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日本人としての自覚と誇りを見直す

松下幸之助 一日一話
11月 3日 日本人としての自覚と誇り

“国破れて山河あり”という言葉があります。たとえ国が滅んでも自然の山河は変わらないという意味ですが、山河はまた、われわれの心のふるさととも言えましょう。歴史に幾変転はあっても、人のふるさとを想う心には変わりはありません。この国に祖先が培ってきた伝統の精神、国民精神もまた変わることなく、お互い人間の基本的な心構えであると思います。

われわれは日本という尊いふるさとを持っています。これを自覚し誇りとし活動する、そこにはじめて、お互いに納得のいく動きが起こるのではないでしょうか。日本人としての自覚や誇りのないところには、日本の政治も経済もないと思うのです。

https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/founders-quotes.html より

松下翁は、「日本人としての自覚と誇り」に関して、言葉を換え以下のように仰っています。

花が散って、若葉が萌えて、目のさめるような緑の山野に、目のさめるような青空がつづいている。身軽な装いに、薫風が心地よく吹きぬけ、かわいい子供の喜びの声の彼方に、鯉のぼりがハタハタと泳いでいる。

五月である。初夏である。そして、この季節にもまた、日本の自然のよさが生き生きと脈うっている。

春があって夏があって、秋があって冬があって、日本はよい国である。自然だけではない。風土だけではない。長い歴史に育まれた数多くの精神的遺産がある。その上に、天与のすぐれた国民的素質。勤勉にして誠実な国民性。

日本はよい国である。こんなよい国は、世界にもあまりない。だから、このよい国をさらによくして、みんなが仲よく、身も心もゆたかに暮らしたい。

よいものがあっても、そのよさを知らなければ、それは無きに等しい。

もう一度この国のよさを見直してみたい。そして、日本人としての誇りを、おたがいに持ち直してみたい。考え直してみたい。
(松下幸之助著「道をひらく」)

松下翁は日本人の優れた伝統精神として、大別すると「和を以って貴しと為す」、「衆知を以って事を決す」、「主座を保つ」の3つであるとしています。つまりは、平和愛好の精神、民主主義、主座を失わずに外来のものを消化吸収し日本化する力となります。

他方で、アニミズムを起点とした視点から、この国に祖先が培ってきた伝統の精神や国民精神を鑑みるならば、日本の仏教が大きく発展した鎌倉仏教の礎である平安時代の終わりの「天台本覚論」の思想にあると言えるのではないでしょうか。天台本覚論では以下の考え方が基本になっています。

「山川草木悉皆成仏(さんせんそうもくしっかいじょうぶつ)」

山や川も、草や木も、すべて成仏する。動物はもちろん、植物や鉱物、山や川まで仏性を持っていて、仏になれる。生きとし生けるものはすべて共存するという考え方です。

仏教発祥のインドでは、動物に仏性はあると考えますが、植物や鉱物、山や川に仏性があるとは考えないそうです。仏性があると考えるのは中国の一部と日本しかないそうです。哲学者の梅原猛さんは、日本には他国とは異なる素晴らしい自然があったためこの考え方が一挙に広がり根付いたのではないかと仰っています。

植物や鉱物、山や川にも仏性があると考えることで、そこから多くの学びを得ることが可能になります。私たちの祖先は、美しい日本の自然から多くのことを学び、それを精神的な支柱とすることで、他国とは異なる優れた国民的素質が生まれたのではないでしょうか。人間の力の及ばない大自然は、畏敬の念を抱かせ、それと同時に謙虚さを生み、勤勉にして誠実な国民性を培う礎になったのではないでしょうか。

ボーダレス化が進み多様化が求められる時代において、日本人が国際社会で生き抜くためには、もう一度日本人が有するナショナリティを見直し、それをコアコンピタンスとして私たちが共有していくことが不可欠であると私は考えます。


中山兮智是(なかやま・ともゆき) / nakayanさん
JDMRI 日本経営デザイン研究所CEO兼MBAデザイナー
1978年東京都生まれ。建築設計事務所にてデザインの基礎を学んだ後、05年からフリーランスデザイナーとして活動。大学には行かず16年大学院にてMBA取得。これまでに100社以上での実務経験を持つ。
お問合せ先 : nakayama@jdmri.jp

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