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多様化する市場における競争相手の役割を認識する

松下幸之助 一日一話
10月21日 競争相手に学ぶ

今日、たとえば企業などにおいて、非常に力もあり、立派な経営をしている相手と競争していくというような場合、ともすれば、困った、大変だと考えがちではないだろうか。しかしこれは「相手の経営のいいところは大いにとり入れてやろう。また、こういう相手と競争していくのは一面大変だけれども、同時に非常な励みにもなる。結局自分のところの発展にプラスになるのだ」と考えたらどうだろうか。そうすれば、相手の良さも素直に呼吸でき、さらに心ものびのびとして、相手に負けないような知恵もでてくるかもしれない。

指導者は、競争相手からも学ぶ心構えが大切だと思う。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

市場における消費者ニーズの多様化に比例するかの如く、市場構造も多様化している現状において、「競争相手」に関しての定義は大きく変化してきていると言えます。

消費者ニーズが十人一色であった時代ならば、企業は事業を一つの市場に注力してさえいれば安定した利益が得られていたため、各市場におけるシェアが単純な縦割りの分かりやすい構造になっていました。しかし、消費者ニーズが十人十色、更には、一人十色となるにつれ、企業もまた一つの市場のみならず複数の市場をまたいだ形の事業構造を取るようになってきました。

例えば、コンビニエンスストア事業のセブン-イレブンが畑違いのセブン銀行という金融市場に参入することで、現在では金融関連事業による収益、利益共に国内コンビニ事業の1/5までに成長し、事業資産では金融関連事業が国内コンビニ事業を上回っている状態となっています。具体的には、2019年2月期の国内コンビニ事業における営業収益は9,554億円、営業利益は2,467億円、事業資産1兆1,477円。同期の金融関連事業における営業収益は2,150億円、営業利益は528億円。事業資産1兆5,150円。(※参考 セブン&アイHDのHPより https://www.7andi.com/ir/financial/segment.html )

この市場構造の多様化が意味することを分かりやすくするために少しオーバーに表現するならば、例えばセブン-イレブンはコンビニ事業では利益が出ない状態であったとしても、金融事業で大きな利益を出せれば事業の存続が可能になります。これは、企業が複数の市場に事業を展開することで、利益の源泉が大きく変化したことを意味します。この場合、コンビニ市場においては、コンビニ事業のみを展開する企業とコンビニ事業プラスαの事業を展開する企業では、「競争相手」の概念が従来のものとは大きく異なってきます。

仮に、金融事業が真の利益の源泉であるならば、コンビニ事業における競争相手はむしろ金融事業への入り口となる市場を拡大させることに協力してくれる企業という位置づけにもなり得ます。

翻って、市場構造が多様化する以前の従来型の単一の市場構造において考えるならば、製品やサービスのライフサイクルが、導入期から成長期にある市場ならば競争相手は市場の成長率を高めることに貢献してくれる存在となり、市場の拡大が止まる成熟期から衰退期では競争相手はシェアを奪い合うだけの存在となってしまいます。

更に、BCG(ボストンコンサルティンググループ)の市場成長率と相対マーケットシェアをマトリクスにしたPPM(ポートフォリオマネジメント)からは、市場成長率の状況により相対マーケットシェアを左右する競争相手は、その存在価値が異なってくると言えます。例えば、自社の新規事業で、導入期から成長期にある製品やサービスを提供する事業の場合、設備投資などのキャッシュアウトは増加するがキャッシュインは小さく問題児のポジションとなります。市場成長率が高い状態ならば、競争相手による相対マーケットシェアへ影響は小さくなり、むしろ市場成長率を高める戦友企業とも言えます。

加えて、コトラーの競争地位別の戦略では、自社の事業がどの競争地位にあるかによって競争相手の捉え方は変わってきます。例えば、自社の事業がフォロワーの地位にあるならば、戦略目標である製品開発コストを抑え、高収益を達成するために必要となる模倣の対象であるリーダー企業の存在は、競争相手ではなく教師企業であるとも言えます。

ピーター・ドラッカーは著書「マネジメント」(1974)において、アルキメデスの言葉を引用し「私に立つ場所を与えよ。そうすれば世界をもちあげることができる」企業はどこで何をするか、だれを顧客にするのかを正しく定義さえできれば、必ず成功すると述べていますが、指導者が企業におけるポジショニングをきちんと把握し認識することで、競争相手に対しての捉え方は大きく変化してくるのであると私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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