に思い浮かんだのは「灰色」だった。
コンクリートが多いからか?
いや、それを言うなら日本のほとんどの都市は灰色だ。
しかし、確かに私にはこの町が灰色に見えていた。
気に入っているというのに。


私が新しく見つけたバー・レストランは、高級感のあるインドネシア料理のお店だった。
奥のバーカウンターはライトアップがしてあり、そこだけクラブのような雰囲気が漂っている。
テーブル席側は、沢山の写真やヤシの木に囲まれ、キャンドルの光がリゾートホテルを思わせる。
仕事の男の人たち、初デートらしき若いカップル、中年の夫婦、私のように一人で飲みに来る者と、様々な人で溢れていた。

一人だったからか、テラス側の席へ通され、自家製の柑橘系ジントニックとピクルスを頼んだ。
昔住んでいた東南アジアや、コロナ前の旅先を思い出してなんだかとても懐かしい。
店沿いの通りは交通量が多く、窓を開け放すのには向いていなかったが、その喧騒がますます東南アジアを彷彿とさせた。
そう、私はこれを求めていたように思う。
なんだかとても、しっくりくる。


街には空気というものがある。
新参者は、街の空気に染まるのか、初めから自分に合う空気の街を選ぶのか。
はたまた、自分だけの空気をダイビングの様にして、固い殻の中で注意深く吸うのか。

しかし、同じ空気を吸っても見える色は人によって多様である。
水の重みでよどんだ空気も、切れるように冷たく乾いた空気も、見える光の角度で、渋い藍色にも明るいライムグリーンにも変わる。

魔女の宅急便の主人公、キキは最後にこんな台詞を残している。
「落ち込む事もあるけれど、私この街が好きです。」
キキの街は、何色から何色へ変わったのだろう?
思うに、つんと澄ました薄茶色が、淡いオレンジになったのではないだろうか?


あなたの町は、何色ですか?

私の街は…
灰色に、薄いブルーの蛍光色を混ぜる、といったところではなかろうか。
イカのフリットをお供に、2杯目はピニャコラーダを楽しみながら、何となくそう思った。

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